47 新メンバー
ちく、と腹の傷跡。
「まだ、ひっつれるな」
苦笑するタクは、手にした木剣を東屋の入り口わきに立てかけながら入ってきた。
「まだ、全力出したらあかんよ」
「そうは言うけど…」
「あかんのや」
「はい」
彩姫の微笑みの圧に素直にうなずいて東屋の中に入って腰かけた。
「内臓、はみ出してたんやで」
「らしいね」
「他人事ちゃうやろ」
「ごめん」
「まぁ、けど、焦る気持ちも解らんこともないし。ほどほどに、やな」
廃聖廟、黒の遺跡など、大陸における古代の遺物跡は数カ所点在しているという。
各地へ白の一族からメンバーを派遣することを検討している。
長閑な風の中、タク、ミュ・クー、彩姫はお茶をしながら話し出した。
「ともかく、ドーマ云々もそうだけど、根本解決しないとな」
「うん」
「せやな」
「今までは正直なところ、状況に振り回されて、目の前を解決する方が優先だった」
「そう、ね…その意味では、私ももっと出来ることあったのに」
「そりゃ、しゃーないやんか。その甲斐あってタクとトゥークのことも分かったんやし、会えたんやし」
ちょっと微妙な言い回しの彩姫。
ミュ・クーの表情も、ちょびっと微妙。
タクもタクでなんとも言えない顔をした。
鳥の囀りが聞こえ、三人は三様の沈黙。
「三宝物の来歴は、大陸王の大陸統一の前なのは確定している」
「大陸王以前に、この大陸でなにがあって、どうして三宝物はこっちへ来たのか、かな」
「偶然なのか必然なのか、そこも問題やね」
「いろいろ考えも迷走したけどさ、方針をきっちり固めないとだしな」
「いろんなことがあって感情が揺れちゃったものね…ドーマの考えなんか、結局私たちは想像するしかないし」
「その辺は王妃様とも、もう一度キッチリすり合わせとかんとあかんな」
「廃聖廟の調査はどんな感じなのかな?」
「ウタさん情報以上のものはまだないかな。当然なんだけど、壁画の劣化が酷すぎて判別不能らしいしから」
「ま、都合よく修復なんかでけへんし、ましてや新情報なんちゅうのも出てこないっちゅう言う事やね」
三人顔を見合わせて苦笑いする。
そこへ雪村と見知らぬ女性を連れて侍女がやってきた。
「ご無沙汰してます」
よっ、お疲れさんとタクが労いの言葉をかける。
ミュ・クーと彩姫も笑顔を見せる。
雪村の連れて来たのだろう女性に視線を向けた。
「こちらの方は?」
「新皇国公爵のご令嬢で…」
「君乃と申します。お見知りおきください」
完璧なカーテシーをする彼女と雪村にタクが問いかける。
「ここで宜しいですか?それとも…」
「こちらで結構ですわ」
少し硬い笑顔で答えた君乃と控えていた雪村の為に、席を用意させた。
「君乃嬢というと、もしや?」
「元王太子殿下の元許嫁、ですわ」
「やっぱりそうなんですね。…話し方が太夫と被る」
「太夫というと、桜太夫のことですの?」
笑顔で肯定する。
「桜太夫は私にとっては義姉にあたりますわ」
「お、そりゃ知らなかった。太夫はその辺の事情を全く話さないからね」
「せやな、新皇国に所縁があるとは聞いてたんやけど、ね」
「ご存じとばかり思ってましたわ」
「付き合いはそこそこ長いんですけど、別に知らなくても問題ないですし、まぁ、話したくなったら話すでしょ」
タクが笑って言ったその言葉に、君乃は衝撃を受けたように目を丸くした。
「それで…命を預けられますの?」
「ああ、俺の知ってる太夫なら問題ないです。別に過去や生まれはそんなに重要じゃないです」
ミュ・クーも彩姫もタクに同意して笑顔で頷いている。
と、噂の桜太夫がやってくるのが見えた。
「来た来た(笑)」
太夫は君乃を認めると、肩で大きく吐息をついた。
「遂に来ましたわね」
「わたくしもお仲間にしていただきたいと思いまして」
「来てしまったものは仕方ありませんわ…帰れと言っても聞かないでしょうし」
にっこり微笑み合う二人。
笑顔で相当の圧をぶつけ合っている。
「はははっ。こりゃなかなかやね」
愉快に笑い飛ばした彩姫。
「で、君乃さん、どう言うお積りなのかしら?」
「お義姉様と一緒にいたかった、では無理がありますわね」
「ですわね」
「てか、な~んか妙な具合やね」
「君乃さん、もう地金を出しても宜しいんじゃない?」
スンと真顔になった君乃の雰囲気が変わった。
「もぅ…い~じゃない!お義姉様といっしょが良いの~♪」
その豹変ぶりにタク達の方がびっくりした。
「おいおい…」
「タク、こっちが君乃の本性ですわ」
「あ~、これはこれで濃いキャラだな」
「褒められてない気がするんですけど?」
「あ~申し訳ない!っていうか、地の方が話しやすいんだけど、こっちも普通で良いかな?」
「良いですよ~(笑)」
「いろいろあったことは聞いていますけど、それはあとでゆっくり聞かせてくださいまし。それよりここまで来た本当の理由を聞かせて頂戴」
きゅっと真顔になった君乃。
「潰すお手伝いがしたいです」
「ん?」
「だ~か~ら~、ドーマを潰す手伝いがしたいんです」
「理由を聞いても?」
「殿下をあんなにした奴、ボコボコにしないと気が済まないんです」
ごごごっと聞こえるような気迫が彼女の背後に見えた気がした。
「わたしは殿下をお慕いしています。それは今でも変わりないです」
「興世は廃太子後、南部の領地に行ったと聞きましたわよ?」
「婚約破棄とか、浮気とか、貴女を蔑ろにしたらしいって噂もあったわね」
桜太夫とミュ・クーが尋ねた。
「その通りです。表のわたしは殿下に疎まれました…というか、そう仕向けたんだけど」
「…」
「今は南部辺境の小さな領地で、桔梗と一緒にいます」
「桔梗?あの子?」
「ええ、そうよ」
太夫はどうやら桔梗と言う名前に心当たりがあるようで…
「今の殿下の傍には桔梗がいた方が良いと思ったの。で、わたしはこっちに来たの」
「そう…貴女たちは、本当に…」
太夫と君乃の間では話がつながったようだ。
「俺達にはよく判らないけど、まぁいいや。とりあえず歓迎するよ」
「この説明でいいの?」
「ああ。太夫がわかってるんだろ?で、理由はともかく、目的は一緒ならいいんじゃね?」
苦笑いしながら桜太夫は丁寧に頭を下げた。
「戦いの場では盾役でお力になると思いますわ」
「え!盾役なんだ!」
【続】
タンクの公爵令嬢www