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60 壁画は語る9

タク、ミュ・クー、彩姫は調査を再開。

三宝物発現を描いたものを前にしていた。


「『大精霊の聖域』、か…」


タクは二層最後の区画にある壁画で語られる、その場面を想起していた。


「阿國さんの命、想いを籠めた、彼女の存在すべてを代償に、三宝物にチカラを付与された、的な感じだな」


彼の思考にほんの少しの違和感があるのを自覚する。

じっと考え込む彼の顔を見上げる彩姫に気付き、苦笑する。


「思うんだけど、さ」

「何なん?」

「俺の『覇王の聖剣』、ナゴンさんが持つ『破邪の薙刀』は…」

「せやな、本来のチカラがまだ残っとんのかってことやろ?」

「ああ」

「薙刀は残っとる、かも」

「へぇ」


彩姫は『卓』の世界でのことを語った。


「そりゃ、強力やってんで。ひと振りで群がる…おそらく千はおるんやないかっちゅう魔獣を殲滅してんからな」

「常にその出力なのか?」

「あー…ナゴンはんもお初やったって言うてた、な」

「怖いな…」


彼は口元をへの字にして、腕組みした。


「その事実だけでチカラは維持されていると判断するのが怖いってことさ」

「確かに、タクの言う事はわかるわ」


ミュ・クーもタクの言いたいことを肯定した。


「少なくとも、統一直後のドーマ侵略戦ではチカラは発現している、と思う。だけど、それからどれだけの歳月が流れている?」

「うん。王妃様が使ったチカラが今後も使える根拠にはならないわね」

「あー、ミュ・クーはんの『万感の太鼓』が使えるからちゅうて、聖剣も薙刀も使えるとは限らんよな」

「それにもうひとつ」


と、彼は彩姫を見る。


「ん?」

「薙刀は彩姫も持ち主と認めてるんだろ?」

「せやったな」

「そこはどうなる?」

「どないなっとんやろ…」

「おいおい、その後は持ってないのか?」

「あー、ナゴンはんがそのまんま持っとる…」

「戻ったら、一度持ってみるべきだろうな」

「せやなぁ」

「どうした?何か引っかかるのか?」

「んー、わざわざ持たせてって頼むんも、なんかなぁ…」


普段に似ず歯切れの悪い彩姫に、タクは笑った。


「そっか、随分前の話だし、改めてってのもの気が引ける、か」

「そんな感じやねん」

「薙刀については話したことは?」

「ないねん。いろいろあって、時機を逸してもーた」

「改まってってのも、言いにくいか」


ふたりの会話中、ミュ・クーは顎に手を宛てて考え込んでいる。


「どうしたんだ?」

「あ、うん…大したことじゃないの、なんだか立ち位置似てるなって思って」

「立ち位置?」

「私と弥刀様、匠馬様とタク、彩姫は彩女様…で、王妃様と阿國様」

「太鼓と薙刀の違いはあるけど、確かにそんな感じだな」

「因縁やな」

「なんか、さ、嫌な暗示じゃない?」

「うーん…考えすぎ?だと良いんだが、な」

「にしても、老師は何やっとんや」

「ほぼほぼ、傍観者だよな」

「というより、観測者みたい。ちょっとらしくない感じがするなぁ」

「う~ん、なんというか、オブザーバー的な立ち位置みたいだよな」

「歴史には関与せぇへん?って感じやね」

「だったら、なんで行ったんだよ…意味ねぇな」

「あー、なぁ、阿國はんの行動…老師が糸引いてんとちゃうかな」

「可能性はある。確証はないけど、な」


一日休みをとって、明後日からは第一層へ移ることにした。


「いよいよ、だな」

「ついに建国やね」

「……」

「ミュ・クーはん、どないしたんや?」


無言で考え事をしている彼女に、彩姫とタクが注意を向けた。


「あ、いえ…うん、ちょっと気になって」

「何が?」

「うん、私たちは敵イコール『ドーマ』って単純化してるけど、敵って本当に『ドーマ』なのかな?って」

「どないしたん?」

「壁画は第一の試練までは敵の名称を『ドーマ』って言ってるけど、その後はその記載がなかったなって」


タクも彩姫も虚を突かれたようにギョッとした。

そして、二人ともに思い出して苦い顔になる。


「そうだ、な」

「せや、てっきり思い込んどったけど、確かに不自然やな」

「でしょ?」

「不必要だった、では、ないよな」

「それ以前はちゃんと特定できるような書き方だったよ?」

「んーー、も一度検証した方がええかもな」


三人とも昇ってきた階段の中ほどで立ち止まり、下の階層を見下ろす。

見落としか、見落とすように故意に書かれたのか…


「第一層に取り掛かる前に、もう一度確認作業したほうが良いかもな」

「明日の休みで、ちょっと頭の中整理したり、クリアにしようね」

「その方が良さそうやな」


それに、とタクは口ごもる。


「薙刀やね」

「ああ、ナゴンさんに頼んでみようと思う」

「タクにお願いしていい?」

「おう、了解した」



当番のリュウを除く全員で揃って食卓についての夕食は賑やかだった。

桜太夫の料理の腕は玄人はだしの達人級。

そこにタクとミュ・クーがあちらの世界のメニューやレシピを提供したので、食卓に乗った料理の数々はそれはそれは豪華だった。


「あーー、食った食った♪」

「めっちゃ、美味しかったぁ~♪♪」


タクも食いしん坊のユミンも大満足。

その後は思い思いにリビングやテラスでくつろいでいた。


「ナゴンさん、ちょっと良いっすか?」

「あら、なんですか改まって」


たまたま二人になったタイミングで、タクはナゴンに声をかけた。


「頼み、というかお願いと言うか」

「あら…」


じっと彼の目を見つめると、ナゴンはニコリと笑った。


「いつ言い出すかと思ってたけれど」


そう言って一度席を立ち、戻ってきたとき『破邪の薙刀』を手にしていた。

彩姫とミュ・クー、桜太夫、君乃、ユミン、雪村を呼んで、テラスから庭に集まった。


「彩姫さん、どうぞ」

「おおきに。では、挑戦してみますわ」


ナゴンが両手で捧げ持った『破邪の薙刀』の柄に彩姫が触れた。

そして彼女の手にそれは何の抵抗もなく渡された。


「大丈夫みたいね」

「ですです」


彩姫が『破邪の薙刀』を構え、表情が凛と変わった。


しゅん


ひゅうん


ふわぁん


一応、形にはなっているが、明らかに長柄の得物に振り回されている感は満載だった。


「あらあら、これは少し練習がいるわね」


微笑みながらナゴンは彩姫に近寄り、その場で手取り足取り手ほどきを始める。


「棒術とはちょっとだけ身体の重心の置き方とかが違うから、気を付けてね」

「はい!」


皆が見守る中で、そのまま型稽古になる。


びゅんっ!


しゅたっ!


きゅんっ!


少しの間にみるみる上達してくる。


だぁああんん!

びしゅっ!!


最後の上段からの振り下ろしの威力は、その場にいた皆が感嘆するほど見事だった。


「これはええ食後の運動やった♪」


ふい~と大きく呼吸して、ユミンに渡されたタオルで汗を拭う彩姫。


「ほれ、風邪ひくぞ、風呂入ってこい」

「ほ~い!みんな、久しぶりに一緒せぇへん?」

「さんせーい」


女性陣は彩姫に誘われて一緒に風呂へ行った。


「ひと安心?」

「あ、ナゴンさんは行かなかったんですか」

「少し貴方と話したかったの」


雪村はいつの間にか空気を読んでいなくなっていた。





【続】

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