73 並行世界の未来
「改めてになるけど、ドーマは今、どこにいるのか?」
「転移魔法陣を応用したドーマの位置情報は、もう一度検証した方が宜しいですわね」
「そこは最後だな…ミュ・クーが戻らないとダメだろ?」
「んーー、うちでもある程度はいじれるけど、最後はミュ・クーはんに頼ることになるなぁ」
「あれが正しく動いているのか、まずそこからだからな」
「そうかぁ…そっからなんだぁ」
「残念ながら、そうなるな」
「ということは、ドーマは行方不明ってこと?」
「そこまでおかしなことにはなってない、とは思うんだけど、な」
「せや、さすがに一族の面々は阿保やない。術式自体はそれほど妙なところはないんちゃうかな」
「ああ、おそらく細工程度とは思う。だからこそ、探すのは大変かもしれない」
「何を目的にしたかによって、探すとこもちゃうし、結局全部見直しかもわからんな」
「そういうことだ」
まったく…と、タクは苦い顔をする。
「時間と空間、世界の理、因果律…事象の固定、連続する事実の集積…」
「どないしたん?」
「うん。こんがらがってきた」
「そりゃ、難しいわな」
「なぁ、今まで体験してきた事実があるよな?」
「あんな」
「ちょっと思ったんだけど、ドーマの動きってすでに異物ではなくなってるんじゃないか?」
「どういうこっちゃ?」
「あー、俺たちの目的自体に絡む話じゃないんだけどさ」
「なんなん?」
「つまり、ドーマ討滅という目的自体は変更はないし、どんな選択肢を選んだとしても、そこにたどり着ければOK」
「ですわね」
「異物だろうが何だろうが関係ない。やることは俺たちが強くなる。ドーマの居所を捕捉する。しかる後、戦って完全にやっつける。至ってシンプルなことじゃないかって…」
タクの言葉の意味を理解すると、それはそれはシンプルな図式。
「追いかけるから、ややこしくなってる。そういうことかしら?」
「えーっと、まぁ、そういうこと、かな?」
彼はうーんとうなって、首をひねって考え考え言葉を紡ぐ。
「過去の検証…行動としては意味があると思うんだけど、俺たちの目的に必要不可欠のものか?」
「せやな…まぁ、ドーマの弱点を知るっちゅう意味では無駄な作業やないとは思う、けど」
「そう、過去の事実では、ドーマを完全に倒しきっていない。つまり間違ってはいないけど、正解じゃないよな」
「なるほどですわ。倒すために必要な手段を探す。考え得る様々な行動の中で、過去に取った倒せなかった手段を捨てて行くという意味では正解ですわ」
「同じことをして、逃がしたら意味がないからな」
「正解ってあるのかなぁ?」
「うん。そこの確定をしなくちゃいけない。ていうか、完全勝利の確率を上げることが必要な事だと思う」
「過去に学んで、同じ失敗はしないことが大事ってことですね」
うっすらと皆がタクの言いたいことが分かってきた気がした。
「で、さっきタクさんが言ってたことだけど。異物は異物じゃないって話」
「うん。並行世界の理屈で言うとさ、どうやったかはともかく…ドーマがあっちの世界に行って、そこから流れる事象の堆積、か~ら~の、今の俺達…すでにこれは確定した一つの世界線上にあるんじゃないのかってこと」
「決まってへんのは、これからの未来ってことやな」
「と、思うんだけど?」
「どの時点からの分岐とかってことは、もうすでに問題の埒外ってことね?」
「お?ミュ・クー、復活?」
「ま~だよ。私はミク」
「おおう!ミクさんも、さすがトップセールス。優秀だね」
「はいはい。ありがと」
「で、俺の考え方っておかしいか?まぁ、結構思い付きで話してるけどさ」
「いんや、正しい思うわ。うちらはどうしても過去にあったことを重要視しがちや。けど、その未来志向?が本質的には大事なんやと思う」
「ダメは駄目の世界線があって、俺たちは正解の選択肢と世界線を創って行く…そのために過去の学習をする」
「せやなぁ…あかんようになる場合もあるっちゅうことやね」
「うん。そういう意味では、無限にトライできると思うよ」
「無限に?」
「手段を選んだ時点で分岐するはずだから、エンディングの数は無限だと思うよ」
ぽんと手を叩いて、ユミンが嬉しそうにする。
「あーー、なるほどぉ~♪」
「只、不正解の選択肢を選んだ俺たちは、正解の選択肢を選んだ世界を見ることはできない」
にこりと笑顔の君乃が応じる。
「だけど、正解の選択肢を選んだ私たちは、唯一無二の目的達成の世界を見てる、ってことだよね?」
「唯一無二、かは分らないね」
アーネも同意するように笑顔。
「そーだよねー♪正解がひとつとは限らない」
「だな。だから、ひとつひとつ意味のある積み重ねをしなくちゃいけないし…いろんな攻略手段を考えなくちゃいけない」
「で、三宝物に何が出来て、どう使えるのかを検証したり、工夫したり、準備が必要ってことだよね」
「つーことで、方向性とやることが決まってきたかな?」
「だーねー♪」
なんだかモヤモヤしたものがすっかり晴れて来たかのように、メンバーの顔は明るい笑顔が咲いていた…誰かさんの心の内にあるひとりを除いて(笑)
【続】