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80 凍土の涙

公王への謁見、会談を終えて、タク達はタイガの傭兵団を引き連れて北辺へ向かっていた。


「無理しなさんなや」

「もう大丈夫です。それに墓も作ってやらにゃいかんですし」


あの夜、巨大蜘蛛の魔物が突如現れ、そこにあった集落を席巻、全滅さした北辺の調査に来ていた。

当初、タクと彩姫に案内人の数名だけで行くはずだったが、タイガも蘭も一緒に行くと主張して譲らなかったので、仕方なく同行を許した。

目の前で友や家族が蹂躙された経験を、傭兵団全員がしていたから、タクは同行を渋ったのだ。


「もうすぐです」


二回野営をして、最初の村に到達した。

村はいくつも連なる山に沿って、役割ごとに寄り集まって出来ていた。

食料は細々と寒冷に強い品種の芋類を育て、あとは定期的に訪れもたらされる隊商に頼るしかない。

対価はここで掘り出される鉱石や宝石の欠片。

一定以上の水準を超えると、各村で加工・精錬を施して集積したのち、公都へ送られた。


破壊され尽くされ、遺体諸共廃墟になった集落は凍り付き、もう数年たっているにもかかわらず、そのままの姿で残っていた。

その光景を目の当たりにしたとき、傭兵団員はみな、奥歯をギリリと噛みしめた。

黙々と凍てついた氷を溶かし、遺体を集め、埋葬し、廃屋から作った墓標を立てる。

その間にタクと彩姫は周辺を調査してまわった。


そんな作業を翌日も、翌々日も…行軍しては集落跡で作業。

タイガは 次の集落が最後です とタクに言った。


「タイガと蘭の家があるんだな?」


ふたりの顔ですぐにわかった。

思いがないはずはない。

が、ふたりは淡々と団員へ指示を出し、それとは別に目指している場所へ歩を進めた。


半壊している集落で一番大きな家の前に蘭が立ち止まり、一番小さな家の前にタイガが佇む。


「蘭は村長の娘なんです。僕は鉱夫の三男です」


タイガは聞かれもしないことをぼそっとタクに告げた。


「僕が余計なものを見つけなければ…それを、みんなに言わなければ」

「……」

「今更なんですけどね」


苦いモノを飲み下すようにそう言うと、家の前に倒れている身体を整然と並べる。

おもむろに雪に埋まったモノを探し出すと、元の持ち主に返していった。


「これをやったのは土蜘蛛の野郎、なんです、けど…」


凍った土中に両親、兄弟を一緒に寝かせた。

墓標の前にしばらく黙ってかがみこみ、タイガは何かを語り掛けていた。



蘭の家にタク、タイガ、団員全員が行くと、彩姫と彼女が終わったらしく待っていた。


「まだ無事な部屋もありましたので、暖を入れました。そこで休んでください」


寒さの為だけではないだろう、蘭の唇は青ざめて、目じりにこすった様な赤みが残っていた。


「明日はあの場所へ行くんですよね?」

「そのつもりだけど、大丈夫か?」

「大丈夫です。あそこにも友達が残ってますから」

「そっか」


その夜は彩姫と蘭が温かいシチューを皆にふるまって、身体を、心を温めた。




天気が良い。


「珍しいんですよ」


蘭がそう教えてくれた、空は、抜けるような青空だった。


「この地では青空も太陽も滅多に見ることはないんです」


少しでも気持ちを上げようと明るくふるまう蘭に、彩姫は優しく微笑んで応えていた。



子供の足でも行ける距離なので、そこには数十分で到達した。

ここでは蘭が指揮して散った友たちを探すことから始めていた。

タクと彩姫は団員数名を借りて、タイガの案内で問題の場所へ向かった。


「この辺で黒い影が湧いたんです」


雪が幾層にも重なり凍って、透明度があがっていた。

まして今は短いとはいえ夏。

そして明るい日差しも一面を照らしている。

タイガを蘭の方へ戻し、団員たちと散会して地面の探索。

昼休憩をはさんで、そろそろ一旦村に戻るかとタクが周囲を見渡すと、団員の一人が何かを見つけたらしく大きく手を振って呼んでいた。


「彩姫、ビンゴだな」

「あたりやな。ここに目印つけといて、明日はここに集中しよ」


彼らの眼下に巨大な魔法陣の一端が、厚い氷の下に広がっていた。



「明日からは予定通りですか?」

「せや。まずは魔法陣の全容を確認やね。大きさ、術式の解析」

「そのから、こいつを二度と使えないように破壊、だ」

「まだ使おうとすれば、使用は可能なんですか?」

「厚い氷の下に閉じ込められとんで、このまんまでも問題ないっちゃないんやけど、念のため、やね」


そんな解説もしました…


翌日からの作業を経て魔法陣の全容が現れ、それを目にして彩姫は愕然とした。


「こりゃあかん。さっさと書き写して壊さなかんわ」

「おいおい、氷の中でも使えるのか?」

「使えるなんてもんやないで。これは召喚陣やわ。起動したら氷なんか関係あれへん」

「そうなのか!早めにやることやって、術式破壊しなきゃだな」


作業を手伝いながら、タクは団員に外にも似たようなものがないか探索させると、案の定、付近にいくつか同じような魔法陣が設置されていた。


「まったく、どうやってこんなものをここに描いたんだよ」


本格的に調べたほうがよいかもしれないな そんなことを考えていると、数日後に公都からセイショウ公王の指示で大規模な調査団がやってきた。


「チョウネンはんは賢いわ」

「念には念をってやつだろうな。それに紛争のない現状だから、訓練の一環にしてんじゃないかと思うぜ」

「せやろな」


魔法陣を発見次第、術式を模写、氷を破砕して無力化する作業。

タク達は調査団に引き継ぎをする。

範囲を拡大してそのまま作業を続行する中、タク達は予定通りこの地を離れ黄龍聖国へ向かった。







【続】

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