62 大陸事情
大陸に版図を持つ国は
北部三国、中部二国、南部五国
北部三国は西から
『玄冥公国』『黄龍聖国』『甲亥盟国』
中部二国、西から
『ショーモン新皇国』『楼華音女王国』
南部五国、西から
『大道王国』『三碧皇国』『黒玄覇王国』『朱雀公国』『赤龍神国』
大陸はほぼ円形をしていると言われている。
― 地図らしい地図がなく、測量もしていないため口伝 ―
まだ版図に属さない地域も多く、北部三国と中部二国を遮る黒翼山脈一帯には白の一族所縁部族の集落や街も多い。
更に『大精霊の聖域』と呼ばれ、いまだその地が確定されていない神秘なエリアもある。
大陸の周囲に海は確認されているものの、断崖となっている場所が多い。
海を擁する国には楼華音女王国と赤龍神国、朱雀公国に限られていて、北方三国は内陸に版図を広げている。
国土として最大面積を誇るのは赤龍神国だが未開地が多い。
大道、三碧両国は小さい国だが統治は行き届き、穀倉地帯も多く国は富んでいる。
玄冥、甲亥両国も国土は小さく寒冷地が多いためか、黄龍王国に従属に近い同盟を結んでいる。
建国順で最も古いのが黄龍聖国、新しいのが黒玄覇王国となる。
黄龍聖国は大陸統一をもたらした大陸王の母国であり、黒玄覇王国は黒の帝国滅亡後に残党が建国したと噂されていたという。
国土の南側に巨大な森林地帯が広がり、黒の遺跡が隠されていた。
女王国の起源は新皇国よりずっと過去から存在していたというが、建国時期やその成り立ちは謎に包まれている。
これといった逸話も残されていないが、代々女王が治める国でありながら、その兵力は屈指の精強さを持っている。
新皇国と女王国は国境に鴻の大河とその支流が流れている。
建国は新皇国が後発ながら広大で、肥沃な土地を持ち、多くの街が発展しており、現在は女王国と緩やかな同盟関係を結んでいる。
過去には国境付近で紛争もあったらしいが、詳細は明らかになっていない。
但し、女王国は独自の土着信仰が根強く、『大精霊の聖域』信仰には否定的な国民性を持っているという。
ナゴンが設立しミュ・クーが学んだ『王都大図書館』は黄龍聖国にあり、『中部王立図書館』は楼華音女王国にある。
「桜太夫、気を付けて。何かわかったら知らせてくれ」
「もちろんですわ。その時はユミンか雪村を走らせます」
そう言って桜太夫の一行は新皇国旧都宮殿跡に近い、彼らの拠点である屋敷から旅立った。
この旧都は国の東側に寄った場所にある為、往還道路も整備されており、1週間もあれば図書館のある女王国国都に到着するはずだ。
1ケ月ほど経っても桜太夫からの便りはなく、その間2往復、雪村とユミンがそれぞれ報告に来ていた。
彩姫が訓練を終えて、寛いでいたタクとミュ・クーに笑顔を見せた。
「なかなか難航しとるようやね」
「そりゃ、そんな簡単にわかったら世話はないさ」
「女王国側は協力的なんかな」
「ああ、その辺は大丈夫らしい。クニカ王も私信だけど、支援要請をしてくれたようだと雪村も言ってたしな」
「で、そっちは?」
「大道王国の学者さんで古語に詳しいお人が二名ほど、こっちゃに向かってる思うで」
「さすがに顔が広いね」
「伊達にあちこち旅してへんて」
「どのくらいで着くのかな」
「せやなぁ、手紙ではすぐに出るっちゅうとったさかい、もうボチボチやとは思うんやけど」
「了解。リュウにも言っておくよ」
「せやな」
今度はミュ・クーの番。
「白の一族はどう?」
「支援攻撃職が三人、治癒魔法師二人、前衛攻撃職二人の計七人、今日明日には来るわ」
「おお!随分な…クニカ王にも連絡しておくよ」
「あ、もうそれはしたわ。変に入国でもめても面倒だし、ね」
「ありがと」
「それと」
「ん?まだ何か?」
「アーネがウタさん連れて来るわ」
「そりゃ朗報だな!」
「でしょ?盟国の最北端にある街で会って、一緒に旅して南下してたみたいなの。一族の網にかかったから、繋ぎをとって、来てもらうことにしたの」
「渋ったんじゃないのか?」
「そうでもないみたい。といっても、二つ返事でもなかったみたいだけど、ね」
「まぁ、な。ふふ、ま、着いたら歓迎するさ」
嬉しそうなタクの顔を見て、ふたりもほっこりしていた。
「あら楽しそうね。良いことあったのかしら?」
ナゴンが湯上りの火照った顔で、三人に混ざった。
「応援が沢山来ます」
「その中にアーネもおるようですわ」
「あら、ホント、それは嬉しいわね」
言いつつ彩姫は、今度はうちが汗流してきます、と抜けて行った。
タクはナゴンに指折り、都合十一名と警固数名が合流しそうだと告げる。
「そう、南部大道王国の学者さんが来るのね」
「問題ありますか?」
「そうじゃないの、彩姫の人選はなかなか捻ってあるなって思って」
「捻って?」
「大道王国は小さいけどそれなりに古い国だし、35国の頃からあまり国土の広さが変わってない国みたい」
「統一前から中立で、学問にも魔術研究にも造詣の深い学者さん多かったのよ」
「中立を貫き通せるのって」
「そうよ。結構な戦力蓄えてるみたいでね、侵さず侵されず、が国是みたいな国だったわ」
「成程…だとすると、期待できそうだ」
「そう思うわ」
冷たい飲み物で喉を潤し、ナゴンは火照りを鎮める。
ほのかに赤みを差した肌は、四十中ほどの年齢だが、張りのある胸や若干湿った黒髪は艶っぽく匂い立つようで…
「ちょっと、タク、どこ見てんのよ!」
ぼーっとナゴンを見てしまっていたタクが、ミュ・クーに叱られた。
「あ、ごめん…すみません、つい…」
「あらあら、うふふ。まだ、私も大丈夫みたいで嬉しいわ♪」
「ナ、ナゴンさまっ!」
和んでいるところへリュウが飛び込んできた。
「ミュ・クー様!タク様!」
何事!と腰を浮かした三人に
「今、雪村が戻りました!君乃様が拘束されたとのことです!」
「何だって!」
手渡されたのは桜太夫からの報せ。
ざっと読むとミュ・クーへ渡す。
「雪村は?」
「一気に駆けた来たようで、今、休ませています」
「わかった。クニカ王に謁見の申し入れを頼めるか?」
「承知いたしました」
リュウが部屋を出ると、彩姫が入れ替わりに入ってきた。
事情を簡単に説明する。
「どうやら、何か、女王国の禁書を探り当てて、拘束されたらしい」
【続】
ご都合展開は嫌だと思いつつ、ご都合展開…ごめんなさい<(_ _)>