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75 模擬戦

「トリセツ、欲しいよなぁ」

「な~に言ってるのよ」

「何事も地道にやってこそ、やんな」


彩姫の繰り出す鋭い薙ぎ払いを受け止める。

模擬戦用の刃引きしたものとはいえ、当たれば怪我のひとつも負うし


「なにより、痛いっつうの!」


刃を滑らせ、いなして、反撃の一刀。

腹部を盛大に斬られて以来、初の実戦的な模擬戦。

戦闘の勘は鈍ってはいた。

傷口が開く心配がなくなってから、主に走り込みで体力とスタミナは、それ以前よりついている自覚はある。

が、それとこれとは心身ともに使い方は根本的に違う。

彩姫はナゴンの訓練を通して、相当の腕前にレベルアップしていたのだから、その差を痛いほど彼は感じていた。


第一層の壁画をざっとだが解読したものの、三宝物の具体的な威力、ドーマに対しての効力は読めなかった。


「そりゃあ、記録動画じゃないから、仕方ないんだけどっ!」


その意味で手掛かりは全くない。

とはいえ、歴史的にはとんでもなく貴重な資料であり、新皇国建国や楼華音女王国との関係については有益な情報ではあった。


彩姫の刃と石突を駆使した手数に対して、なんとかついて行ってはいるが、なかなか反撃までに至らない。


「い、つ、の、間、にっ!こんなに、強く、なったん、だろう、ねっ!」

「タクも、しゃべってる余裕が、まだ、あんねんな!」

「んなもん!あるわけ、なかろぉぉおおお!」


鍔迫つばぜり合いからの、押し合い。

地力の体力差で、押し返すタク。

ここから反転攻勢!


ふたりの気迫と闘気がほとばしる!

屋敷に残っていた全員が感じ取れるほどに、鋭く、重く、そしてその圧力は波動となり、ピリピリと窓や扉を震動させる。

武術の心得のないメイドや従僕は腰を抜かし、メンバーたちは驚いて窓から顔を出したり、慌てて模擬戦場へかけつけたり…


タクも彩姫も、少し息があがってくる。


アイコンタクトで二人が最後に激突する刹那


「そこまでっっ!!!!!」


これっきりの大声でミクがストップさせた。

お互いの刃が当たる寸前、髪の毛一本ほどの間をあけてピタリと止める。

それでも二人の強烈な一撃は、周囲に立っていられないほどの風圧を巻き散らした。


「やりすぎですわよ!」


桜太夫が少し怒って、二人に歩み寄った。

ふたりはというと、最後の一撃を止めた状態で残心ざんしん


「や、り、す、ぎ! ですわ」


ぷんすこ頭から湯気が出ているのが見えるよう。

タクと彩姫は残心の姿勢を解くと、大きく肺から息を吐いて我に返った。


「太夫…なに、そんなに怒っとんのや?」「どした?」


ふたりのとぼけたような答えに、桜太夫は無言で屋敷を指さした。


「「ん?」」


目にしたのはぶっとんだテラス、粉々んみなった窓。


「「あ」」

「ご理解いただけました?」


にっこりと凄まじい圧の笑顔に、ふたりは同時に頭をさげた。


「やりすぎた」「やりすぎやった」

「みんな、ごめん」「ほんま、すんません」


二人そろって、謝罪もシンクロ。

太夫は盛大な溜息。


「はいはい、仲が宜しいのも考え物ですわね…ところで、ミクさん?」

「はっ、はいっ!」

「ミクさんもミクさんです。ああなる前に止めるべきでは?」

「はい…」

「まったく、この三人は…今後、訓練の場所は考えてくださいな」

「「「はい、すみません」」」

「とはいえ、お二人の戦闘力がここまでとは、わたくしも思っておりませんでした」


と、改めて被害状況を目の隅で確認。


「俺自身、驚いてるんだが…」

「うちもびっくりや」

「そういえば、タクは負傷後初の模擬戦でしたわね」

「うん。だもんで、こんな出力は想定外というか…」

「しかも武器は模擬戦用なのに…なんでやろ」

「世に言う 覚醒 ということなのでしょうけど」


メイドさんや従僕が、後片付けを始めたのを合図に、ふたりは汗を流しに行った。


そこへ外出していたユミンと雪村、アーネが帰ってきて、その場の惨状に目を丸くした。

太夫が改めて説明をしていると、壁画のところへ行っていたナゴンも遅ればせながらやってきた。


「もの凄い闘気を感じて来てみれば…どうしたの?」

「ミクさん、説明をお願いいたします」


桜太夫も同じことを繰り返すのが面倒なのか、ミクに丸投げした。



タク達一行は、一度隠里へ戻ることにする。

新皇国旧都宮殿跡壁画、廃聖堂、黒の遺跡、女王国図書館の調査は専門家に任せることにしたのだ。





深い森の中をその一団は必死に駈けていた。

後方に魔物の気配が濃い。

目前に巨大な岩山が見えて来た。


「あそこまで気を抜くな!」


先頭を走る男が、仲間を叱咤しったする。

岩山へたどり着くと、そこは砦のようだった。

中には少なくない人数が詰めているらしく、一団を迎え入れると追いすがってきた魔物を返り討ちにした。


「何があったんですか?」


体力の尽きた一団 ―五人― に水を渡し、怪我人の手当を指示した女性が、一団のリーダーに尋ねた。

彼女は少しひととは違った。

深紅の長い髪。

瞳の色は深い青。

瞳孔が縦に長く、耳は人と同じ位置にはあったが、若干尖って獣の特徴もあった。

全体に体つきは筋肉質ではあったが、女性らしい曲線を描いていた。


「南の断崖に城があった」

「城?」

「信じられないかもしれないが、確かに城だったよ。魔物も魔人もいた」

「南の断崖、というと、あの地域には亜人の集落がいくつかあったともいますが?」

「全部潰されて、そいつらの砦になっていた」

「住人は…」

「生き残りはいた。森の中や湖の周辺に避難している」

「お会いになったのですか?」

「ああ。そのうちここへ来る、と思う」

「場所を?」

「いや、避難場所に一人ずつ仲間を置いてきた」

「それで人数が減ってるんですね」

「ああ」

「それにしても、城、魔人、魔獣…何者ですか?」

「わからん、が、碌でもない連中なのは確かだよ」

「……」

「偵察していた俺らでさえ、問答無用で襲われたからな」

「魔獣を手懐てなずけているとなると、厄介やっかいですね」

「どうやって手懐けたんだか…」


リーダーは水をがぶ飲みして、乱暴に腕で口をぬぐった。


「フェア、避難場所に置いてきた連中が戻り次第、ここは捨てて本拠に移動する。準備させてくれ」


フェアと呼ばれた女性は、リーダーの指示に小さく頷く。


「見回りを厳に警戒させておけよ」

「はい。八つの班を四つに再編します。三直四交代で警戒に当たらせます」

「それでいい。俺は少し休む。あとを頼む」


一緒に駆け戻ったメンバーにひとりずつ声をかけ、砦奥の部屋へ連れだって行った。








【続】

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