04 お次の番だよ、桜太夫
「おーきーろーーーー!!!」
まだ微睡から覚めない俺を強制的に覚醒に至らせる…
瀧夜叉の怒鳴り声。
胸倉をつかんでガクガクと揺すられるが、それでも俺の意識は意地でもはっきりと覚めようとしない。
ああ…どんだけ俺は疲れているんだ…
長期間に及ぶ緊張と体力の消耗。
メンタルもフィジカルもすり減っている。
そんな俺に追い打ちをかける。
「俺を本気で殺す気か?」
「な、に?」
俺の胸倉を掴んでいる瀧夜叉の腕を捻り上げた。
「ぐっ」
「いい加減にしろ」
俺の本気の怒気を感じたのだろうか…
瀧夜叉の無駄に高いテンションが急降下した。
「す、すまん」
「俺はとことん疲れてるんだ。もう少し休ませてくれ」
「は?」
彼女は俺が何を言っているのか理解できない…そんな表情だ。
だがしかし!
俺は寝る。
薄れて行く意識のなかで、彼女が荒れて叫ぶ声が遠ざかってゆく。
揺すっても、怒鳴っても、叩いても
タクが起きない。
さすがの瀧夜叉も異常を感じた。
幔幕に次々やってくる皆も、この状況に茫然としている。
タクを起こそうとする瀧夜叉の行為はどんどんエスカレートする。
桜太夫とアーネが彼女を羽交い絞めにして、タクから引きはがした。
ユミンが水を瀧夜叉に差し出した。
「ちょ~っと落ち着こうか?」
ユミンの目がちょっと?いやかなり怖い。
「ふーっ…ふー…わ、わかった」
水を一気に飲み干して、大きく深呼吸した。
「タクを殺す気だったかなぁ?」
「そんな!まさか!…ごめん」
冷や水を被った後のように頭が冷えると、今の今まで自分がタクにしていた行動に愕然とした。
「あれ?」
瀧夜叉はあるべき姿が見当たらないことに気付いた。
「彩姫は?」
「それをタクに知らせに、貴女は走ったんじゃなくって?」
桜太夫の言葉に瀧夜叉はここへ来た理由と、タクを乱暴に起こそうとした行動を思い出した。
「そうだった…」
「といっても、タクはまだ寝ていますから、起きるまで待ちましょう」
「…だけどっ」
「姿が見えなくなってから随分経つみたいです」
太夫がユミンを見ると、彼女は小さく頷いた。
「確かに緊急事態には違いありませんが、といって時間が経っているなら慌てるほうが危険ですわね」
冷静な太夫の言葉に皆はその場に座り込んだ。
「あ、あのっ」
小さく挙手したアーネに、太夫は発言を促した。
「誘拐とかではないと思います」
「どうしてそう思いますの?」
「最後に姿を見たときのことだけど、『調べものしてくる』って言ってたし」
「ご自分で陣を抜けたということですね?」
「護衛も連れずに、ひとりってとこにちょっと驚いたので覚えてるんだ」
「であれば、出先で捕らえられたか…まだ『調べもの』が残っているか、ですわね」
「彩姫は凝り性だから、まだ調べてるって可能性のほうが大きいんじゃないかな?」
「そもそも、あの子は黙って陣を出て行ったのですか?」
太夫の言葉に瀧夜叉が食いついた。
「おいっ!それって脱走ってことか?!」
「そうは言っておりませんわ。事実、アーネに行き先は告げずとも目的は伝えてます」
「けど!」
「瀧夜叉さん、貴女は誰かを罪人にしなくて気が済みませんの?」
「そ、そういう訳じゃ…」
(オカシイですわね…単純な方ですけど、ここまでではなかったと思うのですけど…)
太夫は腕組みをして自問自答した。
(そういえばここ数か月、タクと彩姫のお二人と、私たちで何かすれ違っているように感じますわ)
いつからそんなことにと思い返す。
(和議、の話からですわね…)
チラと皆に視線を送ると、
瀧夜叉は不貞腐れたように頬を膨らませて黙って下を向いている。
ユミンとアーネも言葉は発していないが、明らかに不服そうな顔をしていた。
(こんな顔をする要素が、今までの話の流れであったかしら)
(彩姫さんが脱走したと瀧夜叉さんが疑ったとき…わたくしが否定を提示した、から?)
(そもそも、わたくしも…変でしたわ)
彼女は自覚した。
いままでふんわりと、そしてじわじわと広がっていった霧のようなものに思考が覆われて行ったことを。
(いえ、ちょっとまって下さいまし…前提からおかしくはなくって?)
タクが彼自身の世界に渡り、ミクが黒翼山脈の村へ向かった。
そして程なく前触れもなくショーモン軍の哨戒部隊が、村の者に襲撃される事件が起こった。
そこから戦火は一気に広がって…
(わたくしたちはミクを敵と認識したのですわ…)
その事実に太夫は愕然とする。
(わたくしたち、最初から今までミクさんと一度も話していませんわ!)
押し黙ったまま固まった太夫に業を煮やして、瀧夜叉、ユミン、アーネはタクの幔幕から出て行った。
桜太夫はそのことすら気づかないほど、深く自分の思考に没入していた。
「太夫、オカシイだろ?」
不意に背後から声を掛けられ、びくっと震えた。
「タク」
「次に気づくのは太夫だと思ってたよ」
「どうして…」
「まだ、な~んにもわからん」
俺は苦笑しながら続けた。
「彩姫が探りに行ったんだよ…ただ、ここまで帰りが遅いと、ちょっと不安だな」
はっとする桜太夫。
「いろいろなことがカチッとつながりましたわ」
「それは良かった」
「で、それはそれとして彩姫さんですわ」
「うん。最初の予定だと昨日帰ってくるはずだったんだけどね」
「では…」
「なにかあった、と思う」
「といって、慌ててどうこうもできませんわね…どこに『目』があるがわかりませんものね」
「その通り。明日までちょっと考える」
「承知いたしました」
「気をしっかり持ってな…すぐ引き戻されちまうから」
彼女は俺の目をみて、しっかりと頷いて幔幕を後にした。
【続】
理性が行動基準の人が…(笑)
てことは、瀧夜叉ってwww