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45 子供の駄々

クニカ国王の私邸を全員脱出。

ほとんど入れ替わりに興世の私兵が急襲してきたという。

状況を確認するため、私邸近くに潜んでいたユミンと雪村。


「興世の私兵、か」


沈痛な顔をして馬を疾駆させているタクに、ミュ・クーと彩姫が馬を寄せて来た。


「今は仕方ないわ。相当可愛がってたから」

「せや、もうちょい落ち着いたらわかるんやないかな」

「もう随分経ってるんだぜ。多分、クニカもわかって黙認してる」

「けど、タクを殺したって…」

「理屈じゃないんだよ、きっと」

「あっちもこっちもお子様ばっかりやん」

「そう言ってやるな。気持ちはわかる気がする」

「まぁ、ね」


行き先は辺境としか言ってないから、おそらく追手は来るだろうが、そう大きな問題にはならないだろう。

少なくとも本来の目的である廃聖廟の調査については妨害するメリットがない。

興世はただタク憎しの逆恨みで私兵を動かしている。



「仮に見つかったとして、取り押さえればそれで良い」

「生け捕りやんな?」

「勿論だ。そもそも一緒に戦った仲間だったんだ。進んで殺したいとは思わない」

「せやな」



タクは興世の狙いが自分だと確信していた。

なので、ユミンたちと合流したら、隊をふたつに分けようと考えていた。

合流のための小休止中に、皆へ今後の動きを提案する。



「ナゴン様はミュ・クー、彩姫、ユミン、リュウと同行の兵の2/3を連れて聖廟へ向かって頂きたいです」

「残った貴方たちは?」

「興世の追手の相手をします」

「つまり陽動ですね?」

「ですね」

「彼等は俺を狙っています。とはいえ、俺単騎で別行動は怪しまれますので」

「桜太夫とアーネがいれば、まず遅れをとることもないですね」

「はい。なるべく時間を稼ぎます」



一昼夜、タクは数名の部下と共に興世の兵を引きずり回した。

雪村がふと不審を覚えて、様子を見に追手の近くまで戻る。



あれ?

おかしいな、やっぱり人数が少ない



何度確認しても、私邸を急襲した人数と追ってくる人数が合わない。

雪村は慌ててタクの許に戻って報告した。


「恨みの矛先は、俺たち全員か!」


見誤ったと唇を噛んだ。


「雪村、アーネと一緒に追手を無力化できるか?」

「大丈夫です」

「頼む」


その場でタクは桜太夫と野営の準備をする振りをし、アーネと雪村は散開して追手を待ち伏せた。





「おっかしいな~」


ユミンが背後を気にしながら呟いた。


「気づきましたか?」


リュウも得物を手にして背後を気にしている。


「ユミン、タクへ知らせてください」


ナゴンも気づいて指示を出す。

既にミュ・クーと彩姫が兵たちに迎撃の命を出していた。


「なんでうちらが恨まれなあかんの!」


彩姫は飛んできた矢を杖で弾きながら嘆いた。





「何故、そうなる?」


クニカは目の前に倒れている息子を見下ろした。



タクからの手紙を見たクニカが息子を呼んだ。

意気揚々と、興世は父にタク一行の襲撃指令を出したことを報告した。


「姉様を見殺しにしたのです!姉様は愛したタク殿に裏切られていたのです!」

「裏切られた?」

「そうです!あんなに何人も女性を侍らして、姉様を苦しませたんだ!」

「……」

「姉様はアイツを愛していたのに!苦しませて、殺したんだ!」

「姉様をこの世で一番大事に思っているのは、僕なんだ!姉様をないがしろにしていたアイツじゃない!」


激情が興世の理性を破綻させている。


「アイツだけじゃない!周りの女達だって、姉様を見殺しにできて、きっと一人減ったって喜んでるんだ!」


クニカは興世の頬を殴り飛ばした。


「何故、そうなる?」

「だって、だって!」


幼児の様に駄々を捏ねる、図体だけは大きくなった息子を、クニカは拘束した。


「なんで?なんで、僕が?僕は何も悪いことしてない!ドーマの事だって、世界が崩壊したら誰一人残らないんだよ?そしたら誰も悲しまないんだよ?」

「は?」


必死に抵抗しながら叫ぶ息子の言葉は、到底まともな理屈ではなかった。

拘束していた兵すらも唖然とした一瞬の緩み。

興世は兵の腕を振りほどき、その腰にあった太刀を奪って父に対峙した。


「興世…太刀を捨てよ」

「嫌だっ!アイツとアイツの女たちをコロス!邪魔するなら、父様も容赦しない!」


クニカはふっと気の籠った息をつく。

次の瞬間には、興世は太刀を打ち落とされ気を失っていた。


「この馬鹿息子が…興世を城の地下牢に繋げ。タク殿たちを追った兵を引き上げさせよ!急げ!」


往年の気迫が戻ったようなチカラ強さだった。




ユミンがタク達を見つけたとき、既に追手に囲まれ危機一髪だった。

背後から突然現れたユミンと言う強烈な伏兵。

囲みは乱れた。


「アーネ!」


右腕を失ったアーネを雪村が必死に守っている。

矢が数本突き立った桜太夫は、腹に傷を負ったタクを庇うように円陣を組んでいた。

囲みがほころんだとわかった太夫と数名の兵が追手に逆襲する。


やがて喧騒が止み、戦いは終息した。

追手は無力化され、縛り上げられた。


太夫の矢傷は数は多かったが、それほどの深手にはなっていない。

タクは腹部を斬られ、内臓が少しはみ出ていた。

アーネは出血が多く気を失っていた。

ともかくも、ユミンと雪村とで応急手当を施す。


「動かせませんね」

「だねぇ…雪村、向こうも心配だから見繕って応援に言って頂戴」


チラとアーネを見たが、雪村は苦しそうに頷いた。




追手の数はこちらの兵の半分ほど。

ナゴン達は後衛職が多いので、タクが多めに兵をつけてくれていたのでなんとか軽傷者だけで済んだ。

追手はほぼ全員拘束した。

双方死者は出なかった。

ほっとしているところへ雪村が駆け込んで、タクやアーネ重症の報せを持ってきた。


「興世…なにしてくれんの」


彩姫から怒りのオーラがほとばしった。


「連れてって!」


ミュ・クーと彩姫は馬に飛び乗り、雪村と共に再びタクの許へ駆け戻った。





【続】

温室育ちの甘ちゃん…

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