51 壁画は語る2
今日も今日とて壁画の解読。
地下七階層で構成されている。
「七層、六層は卓はん、美玖はんの世界やんな」
そこに滞在していた彩姫は、そこにいた時の事を懐かしく感じていた。
まだ1年程しか経っていない。
「いろいろあり過ぎたんやね」
今は彩姫ひとりで六層にいる。
「タクのおった世界線が、この世界とつながっているとしてや…」
「ちょっとおかしいだろ?」
背後から声をかけられて、びっくりして振り向いたところにタクがいた。
「ナゴン王妃が飛ばされた。ミュ・クーが苦心の末辿り着いた先に、別の世界線の俺たちがいた」
「せやな、これまでの仮説やと」
「うん、なんかおかしいんだ」
「あのダンジョンと幻の街、ラボの存在…どう解釈すればええんやろ」
「最初に俺がこっちへ来るか来ないかの選択をした後の世界、だよな」
「ミュ・クーの説明やとそうなんな」
「だから、繋がってる説だと俺はいないはずなんだ」
「せやねミュ・クーの魔法陣かて、時・空間・世界の理・因果律を飛び越えるもんやし」
「だろ?今、あの魔法陣で飛んだら、どこへ行くんだろうな…」
「ミュ・クーの作った魔法陣は、こっちからあっちの魔法陣を繋げてる。でもさ、その魔法陣はあの世界にあり続けてるんだろうか…」
「なにが言いたいん?」
「あー、ちょっとした思い付きなんだけど、さ」
あのダンジョン自体が移動してるってこと?と言いながら、ミュ・クーが六層入口から二人の所にやってた。
「こじつけ紛いな理屈だけど、前提条件を変えると意外とスッキリ見えてくる、かな」
「でも、確かに筋は通るわね」
「せやな、タクはんの経験と状況を合わせると、その方が正しい気ぃがするな」
「だろ?思い付きだったけど(笑)」
突如未発見のダンジョンが出現
ドーマの干渉がなく、奴の対応が遅かった
「この事実だけでも、可能性は高いんじゃないかな」
「まぁ、今現在、あっこがどうなっとるか確かめる価値はあるなぁ」
「だろ?てっきりあっちと繋がってると思い込んでたから、あのままにしちゃったけど、さ」
「どないする?」
確かめてみるか?と彩姫が言外にタクに聞いた。
「いや、まずはこの壁画に集中しよう。ドーマの居場所はこの壁画しかヒントないし」
「いいの?」
「あちこちとっちらかるのは良くない。ひとつずつ地道にが良いと思う」
七層 卓や美玖がいる世界。ドーマが転移して占領した様子
六層 卓たちを含め、その世界の人々がドーマと戦い、ドーマが別の時代へ転移するまで
五層 信長との戦い
四層 どうやらこのタイミングで三宝物が制作され、ドーマは撤退したと思われる
三層 平将門とドーマ軍の戦い
二層 将門一行と白装束の一団による国造り
一層 ドーマの出現と決戦の経緯
「ザックリ、そんな感じだね」
その日の夕食後に、小説何本は書けそうなボリュームだなぁ、とタクは笑った。
「将門軍改めショーモン軍とドーマの決戦か…」
「因縁、ですわね」
「ありすぎだよな」
「最初はシャクヤク夫人、次は瀧夜叉、興世にしましても…ドーマ直接の犠牲者、被害者が新皇国関係者が多いってのも因縁めいてますわ」
桜太夫が指折り、タクはぐったりと脱力して天井を見上げた。
「その意図があったかなかったかはわからないけど、ドーマ的にはターゲットにしたい感じだよなぁ」
「どこまでも厄介なお子ちゃまですわね」
「なまじチカラがあるから、な」
それまで静かにしていたナゴン王妃がカップを置いて微笑んだ。
「残念ですが終わったことです。それを悔いても何も生まれませんよ」
「それはわかってます…」
「タクさんの中で、なかなか消化できないことも承知しています」
「そう、頭と心が同じにならない」
人間は不自由ですね、と彼は苦笑いした。
「三宝物が今は俺達と共にある、ドーマの行方が分かればこちらから攻勢に出られる」
ぐっと奥歯を噛みしめる。
「使いこなせてなんぼちゃう?」
「彩姫さんや、痛い所つきますな」
「ごめんて」
「いやいや、本当の事だから、な。鍛錬は続けるよ」
タクは無理やり笑顔を作る。
が、鍛錬だけで良いのか…とも思う。
『覇王の聖剣』
その本当のチカラとは?
『破邪の薙刀』
それはナゴンが使うものなのか、彩姫が持つべきなのか…
そういう意味ではミュ・クーは『万感の太鼓』のチカラを引き出していると思う。
「なぁ、三宝物は壁画が正しいとして、製作者はそれぞれだよな」
「その通りね」
「どうすれば本来のチカラを引き出せるんだろう」
タクの疑問に答えられる者は、ナゴンも含めて誰もいない。
「ドーマを完全に倒すために、本当に三宝物だけで足りるんだろうか」
ぽつっと呟く彼の疑問にも答えられない。
「あーーーー!迷走してるなぁ!!」
頭を抱えた彼にミュ・クーがそっと寄り添う。
「今考えても答えはでないわ。ともかく壁画、古文書を読み解きましょう?」
「やっぱ、そうだよなぁ」
「三宝物にドーマを完全に倒しきるチカラがあるのかないのか、あるとしたら、それって製作者さんたちの想いが込められてるってことじゃないかな?」
「想い、か。それが三宝物を本来の姿にするきっかけ、なんだろうな」
「でもね、わたしはそれだけじゃないと思う」
「どういうこと?」
「私が『万感の太鼓』と共鳴してるときって、作り手の想いだけじゃなくて私の想いも乗ってる気がする、かな」
「使い手の思いなぁ」
「『万感の太鼓』の場合も鼓手を選ぶから、普通に叩いても音は出ないし」
「確かに『覇王の聖剣』も今の俺が使う場合は、良く斬れて丈夫な太刀って感じだな…ナゴン王妃はどんな感じです?」
「そうね。大陸統一戦の時から自分の腕の延長みたいな感覚はあったかしら、ね」
「ダンジョンで大量の魔物を一刀で斬った時なんかは、そんなもんやなかった」
「あれは、私自身もちょっと驚いたわ。ともかく守らなきゃ、倒さなきゃって一心だったのよ」
「てことは、あの威力は初めて的な?」
「そうね…確かに初めての感覚だったかもしれないわ」
「どっちゃにしても、あの壁画の感じやと太鼓と太刀、薙刀は別個に作られたみたいやんか。太刀・薙刀に関しては作り手の想いを知るんも大事かもやな」
「いわゆる、覚醒?させなきゃだな」
【続】