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68 千メートル

「狂いの種については理解したし、皆へ注意喚起しておこうか」

「せやな。食事の中に不自然な硬いモノがあった場合は吐き出すことやね」

「ミュ・クー、それでオーケー?」

「オーケーよ。外殻を砕いて飲み込まなければ発芽しないから」

「よっしゃ。そんじゃ、リュウと雪村も呼ぼうか」


取り急ぎ、狂いの種についての対処は関係各所へ共有するように手配した。


他のメンバーを呼びこんだ。


「さて、と。あの狙撃だけど…」


タクはアーネを見た。


「銃器類ではないと思いますわ」

「そりゃそうだろ。古代に銃火器類があったら、それこそ怖い」

「その頃の飛び道具の進化程度が知りたいです」


銃に関してはアーネがこの中で一番詳しい。


「正確無比な狙撃用の武器、か」

「ですね。古代に道具としてそういうモノがあったのかという、そもそもの疑問もあります」

「餅は餅屋、か。学者さんにも同席してもらおうか」


タクは大道王国から壁画などの解読の応援で来てもらった、考古学者サクジ―と民俗学者ヤナクニに同席を求めた。


「道具としては、ないと断言できます」

「但し、禁術なり魔術なりで、そういったことができたかもしれません」

「なんでもありっすか」

「そうとも言えないですね」

「魔術にしてもなんにしても、必ずそこには制約なり限界はあります」

「制約なり限界ですか…」

「例えば、連射は出来ないとか射程距離とか、撃てるスキルを持ってる者がいるのかという問題もあります」

「そりゃそうだね。魔術でも精密射撃なんていう高度な技や術式を構築して使えるかどうか…」


タクはミュ・クーを見る。


「黒禁魔術にその手の術式はないと思う」

「ね、どの位の距離から撃ち出されているのか、大体で良いけどわかるかな?」


アーネが前のめりで尋ねる。

やはり銃手として興味があるのだろう。

タクはごめんと拝みながら答える。


「それがイマイチわからない」

「そうだよねぇ…その場にいたわけじゃないもんね」

「壁画から読み取ったわけだから、な」

「ざ~んねん」

「なぁ、ちょっとやってみぃひん?」

「なんか思いついたのか?」

「試してみたいことがあんのや」

「どのくらいの広さ…てか、距離でやってみるんだ?」

「せやねぇ…アーネは最長でどのくらいや?」

「千メートル強かな。風とか環境に左右されることもあるから」

「物理的に弾丸を発射するなら、当然そういう精緻な計算がいるわな」

「けど、魔術ならそこは無視できるんちゃうかな」

「魔術っていっても、結局はなにかに変換するのよね?例えば、火とか水とか…」

「それがな、ひとつだけあんねん」


そこまで彩姫が言った時、ミュ・クーが閃いた。


「魔力そのもの?」

「さっすがミュ・クーはんやね。せや、物理的な属性に変換せず、純粋に魔力だけならどうやろって思ってん」

「ね、黒の魔術には光への変換術式もあるんだけど、そっちは?」

「光も質量はないからいけるかもしれへんな」

「光の弾丸…か、再現できる?」

「あー、あかん、それは無理っぽい」

「もしかしたら、私が真似事ならできるかも…」


ワクワクした顔でミュ・クーと彩姫のやりとりを聞いていたアーネにタクは話を振った。


「なぁ、アーネ。狙撃なら片手で出来ないか?」

「え?」

「やってみないか?」

「随分、銃に触ってないから…でも、片腕で出来るかな…」

「…やってみないか?」


じっと考え込むアーネに、彩姫がそっと囁いた。


「超長距離狙撃、すっごく前やけど、やってみたい言うてたやん」

「うん…」

「一回挑戦して、足りひんもんが判れば、それを補完する道具を考えたらえんちゃう?」

「彩姫…」

「やったらなわからん」

「いいのかな…」

「ええんやって!」

「うん、試して、みようかな」

「その意気や!」


翌日、いろいろ試してみることに決して、その日の検討会は解散した。




翌朝―

ユミン、リュウ、雪村で用意した試射場に学者二名を除いて全員集まった。

警護の新メンバーも興味があったようで、手伝いに参加していた。


「百メートル毎に的を立ててあります。最長は千五百メートルまで用意しました」


リュウがそう言って、手を上げる。

遠くに間隔をおいて数名がいて、リュウの合図に応えた。


まずは彩姫が射撃位置に就いた。

目を閉じて精神集中している。

ゆっくりと、真っすぐに的に向かって腕を上げた。

ぶつぶつと何か呟いている…魔術詠唱のようだ。

瞼をあけてジッと腕の先、指先で一点集中。


「いくで」


ぴゅしゅぅぅううううん


指先から不可視の魔力の塊か何かを極限まで凝縮して…発射される。


百、二百…七百の的まで撃ちぬいた。


「スゲェ」


思わずタクが声を上げるほどの威力だった。


「次は私ね」


ミュ・クーは的に正対して胸の前で両手の指で輪を作る。

やはり詠唱…

輪の中に光が生まれ、かたまり、球体となる。

その球体を彼女は更に小さく小さく圧縮して行く。


「行くよっ!」


彼女の声で、球体が真っすぐに糸を引くような弾道で的を撃ちぬいて行った。


「最長七百ですっ!」


遠くから着弾距離を報せる声。


「私が最後か…」


苦笑いしながらアーネが長い銃身のライフルを持ってきた。

腹ばいになる。


一発目、五百の中心に着弾。

二発目、七百の中心から少しそれたが、的に着弾。

三発目、九百の的の隅を弾き飛ばした。

少し、考える風のアーネだったが、構える姿勢を身じろぎして変え、照準を修正して引鉄をそっと引いた。


ぱぁあぁぁぁぁぁぁあああああん


糸を引くように飛んだ弾丸は、千メートルの的にめりこんだ!


「千メートル、的中ですっ!」


遠くから聞こえる声に、わっと皆から歓声があがる。


「やったな!アーネ!」

「流石やね♪」


いささか、本来の目的とは脱線してはいたが、その成果は上々。

アーネの目に涙がにじんでいた。





【続】

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