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85 神都騒乱

シャガラの声にその場の全員が凍り付いた。


「ま、じん…」

「間違いありません」


シャガラは確信をもってそう言い切った。

この場のだれも本当の魔人は見ていなかった。

以前にあったドーマ侵攻の時、赤龍神国は全くと言ってよいほど無関心だったのだ。

赤龍神国は領域侵犯されることなく、ドーマは魔獣・魔人を引き連れ、朱雀、黒玄の一部をかすめる様に北上して新皇国を縦断して黒翼山脈の戦場に至った。

従って、赤龍神国内でその姿を目撃した者は多くない。


「シャガラ殿、何故知っている?」

「その頃、私は布教活動の為に、新皇国と朱雀の国境付近に遠征していました」

「!」

「覚えておいでですか?タクシャ殿は直ぐに本国へ引き返しましたが、私は戦地の傷病者救済のために残っていました」

「くっ…」

「その時、魔人も魔獣も、後方の非戦闘員だろうと傷病者だろうと構わずに…」


彼女の脳裏には、あの時の悲惨な状況が真っ赤に血塗られた記憶として刷り込まれていた。


「彼らが魔人・魔獣と同じ穴のむじなであるなら、決して手を結んではなりません」

「な! 今更な!」

「タクシャ殿はこのことご存じだったのですか?」

「いや…魔人、とは知らなかった…だ、だが!状況証拠でしかないではないか!全く別物かもしれない!」

「そんな都合よく、というか、そんな偶然があると、本気で思っているのですか」


タクシャ自身、魔人と例の使節は同じところから来ていると感じていた。

だが、それを認めることは自分の致命的な過ちを認めることにつながり、次席枢機卿の地位すら危うくなる。


認めるわけにはいかなかった。


シュラは外務卿、海軍卿とともに、ジッとタクシャの反応を観察していた。


「タクシャ、奴らと何を約束した?」


筆頭枢機卿はタクシャに詰め寄る。


「何も約束などしていない!」

「赤龍信仰を大陸に広める手助けでも提案されたか?」


タクシャは拳を握りしめ立ち尽くす。


「確かに物的証拠はなにもない。だが、この破壊工作員が魔人ならば、先の閣議決定は今一度審議が必要と考えるが、如何か?」


外務卿の発言に海軍卿が頷く。


「いずれにしても密室の議論はしない方がよかろう。明日さっそく神王陛下へ奏上の上、再審を提案する。よいな」

「…」


タクシャはうつむいたまま沈黙を貫いた。




マナシはわらう、どこまでも暗く残忍に三日月に裂けた口で…


アナヴァにどうでもよい、小煩こうるい小言が増えた。

シャガラの煮え切らない態度も目障りだ。

シュラの上から目線はもっとかんに障る。


「タクシャめ、魔人を見て怖気おじけづいたか?」


彼は自分のもった権能を遺憾いかんなく使う。

いま、彼の目の前に神護衛士3大隊の長が揃っていた。


「今こそ、政務方を打倒し、神王陛下の目を覚まし、信仰のチカラを示すときだ」

「「「仰せのままに」」」


日付が変わったばかりの宵闇にそぐわない軍靴ぐんかの音。

一大隊が神殿の中に散って、シュラ、アナヴァ、シャガラの邸を急襲した。

一大隊は王宮へ向かってこれを占拠し、神王陛下を外部から隔離する。

残る一大隊は、更に隊を割って海軍卿、外務卿の屋敷を包囲を画策。

これに呼応して陸軍が動き出し、神都の要所を鎮圧に動き出す。


「あーー、やっぱりこういう展開かぁ」


ユミンは神都が一望できる時計塔のてっぺんで苦笑した。

神殿敷地内から白い細い光が打ち上がった。


「シュラさんとアナヴァさんは脱出成功っと」


遠く剣戟けんげきの金属音が聞こえる。

異常を察知した警邏衛士と神護衛士とで街区内で衝突が起こっているようだ。

神都占拠を狙った陸軍師団が、逆に海軍海兵隊に各所で包囲されている。


「海軍さんも動き出してるねぇ♪」


ユミンのもとに雪村が現れた。


「怪我はなぁい?」

「大丈夫。我が身大事の約束は守ってる」

「そうそう。で?」

「海軍卿が海兵連れて神王陛下護衛に王宮に布陣して、待ち構えている所へ神護衛士が突っ込んだ感じで、こっちはOK」

「外務卿は軍船に、家族と一緒に退避済よん」

「シュラさん、先読み凄いね」

「あの人は神殿枢機卿ってゆーのがぁ、そもそも違うと思うのぉ。どっちかって言いうと、軍人向きかなぁ」

「そんな感じだね。圧が半端ないし」

「まぁ、元々は探検家だし、神護衛士隊の総長職だったしぃ♪」

「それ聞いた時、納得しちゃった」

「でしょ~♪」


そこへヒギリの気配が増えた。


「ど~お~?」

「問題ありません。むしろシュラ様は嬉々として神殿内部の神護衛士をぶん殴ってます」

「あーーー、ストレスあったもんねぇ」

「ですか…」

「アナヴァさんやご家族は大丈夫?」

「問題ありません。父もその部下の衛士も、不意さえ突かれなければ対処できます」

「それじゃあ、避難じゃなくて…」

「鎮圧してます…嬉しそうに」

「あ、そっちもストレス発散系?」

「です」


やがて水平線に朝日が顔を出す。

その頃には大勢は決していた。


マナシ主導の軍事暴発は、街に陽光が差す頃には片付いていた。


「で、タクシャはどうしました?」


シュラがアナヴァに確認する。


「ふん、自分の屋敷で震えておった」

「マナシは?」

「身体中から妙な黒いもやが出てきて、そのままぶっ倒れたというので、牢に放り込んだ」

「黒い靄、ですか…」

「黒い球体になって、どこぞへ飛んで行ったという報告があった」

「その辺は調査が必要ですね」

「それにしても動きが速い」

「準備は出来ていましたので」

「それは…」

「いえいえ、神殿への対抗ではありません。命令系統を神王陛下、海軍卿と共に手直ししていました。そして、破壊工作員を捕縛した時点で最悪のケースを想定して準備していました」

「最悪と言うと?」

「市街地の爆破と共に、攻撃される可能性もあると想定していました」


アナヴァはしれっと言い放つシュラに、人の悪い笑みを送った。


「そういうことにしておきましょう」

「明日…というか、本日は神王陛下へいろいろ奏上、ご裁可いただくことが多いです」

「ま、もうひと踏ん張りしてから休みますかな」

「お身体、ご自愛ください」

「ほほ、どの口が言うのやら」


ふたりは同じ穴の狢かもしれない。







【続】

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