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86 戦乙女

十重二十重とえはたえの魔獣に対し、森の住人たちは持ち場の守備に全力で当たっている。


「ったく!弾がなくなる!」


アーネが悔しそうに唇をむ。

弾丸を撃ち尽くしてしまうのも時間の問題か。



彼女たちが黒玄覇王国から帰って来たのを待っていたように、連日魔獣が拠点を狙って襲撃を続けている。

ユーセもフェアも別の持ち場で、連戦続きで疲弊ひへいしてきている。


「後方からも何かが迫ってきます!」

「な!黒玄が裏切ったの!?」


フェアの気がそれた隙に魔獣土蜘蛛が迫る。


「しまっ!」


彼女が死の覚悟した、次の刹那、その上を何かが飛び越し、土蜘蛛を盛大にぶっ飛ばした。


「お、ま、た、せ~♪」

「だ、だれ??」


言いながら巨大な盾を振り回して、わらわらと集まってくる魔獣を当たるを幸いぶちのめす!

土蜘蛛の突進が止まり、盾を持った君乃をじりじり包囲し始める。

呆気にとられるフェアを更に追い越し叫ぶのは桜太夫。


「おきみ!無茶ですわ!」

「だーいじょうぶ!」


桜太夫と君乃の連携は、包囲する土蜘蛛の軍団を圧倒する。


「貴女がフェア様ですわね?」


長大な鍵爪を振るいつつ、桜太夫が視線を寄越す。


「は、はい!」

「わたくしは桜太夫ですわ!助太刀いたします!」

「わたしは君乃ですっ!」


魔獣の攻撃は巨大な盾で防ぎ、その反動を使って薙ぎ払い、突き出して次々撃破して行く。

土蜘蛛は後退して、今度は蜥蜴とかげが突進してくるが、こんどは太夫が前に出る。

蜥蜴魔獣の脳天をカチ割り、引っ掛け、目つぶし、引き裂き、縦横無尽の暴れっぷり。

敵の突進が止まるや、君乃の盾がもの凄い勢いでその先頭を押しつぶし、その衝撃は波のように敵の群れ諸共に消し飛ばした。


「ここはお君に任せますわ!」

「お義姉様ねえさまはアーネさんのところへ!」

「よろしくってよ!」


やっと我に返ったフェアは、君乃と共に守備隊を率いて残敵を討つ!



「あーーーもーーー!!!!」


残弾が底をつきそうになった時、敵包囲網の圧力が急に緩くなった。


「アーネさん!お待たせですわ!」


その声に彼女はどっと肩の力が抜けた。


「来てくれたのね!」

「お邪魔でしたかしら?」

「いえいえ、助かったぁ♪」

「それは宜しゅうございました」


既に桜太夫の得物は鍵爪から二本の太刀に代わっていた。

舞うがごとく

とは、桜太夫の剣戟を言うのだろう。

絵面は土蜘蛛のとげとげした四肢が体液を振りまいて斬り飛ばされ、赤い八つの目を持つ頭部が真っ二つ、とか凄まじいの一言だが…

太夫に目を向けると、左手に持たれた分厚い太刀と右手の細い長剣が、

あるいは刺突、あるいは斬撃、薙ぎ払うかとみれば 轟! と直上から断割り、そのまま曲線を描いて斬り上げる!


「ひっさびさにみるけど、ほんっと綺麗だよねぇ」


いまは桜太夫の援護に回っているアーネは、残った銃弾を装填しながら見惚れていた。


「アーネさん、手がお留守ですわよ♪」

「はーい、ごめんあそばせぇ♡」


片手で器用に銃架を使いながら、後方の残敵を狙撃して行く。

形勢は完全に逆転していた。

包囲する大群の勢いが、桜太夫の戦線介入で完全に止まり、そして押され始めていた。


ぐわぁああん


巨大なものが横合いから突っかけてきて魔獣を押しつぶし、弾き飛ばして混乱させる。


「お君!」

「お義姉様!推して参ります!」

「あっちは片付きまして?」

「もう完璧です」


フェアまで来ていた。

こうなっては主導権は守勢だった森の住人達に移っていた。


「さぁ!行きますわよっ!」


更に元気になった桜太夫が一閃すると、群れていた数十の敵がまとめて寸断されている。

嬉しそうに巨大な盾を振り回す君乃とともに先頭に立って、土蜘蛛・蜥蜴の魔獣を蹂躙じゅうりんする。


独壇場どくだんじょうだ。


アーネの援護射撃、フェアの強弓が弾き絞られて一度に数本の矢が射ちだされ雨のように降り注ぎ敵の後方を削いでいった。




「な、なんだ?」


ユーセの隊は孤立してしまい、全滅を覚悟しはじめていた。

が、圧倒していた敵の魔人どもが、急に浮足立ち、圧力が目に見えて減退した。


「フェアの持ち場方向から援軍です!」


部下の朗報が自軍を勇気づける。


魔人の包囲していた陣営に、逃走してきた土蜘蛛・蜥蜴が乱入。

そのほころびに、きりみこむ様に桜太夫と君乃が突入し、押し広げ、そこへ森の住人達も参戦、奮闘する。

一度混乱すると収拾がつかなくなる。

なまじ知能がある分厄介だ。

魔人たちは、その圧倒的な勢いに対すると囲みは崩れ防戦を余儀なくされ、そこに怖気を感じ腰が引け、生存本能が刺激される。


ユーセも潮目が変わったこの時を逃さず、総力で打って出る。

挟み撃ちの格好になり、勢いが増すと、もうそこに強敵はいなくなった。


フェア達の放つ矢が敵の左右両翼を削ぎ落した。


ふっと桜太夫が圧力を弱め、小さな隙間を故意に作った。

魔人はそれに気づくと、その隙間に向かって逃走を始めた。

君乃も同じく退路を作ってやる。

魔人も魔獣も、その生存本能に従って退路に駆け込み、同じ魔獣、魔人であっても踏みつけ押し合い、我先われさきにと逃げ出していた。




「おとといきやがれっ!」


森の住人の誰かが嬉しそうに逃走する敵をからかった。


「助かったよ」


ユーセが無精髭ぶしょうひげをざりざり撫でながら笑った。


「これで少しは時間稼ぎが出来たと思いますわ」


桜太夫はニッコリ笑った。

フェアは君乃とアーネをねぎらう。


「さて、それじゃ、本拠へ案内させてもらうよ」

「ありがとうございます」


ユーセは森の住人にいくつか指示を出して、彼女たちを湖の本拠へ案内するために歩き出した。






【続】

たまには戦闘シーン(笑)

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