39 鍛冶師の父親
めちゃくちゃ残酷描写あります。ご注意ください<(_ _)>
― 蔵王山脈 物造り隠里 ―
夕暮れ時―
里から数名の村人と彼らが運ぶ荷車が列を作り、北方軍後方の荷駄隊陣所に向かって動き出した。
「最上の殿さまからご依頼された太刀を納めてきます」
「気を付けて、な」
村長が荷車隊の宰領を任せた若者に声をかけた。
この隠里の鍛冶師たちは、名刀工で知られる堀川派の末端に連なる。
「重さと切味に重点を置いた太刀、か」
嫁と娘、跡取りの息子を連れて彼も見送りに出ていた。
「てて様、魔物とはどんな獣ですか?」
「さてな、俺も見たことない」
まだ満足に口のまわらない幼い息子の頭に手を乗せて、彼は真っすぐに荷車隊の後姿を見続けていた。
何か、身の内が微かに震えている自覚がある。
それが悪い予感であることを知っていた。
何にとっての悪い予感なのかは知る由もない。
「さぁ、夕餉にしようか。また次に取り掛からねばならんからな」
独り言のように口の中で言うと、家族を促してわが家へ入っていった。
夜の帳が里を覆い、星のきらめき月明かりが家々を淡く照らしていた。
深更のことで、人っ子ひとり外に出歩いている様子はない。
畦道も、里の真ん中を突っ切る少し広い道も、小川、土手道、その端で微風に揺れている雑草の葉がさわさわとすれる音しかしない。
宵闇の中に影があった。
禍々(まがまが)しい翼をひろげ、滑空しているのだろうか、羽ばたきする音は、ない。
ふたつ、みっつと滲み出るように増えて行く。
隠里といっても、重要な武器供給源のひとつである。
村の周囲には深い堀もあり、二人分の背丈程の柵が囲っていた。
遠望できるよう見張り用の櫓も四方に立っており、交代で村人がそこに詰めていた。
勿論、外敵の侵入に備えて村人は得意の得物を自在に操る武闘派集団でもある。
豪っ
と一陣の強風が吹き抜ける。
見張り櫓にいた女が変な顔をした。
「生臭ぁ」
とつぶやく彼女の視界がゆっくり傾き、焦点が暗転した。
ごとん
彼女の首が櫓の床に転がっていた。
その様は四方の櫓すべて同じ出来事となる。
村の入り口にあたる柵の門番が、櫓の火がいつもと違っていることに気付く。
「わっ!なにやってる!」
「櫓が燃えてるぞっ!」
門番のひとりが緊急を告げる呼子を吹きながら櫓へ走り、ひとりが村長の屋敷に向かい、ひとり残った者が太刀を抜いて外に向かって目を凝らした。
村は一気に緊張をする。
子供を除き、男も女も得物を構え、目の良いものや弓の達者は屋根に上がって警戒する。
強風が村を吹き抜ける度に命が狩られて行く。
彼の鍛冶場は表からは見えにくい半地下にあった。
戸を激しく叩く音がする。
「仕事中は来るなと言うたに…」
かなり経ってから叩く音に気付いた男が戸を開いた。
小さな塊が彼に衝突した。
「来るなと…」
苛立ちながら幼い息子に注意をしようとしたとき、村全体が炎に包まれていた。
異常な光景だった。
得物を持った者たちの首が、ころころと落とされて行く。
自分に縋っている息子が何か抱えていることに気付いた。
「何をもって…あ、う、うあぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
息子は嫁の首を抱えていた。
「ねえさ…」
全てを言い終わる前に、息子も首がなくなっていた。
咄嗟に男は身を引いたため、腕に鋭い痛みを覚えた程度で助かった。
彼は首のない息子を抱いたまま、鍛冶場に取って返す。
仮設の寝台に息子を寝かせ、彼は本来額を守る鉢巻を首に巻き付け、先ほど打ち上がったばかりの豪刀を握った。
鍛冶場の裏手にある隠し扉から外に出ると、彼は身を潜めて村の様子を確認した。
まだ、生きている者もいるのだろう。
風を切る矢の音がする。
太刀を打ち合う金属音や火花も見える。
襲撃者の影がみっつ。
そのうちのひとつに矢が付き立った!
影の額だろう、命中してそれは倒れた。
男は矢の軌道を追って視線を動かした。
そこには果敢に矢次早に打ち出す、弓の名手と言われた自分の娘がいた。
影のひとつが娘を見つけ、疾風のように駆け寄る。
彼は横から飛び出し、影を腰から切断した。
内臓を振りまき、影の足はそれでも娘に向かって数歩進んで、倒れた。
「ぐぅ!」
悲鳴ではない、断末魔の声に彼は娘を見た。
斬ったはずの影が太刀を投げ、娘の両足を切断した。
両足はそのまま立っていたが、膝から上はそこからずり落ちるように倒れる。
「とと様!」
娘の声。
そこに上からのしかかるような影!
「そこを退け!」
彼の怒声と太刀の一閃は敵の刃に阻まれる。
そして影の拳は、娘の右の乳房に埋まっていた。
むくむくと影の股間から何かが生え、娘に挿入された。
「うおおおお!!!」
父親は目の前で瀕死の娘を犯す影に、憤怒の一刀を娘を辱めるモノに見舞った!
無念にもその一刀はわずかに届かない。
既に事切れているのか、全く動かない娘だったが、その瞼から鮮血の涙が溢れている。
ぎし…
嫌な音が父親の耳朶に響く。
娘の口からおぞましいモノが顔を出し、遂には娘を縦に引き裂いた。
父親の声にならない叫び
影の愉悦にまみれた、狂気の笑い声にも似た咆哮
父親の手にあった太刀が影を捕らえた。
が、深手を与えにとどまって、影は飛び去った。
パチパチと村を焼く火の音。
彼は無言で劫火に包まれた自分の屋敷の前に立っていた。
その火の中で
首を斬り落とされた嫁と息子
辱められ、引き裂かれた娘
の亡骸が焼けて逝く…
男は暗い怨念を抱いていた。
魔王を殺す
その一念だけだった…
【続】
どうも私は鬼畜展開になってしまいます…申し訳ございません。
ですが、これがないと、あまりに薄っぺらいものになってしまいます。
ご容赦ください。