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67 狂いの種

「魔獣人の謎は解けた、感じだよな?」

「そうね」

「なぁ、ミュ・クー、教えてくれ。狂いの種ってのはなんだ?」


女王国から新皇国の屋敷に帰還して数日―

タクは彼女に尋ねた。


「前にも話した通り、魔物の一種よ」

「自分で動けるのか?ってか、生態はわかってるのか?」

「正しくは分かっていないわ。かなり珍しいモノよ」

「瀧夜叉の時はドーマが送って寄越した嫌がらせ、って認識だったけど」

「そうね、今はいないはずだから、そう判断したの」

「何故そう言える?」


ミュ・クーはじっとタクを観察するように見つめた。

そしてタクに変化がないことを確認すると、ふぅっと溜息をついたて、説明を再開する。


「狂いの種は発芽するとそのまま宿主の身体を養分にして成長するの」

「うん、それはわかる。そんな映画とか見たことあるしな」

「ああ、一緒にミクと観たわね。あれはちょっと心に来たわ…」

「そうだった。ごめん」

「知らなかったのだし、仕方ないわ」

「で?」

「そのまま生長すると、細長い葉を持つ腰位の高さにまで成長するわ。葉っぱの縁にギザギザがついてる」

「んー、ちょっと想像しにくいかな」

「アロエだっけ、あれをイメージしてくれたら近いかな」

「肉厚の葉なんだ」

「うん。で、一株に一本だけ花芽がつくの」


ミュ・クーの説明の途中で入ってきたナゴンが嫌そうな顔をした。


「ナゴンさんもご存じ、と」

「ええ、その植物の名前は血肉草ちにくそうというの」


そこへ彩姫が入ってきた。


「なんや、物騒な名前が出とんな」

「彩姫も知ってるのか?」

「名前だけな。実物は拝んだことあれへんし…大体、血肉草は失われた植物やって、おばぁちゃんに習ったで」

「そっか、忘れてたけど、彩姫は薬師でもあったんだよな」

「忘れんといてや!うちの本職やで!」

「ごめん、ごめん」

「で、その血肉草がどないしたん?」

「それの種が、狂いの種の正体ってことらしい」

「なっ!そうなんや…知らんかったわ」


ミュ・クーが再び話し出す。


「血肉草は群生する性質を持ってて、およそ十株に一株の割合で雌株が現れ、その種の中で更に百に一つが狂いの種になるのよ」

「細かく研究されてるんだな」

「そりゃ、ね。それだけ危険なモノってことよ」

「植生は温暖で、地質に関係するんだろうけど、ごく限られた地域にしか生息しなかったの」

「それって、もしかして」

「ご名答。血液や死屍が大量に含まれた土が、種を作るのに不可欠なの」

「つーことは?」

「うん…戦場跡とか、ね」

「いつ絶滅したんだ?」

「正確にはドーマ封印後に最後の群生地を焼却したとき」


ナゴンが口を開いた。


「大陸統一の頃は、裏ルートで取引されてたみたい。でも、滅多に手に入るモノでもなくって、相当高価な代物だったようよ」

「てことは、ナゴンさんも現物を?」

「その通りよ。あの当時、我が軍も二個だけ所有してたわ」

「二個、ですか…」


頷くナゴンは、苦い薬でも飲み込んだように渋面をしている。

それを察して、少し迷ったがタクは思い切ってナゴンに問いかける。


「使ったんですか?」

「一個、使ったと思います」

「使ったところは見てないんですか?」

「ええ、私とドーマが二方面に展開してた時、東征軍が使ったってことだけ聞いてるわ」

「東征軍…」


どうにもやるせない想像をして、ぶんぶんと首を振ったタク。

ミュ・クーが説明再開。


「今の黒の遺跡に、多分、群生地焼却の跡地があるはずよ」

「それって、白の一族がやったとか?」

「うん。その後も一族のネットワークを使って、あったら処分するように指示してたわ」

「それなら、うちも知ってます」

「ずーっと守られてきたのね」


タクは頭の中でぐるぐるしていた疑念が声になった。


「楼華音女王国…」

「そこに行き着くわな」


ナゴンを見ると頷いていた。


「多分だけど、当時の狼牙軍が頑強に抵抗してたから、誰かを暗殺するために使ったのかもしれないわ」

「自分のところの重鎮を、自分たちで殺させるって、酷いな」

「残りの一個をドーマは持っていたんでしょうね」

「さっきミュ・クーは群生地の話をしていたけど、原生地ってどのあたりなんだ?」

「中央森林地帯よ」

「あの国の獣のおのこって山から来たって話だけど…黒翼山脈じゃないんだな」

「その可能性は低いかな。中央森林地帯にも低高度の山はたくさんあるし、小さな集落も北側には街もあっただろうし」

「場所的にも御伽噺を裏付けてるって感じかな?」

「断定は危険だけど、その可能性は高いって思うわ」

「んでもって、女王国の前身はあの辺に広がってた…」

「ええ、35国時代、彼の国の版図は中央森林地帯のほぼ中央まであったわ」

「なるほどなぁ…で、いわゆる獣の王様はそれを使って新皇国の侵略を画策したのか」

「おそらくその仮説は正しいような気がするわ」

「姑息な手段も使うんだなぁ」


タクはふと湧いた疑問が口をついて出た。


「黒の遺跡…最後の群生地?」

「気がついたのね。そうよ、ドーマはそこで血肉草の栽培をしていたの」

「あんの野郎!余計な事ばっかりしやがるっ!」

「でも、あの草は種をつけるまで時間がかかるから、収穫前に処分できてると思うわ」

「追加で所持の可能性は低い?」

「絶対ない、とは言えないけど」


タクも彩姫もナゴンも、油断できないな、と嫌な顔をした。







【続】

いろいろ種明かし…洒落じゃないよ(笑)

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