72 所有者
「ミュ・クーはもう少しそっとしとくか」
「う~ん、そうねぇ…私じゃ彼女と交代できないし」
「やっぱりそうなんだな」
「うん。復活するまで待っててね」
ミクはタクにごめんと言って座りなおした。
「さて、そうなると、もう一度ドーマの現在位置を把握する必要があるね」
「それと第一階層の壁画解読やな」
「ああ、うん」
「どないしたん?」
「ざっくり、第一階層の壁画が何を描いてるかは知ってるよな」
「せやな。細かいことはこれからやけど、一度はドーマを倒してるんよな」
「そこからドーマの完全討滅のヒントを…と思ってた」
「あ…」
「気づいたか?」
「おかしいよな」
「だろ?」
彩姫とタクの問答にミクが割って入る。
「その時点で一度やられてたら、大陸統一のときに手に入れた三宝物をそのまま使うのって…」
「仮に統一に必要だからって使ったとしても、統一が目前に迫ったら、宝物庫に保管じゃなく」
「破壊…」
「持ち出されて、使われたら不利になるんは火を見るより明らかやもん」
「だろ?」
桜太夫もユミンもアーネも納得の顔。
「第一階層の壁画はドーマ退治とは無関係?」
「っぽいねぇ~」
「ですね」
「そっちの解読は学者さんに任せて、報告だけもらうってことにしないか?」
「せやな」
「良いと思う」
そこまで結論付けてから、彼はナゴンに質問する。
「そもそも統一の時に三宝物はどういった経緯で、目的で手に入れたんでしょうか?」
「そうね、私の知っている限り、強力な三位一体の武器、という認識だったわ」
「今までの調査から、白の一族が保有していたと思うんですが」
「その通りよ。私も一族出身だし、『万感の太鼓』の鼓手は先代もミュ・クーも一族の人間だったわ」
「そういう意味では『破邪の薙刀』が彩姫を認めたのも一族の血を引くから、ですかね」
「おそらくそうだと思うわ。といってもこれは仮定の話よ。私が使えたからそう思うのであって、紗耶香様から受け継いだ彩女様は孤児だったみたいだし…」
「ですよね」
「永い間、聖域に安置されて、壁画で判明した彩女様以降、所持者は私が持つまで不明だわ」
「なるほど…で、最後に『覇王の聖剣』ですが」
「壁画の情報だと、これだけは徹頭徹尾、一族が噛んでいないんですよね」
「そう、ね」
「ちなみにこれも聖域に祀られていたんですか?」
ナゴンはそこで首を横に振る。
「いいえ。それは新皇国から黄龍へ献上されたの」
「おっと、ここで後出しじゃんけんの情報ですか…」
タクは苦笑いする。
「隠すつもりはなかったのだけど…」
「大丈夫です」
「巨大な棺のような箱に納められて、そのまま所持者不明の聖剣、ということでね。黄龍…ドーマが大陸統一する中で、新皇国が臣従する証として献上したという流れね」
「やっとつながった」
タクは笑ってうなずいた。
「トゥークの記憶にも、他のものと違っていきなり出て来たので不思議だったんです」
「せやけど、そうすっと所有者問題が再浮上やな」
「あーー、新皇国からの献上品であれば、そんなに問題じゃないんじゃないかな」
「え?なんでや」
「だって、トゥークは、たぶんだけど、新皇国王族の血筋…ですよね」
「はい?」
「結構乱暴な推理ですけど…ですね?ナゴンさん」
ナゴンは諦めたように両手を上げて降参ポーズ。
「トゥークが物心つく頃には、私しかいなかったはずなので、知らないと思ったけど…どうして、そこに思い至ったのかしら?」
「第一王子もナゴンさんの実子じゃないですよね?」
「残念なのか、良かったのか…私は子供が産めなかったから」
「そして第一王子は第二王子であるトゥークを、随分虐めてましたよ」
「!」
「ドーマも歯牙にもかけていなかったですし…もっとも、あいつに肉親の情なんてなかったでしょうけど」
「もしかして、トゥークはドーマの血を受け継いですらいなかった?」
「トゥークの記憶、壁画の語り…あんなに簡単に、そしてとことんドーマを追い詰める強い気持ち…あれ、実の親父相手に向けられる感情じゃないです」
「新皇国王族の件は当てずっぽうに近いですけど、逆説的に言うならば、聖剣を所有できる事ってのが雄弁に語ってますよね」
「そうね、確かにその通りだわ」
ナゴンはゆっくりと思い出すように語りだした。
トゥークは王弟セイメイが父親で、母親は政略で婚姻した当時の新皇国第一王女。
ちなみに第一王子は強引に略奪して側妃にした、玄冥公国の公女だという。
「なんてこった…じじぃがトゥークの親父かよ」
「あはは~な~るほど~♪」
急にユミンが笑いだす。
「ん?なにが、なるほどなんだ?」
「だってぇ~、悪い顔はそっくりだよぉ」
「それ、凄く嫌だ」
「トゥーク様本人じゃないのですから、宜しいんじゃないですの?」
「それでも…なんか嫌だな」
「なぁ、タク」
「何だよ彩姫。なんか言いたそうだな」
「それってなぁ、同族嫌悪っちゅうんやで」
「!」
愕然とするタクの顔が可笑しいと、その場の全員大爆笑になった。
ひとしきり和んだその場で、一旦小休止してそれぞれが雑談に入る。
そして
「明日からの話をしようか」
タクはがんばって真面目な顔を作って、そう提案した。
【続】