表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/92

49 新皇国

半年前には想像すらしていなかった。

確かに敗戦もあったが、概ね勝ち戦を続け国府の印璽いんじも手にした。

そもそもは叔父が自分の相続するはずの領地を横領したことが原因。


そして今、彼は勝ち戦をしている。


「これを勝ちで終わらせれば、少しは朝廷もお考えを改めて頂けるだろう」


と目算していた。

追い風の中、矢戦は完全に彼の側に有利に展開しており、数に劣る彼の勝利が目前だった。





「どういうことだ!押し負けるな!」


副将の貞盛さだもりは焦りの色を隠せもしない。


「貞盛殿、これは負けだよ。やはりこの関東の地で彼の御仁を倒すのは容易ではない」

「といって、また負けては、我々も無事では済みません!」

「白旗上げて、降伏しましょう。話せばわかるご仁ですよ」

秀郷ひでさと殿はそうでも、手前は!」

「覚悟を決めるんですな」

「…ちっ、あの魔王とか言っていたあ奴が約束を守りさえすれば…」

「そんなものに頼ったのが運の尽き、でしょうな」


秀郷・貞盛の率いる朝廷軍は、もう後のない状況になっていた。


「秀郷様っ!」


そこへ伝令が駆け込んできた。


「どうした?」

「風が!」

「風?」


秀郷が敗走してくる味方の将兵を見ていた。


「ふむ、風が変わってきた、か」

「お、やっと来ましたぞ!」


貞盛の声に反応して、周囲を見ると、異形の者が味方を追い越して敵に向かって行く。

そして、今までまともに受けていた風向きが巻き始めた。

敵の矢勢が明らかに衰えた。

追い風に転じた。


「奇跡、だな」


魔獣人が敗走してくる弓隊の前に現れ、それを押し止める。

貞盛がそれに乗じて、反転攻勢を指示していた。

他人事の様に秀郷はその様を見ている。




彼は風が変わって向かい風になったことに気づいてはいた。


「今一歩!ここで押し切ってやる!」


騎馬に鞭を入れ親衛隊とも言える騎馬隊の先頭を駆け、弓隊を追い越して敵を追う。


「危険です!」


傍らの部下たちが猛進する主を庇う。

それを振り切ろうとする主を押しとどめようと、白装束の一軍が割って入った。


「奴らの中に魔獣人がいます!退きましょう!」

「ダメだ!今を置いて勝ち筋がない!」

「ここは冷静に!貴方様あってこそです!」


朝廷軍の後方に黒い異形の集団が湧き出してきている。


一筋の矢が彼を目掛けて飛来する。


「父上!」


刹那、彼の前に飛び出した息子が、その矢を額に受けて落馬した。


将国まさくに!」


彼の馬足が鈍り、息子の亡骸に注意がそれた。

魔法陣が展開され、彼と白装束の一団が光の中に集束した。




「逃したか」


朝廷軍の後方に姿を現した魔王ドーマは舌打ちする。


「あの白装束どもは目障りだ…」


それに、と考える。

追っている三宝物は既に完成し、あの白装束の一団と共にあるようだ。


「奴らを追って、三宝物を潰してくれるわ」





将国の死が彼の死と陣内に誤報された。

軍が瓦解する。

本拠に転移してから、彼は家族をまとめ、白装束の一団とともに行動する。


「この分では遠からずすべて元通りよ」

「我らと新天地へ行きませぬか?」

「御師様、それも良かろうな」

「御味方には申し訳ございませんが、そのように」

「ふ…新皇などと担ぎ上げられたが、結局、公卿どもに上手くやられてしまったな」

「ドーマの奴が、今回は上手に立ち回り申した」

「仕方なかろう」


彼、平将門は白装束の一団と家族と近しい家臣のみ連れて、時間の転移陣に乗った。


「さらば、我が古里。いずれの時か、今度は戦のない世を過ごしたいものだ…」





強烈な太鼓の波動を感じた。


「転移したか…今度はこの魔王ドーマが追いかけて、潰してやろう」





その古文書に目を通し、難解な文章を解読する。

彩姫、君乃とナゴンはクニカから提出された、新皇国起源に関する膨大な文書を読み解く作業をしていた。

タクとミュ・クー、桜太夫は新皇国の旧都にある宮殿地下に隠された遺跡にいた。


「こりゃ、膨大な量だなぁ」


タクが困惑した。

地下遺跡は何層も重なって地中深くへ向かって存在している。


「まるでダンジョンだな」

「魔物はいないみたいだけどね」

「いたとしても、わたくしがいますから、大船に乗った気でいてくださいな」

「あんがと太夫。心強いよ」


それにしても、とタクは自分がいた世界と、この世界との繋がりらしきものに驚いていた。

遺跡の壁には延々と壁画が描かれ、日本語らしき文字が記されている。


どうやら新皇国の成り立ちの物語が、壁画で描かれている。

文字の解読は後回しにして、タク達は壁画を見ながら下層へ降りて行く。


新皇国建国から下層に向かって行くにしたがって時間を遡っているようだった。


「昔の武将みたいだな」


馬上、威風堂々とした姿と合戦の様子が描かれているようだ。


「なぁ、あれは魔獣だよな?」

「魔人もいるようですわ」

「あっちのは…ドーマだな」

「そのようですわね」


何層か降りる。


「あれって、織田信長?」


黒鋼の鎧兜に西洋風の裏地が真っ赤な黒マント、白皙で細面のその男には鼻の下にひげがある。

更に降りて行くと、最下層にたどり着いた。


「あれ、どう見ても卓と美玖ちゃんがいる所だよな…」

「都庁のビル…ね」

「その上にドーマの魔王城…俺が見てきたものと同じものだ」


ぐるっと最下層の様子を見渡すタク達探索メンバー。


「あっちで起こったことが、こっちの過去につながっている?」

「そうみたいね」

「上の階…信長?が描いてあったあたりから、ちょいちょいあった白い集団は「白の一族」の祖先、かな?」

「それっぽいと思う」

「世界線がつながってるんだな…こりゃ彩姫達の解読班と壁画探索班は、同時並行しながら情報共有した方が良いね」

「うん、賛成」


タクは沈んでいた日本史の知識を必死でサルベージすることになる。







【続】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ