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82 赤龍神国

下町の入り組んだ道を逃げる者、それを追う者。

昼日中からの追いつ追われつ。

追われる者は勝手知った街路から、路地に何手かに分かれて走る。

追う方も詳しいのか、舌打ちしながらもつかず離れずなかなかしつこい。


「この先に追い詰めるぞ!」


行く手が袋小路なのを知っているように、追う者は獲物を追い詰めて行く。

一方の追われる方も、それはわかっているのかなかなかに手強く、道から外れて建物や階段、あらゆる障害物を逆手に取って追手を引き離そうとしている。

追手は手に武器を持っている分、立ち回りに少しずつ遅れと疲れが見える。

追われる方は、早々に得物を放棄して逃走だけに全力を傾けているようだ。

その目の前に追手と同じ服装の数人が待ち受けていた。

だが、追われる者は待ち受けられている者を素通りしていった。

お互いのアイコンタクト。

どうやら仲間のようだった。

待ち受けていた者のひとりが背後の扉を開くと、そこへ走りこむ。

すかさず扉を閉めて、彼らは反対方向へ走り出す。

追う者と待ち受けたものが鉢合わせすると、向こうへ逃げた!と叫び、追手を巻き込んで行った。


酒場に灯がともり、三々五々、労働者や仕事を終えた文官たちが集まってくる。

アルコールがそうした人々を酔わせると、場は喧騒で隣に座る者の声すら聞きにくくなってくる。

カウンターの隅に陣取った男ふたり。


「どこから漏れたか、わかったか?」

「ああ、見つけた。治癒神官に嫁さんを治さないと脅されたらしい」

「あいつら…」

「俺達だって赤龍神を信仰してる。けど、神官連中…特に上の連中は」

「それ以上は止めとけ」

「けど!」


バーテンダーが目くばせしてきたので、興奮する若い男を年長の男がなだめた。

新たに入ってきた男女を視界の隅にとらえ、年長の男は若者を奥のボックス席に行かせた。


「危ない所だったな」

「間一髪でしたね」

「助かった。ありがとう。赤龍の加護に感謝を」

「「加護に感謝を」」

「にしても、神護衛士じんごえじまで出て来るとは思わなかった」

「それは俺達、警邏衛士けいらえじにしても同じだよ」

「上の方々はそれだけ潰したいのでしょう」

「評議会もヤバいか」

「かもしれない」

「一応、警護はつけましたが、神護衛士には…」

「だろうな。どうしたもんか」

「向こうの対応が早い」

「一度、地下へ潜った方が安全かもしれませんね」

「しかしそうすると…」

「逆に評議会メンバーを絞られるかもしれない、か」

「ああ」


赤龍神殿、赤龍神国は現在、国民の見えないところで揺れている。

そもそもが神殿のチカラが強く、国家元首が神王と呼ばれている。

神王は血縁で決定されるが、政治的なチカラはほとんどない。

とはいえ最終決定権者であり、すべての政策・外交・国家施策は神王の承認を得なければならない。

神王の指名による閣僚、神殿筆頭枢機卿と民意反映の為に評議会議長が合議する。

神殿は筆頭を含む五名の枢機卿の合議制。

評議会は神国内三十地区から三名ずつの代表が集まって、それぞれの地区の課題等を持ち寄って税や施策の提案を関係閣僚などに上申する。


武力に関しては陸・海二軍に分かれており、両軍の大将軍が神王の直轄。

神国内各地区に地区警護軍がいるが、これは軍直属となっている。

他に神都警備の警邏衛士、王族警護の近衛衛士、神殿直轄の神護衛士が存在する。

犯罪取り締まりは警邏衛士の職掌しょくしょうだ。


「神殿のチカラが強すぎて、王権も国策も神殿の意向が最優先。専横が過ぎる」

「みんなわかっているけど、逆らえないわ」

「表立って反抗すれば…」

「だな。 で、神護衛士の方は?」

「士官のうちお二方はこちらに同情的です」

「まぁ、そうはいっても行動に移すのは、なかなか難しいって話だ」

「軍の方は?」

「やはり陸軍は神殿側です。海軍はこちら側なんですけど」

「そこは変わらんだろうな」


三人は溜息をついて、目の前のグラスを傾けた。




深いため息はこちらでも同じだった。

神王の控えの間に外務卿、海軍卿、評議会議長、神殿筆頭枢機卿が暗い顔をしていた。


「あのようなこと、危険ではないか?」

「神王陛下へ奏上そうじょうはできません」

「陛下はなんと?」

「今はまだ…」


外務卿、海軍卿、筆頭枢機卿の問いかけに、神王の私的側近である執務長が首を振った。


「確かに軽々に決められることではない、が」


評議会議長は瞑目めいもくした。


「大陸を割るようなものだぞ、あのようなことは」

「我が国が大陸を支配する絶好機と捉えるやからがまだいた…ということ」

「他国はどうなっていますか?」


海軍卿、筆頭枢機卿は怒りすら感じられる口調。

評議会議長が外務卿に尋ねた。


「まだ確証とまでは行きませんが…北国三国、中央二国は足並みが揃っております。大道もそれに準じた方向性を感じます」

「覇王国、朱雀、三碧は?」

「どうやらまとまりそうです…」

「まとまるとは?」

「北国・中央の五国と、という意味です」

「我が国だけですか…」


評議会議長は暗澹あんたんとした表情。


「それにしても、あのような素性の知れないモノの提案を受けるとは…同じ神殿に仕える者として恥ずかしい。私に対する反感がそうさせている側面もあります。私の不徳の致すところです」


筆頭枢機卿の目の下の隈が痛々しい。




「どなたですか?」


その夜も更けて、筆頭枢機卿シュラは部屋に気配を感じて目を覚ました。


「お~ひさぁ~♪」

「これはこれは、夜中のご訪問ですね」

「いろいろ見て来たけどぉ、大変そぉ~ねぇ」

「そう思うなら助けてください」

「びっくりしたよぉ、まさか赤龍神殿のお偉いさんになってるなんて思わなかったしぃ」

「成り行きですよ…最年少、女性で筆頭なんて、やっぱりなるもんじゃないです」

「人徳でしょ?」

「どうだか…」

「なんで隠してたのぉ?」

「別に隠してなんかいませんよ?聞かれなかっただけです」

「あれ?そーだったぁ?」

「そうですよ」

「でも、あたし的には好都合♪」

「また、何をしでかすお積りですか?」

「人聞き悪っ!」

「ひっかきまわすの、お得意じゃないですか」

「あーーー、否定できない自分が悲しいわぁ」

「ぜんっぜん、悲しそうじゃないですよ」

「あははは~♪ だいぶ戻ってきたぁ」


ユミンの話術と雰囲気に、シュラは久しぶりに和んだ気がした。


「どうして我が国に?」

「いろいろあんのよぉ、あたしだって!」

「……」


探るような目になったシュラに、それでもユミンはゆるゆるの表情を崩さない。

更に眼光が鋭くなる。


「衛士を呼びますよ?」

「あーー、それは勘弁かなぁ」

「じゃあ、何しに来たか教えてください」

「昔馴染みだしねぇ。変わってなさそうだし、いっか~♪」

「あのねぇ…」

「この国の内情、探りに来た、かな?」

「ちょ!」

「うふっ♪率直にお答えしましたぁ」

「率直すぎる!これでも私、筆頭枢機卿よ?!」

「うんうん」


シュラは一気に脱力した。

そんな彼女にユミンが踏み込んだ。


「国が割れそうねぇ」


シュラは改めて姿勢を正した。


「ええ、そうよ。今はまだ拮抗きっこうしてるけど、声がでかくて威勢のいい方が、いずれ主流になってしまいそう」

「来たの?」

「来た?」

「南から、変な奴」

「それも知ってるのか…そうよ。それにそそのかされて、調子に乗りそうなのがたくさんいるわ」


シュラは四人の枢機卿の顔を順に思い出していた。





【続】

ユミン、大活躍~♪

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