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37 仮説

タクはミュ・クーにさりげない風を装って尋ねた。


「この魔法陣はタイムリープできる?」

「タイムリープ?ああ、時間を遡ってやり直しってやつね」

「うん、そう」

「多分、できるわよ」

「えっ!なら」

「でもね、死んだ事実をやり直すのは無理。違う世界線になるかな?」

「違う世界線、なのか?」


そこに彩姫も混ざった。


「仮に魔法陣で時間を遡るとしてや、その先には前に入れ替わった時みたいに、別のタクがおんねん」

「タク自身の時間を巻き戻すとき、タク単体なら可能だけど、それだとタクが幼くなるだけよ」

「どーしてそーなる?」


ミュ・クーと彩姫は一緒に肩をすくめた。


「今ある時間を巻き戻すのは、同じ世界線にあるすべてを巻き戻すのと同義なのよ」

「すべて?」

「せや、中心点をどこにおくにしても、同じ時を刻んできた人、モノ、接する全ての宇宙を丸ごと巻き戻すことに外ならん」

「あ…」

「まぁ、ラノベやアニメみたいな都合のいい巻き戻りは錯覚なのよ。それの含まれるすべての世界の時間を戻すなんて、とんでもないエネルギーが必要になるわ」

「いまの時間はそのまま流れる。仮にタクが時間を遡る行為をすると、そういう【選択肢】をとったという事実が出来上がるんやけど」

「そうすると、こちらであったことが『なかった』という別の世界線を創ることになる」

「結局な、死んだ人を本当の意味で生き返らすことなんてでけへんねん」

「お、俺は別に死人を生き返らそうなんて…」

「ダメよ、魂胆ミエミエよ」

「せやで、そんな都合のええこと、出来てたまるかいな」


彼は大きく息をつく。


「だよなぁ…」


彼はそこでもうひとつ素朴な疑問を投げかけた。


「過去に戻ってあったものをなくすってのはどうだ?」

「タイムマシン小説?」

「そうそう」

「よりよい未来を迎えるために、過去の事実に干渉する、みたいなさ」

「そっちのほうがまだタイムリープより現実味があるわよね」

「例えば、原爆の開発者にさ、それを開発する前に説得して作らないようにするとか」

「うーん、理屈では可能だけど、そこに一つ問題があるのよね」

「問題?」

「歴史、時間の強制修復力」

「ああ、聞いたことがある」

「それがどれだけの強制力を持っているかは未知なのよね」


彩姫が言う。


「せやからミュ・クーはこの手段をとった言うことやろ?」

「そうよ。時間と空間、世界の理と因果律なんかを個の力で捻じ曲げることなんて出来ないわ」


ひと息ついた彼女に彩姫が言う。


「ちゅうことは、挑戦済みってこと?」

「まぁ、ね。魔法陣を重層にして、立体的に更に術式を串刺ししたり球形にしたりしたけど、さっき言ったみたいに莫大な…そうね、宇宙をもう一つ作るくらいのエネルギーが必要かな?」

「もしかしたらそれ以上かもわからんな」

「うん。だから時間の流れについては触らない。世界線を渡っても時間や歴史には干渉しない。実体は世界線ごとの相互干渉に抵触するから放棄したのよ」

「結果、ミクはんの身体に同居するってなことになったんやね」


タクの思考の隅に何かがぎった気がした。

それに反応して表情がほんのわずかに揺らいだ。

彩姫がそれに気づき、彼の顔を見つめた。


「ああ、うん。なんか思い付き?みたいなもんがあって」

「なんやの?」


ミュ・クーもタクを見る。


「あー、ドーマなんだけどさ」

「ドーマ?」

「うん。アイツ、なんか変な動きしてんじゃん」

「まぁな」

「なにが目的なんだろって、素朴な疑問?」

「せやな。ただ単に征服欲だけなら、もっと大々的に動くし」

「あっちの世界に行く意味がわからないわね」

「だろ?」


タクは腕組みをして唸りだした。


「奴は一種の変質者よ」

「というと?」

「大陸王としての大陸統一も、平和になった世の中とそこに生きる人たちの絶望した姿が見たいっていうだけで、ぶっ壊すために創り上げたんだもの」

「子供の積み木遊びやんか」


ばっさり彩姫は切り捨てた。


「相当拗らせてるな…で、それを阻んだのは、『白の一族』とトゥーク王子やミュ・クーだよな」

「そうよ。といっても『覇王の聖剣』や『万感の太鼓』あってこそだったけどね」

「だよな…って、三宝物って誰が造ったんだ?」

「え?」

「大陸統一に使ったとか、ドーマをやっつけたとか、霊験あらたかなそんな代物の製作者は誰って話」


ミュ・クーも彩姫も首を振る。



『他の世界から乱れたこの世界を救うために降臨した長剣を持った勇者様。

そしてこの大陸にある35の国をまとめ、平和な日々と人々の幸福を招いた大陸王』



「『他の世界から乱れたこの世界を救うために降臨』ということは、元からこの世界にあった剣でも人でもないってことだろ」

「伝説が正しいなら、そうなるわなぁ」

「この伝説の原典とかはないのか?」

「原典?」

「うん。口伝にしてもこれだけの情報が含まれてるし、どっかに文字で記載されているかもしれないし」

「なるほど」

「『長剣を持った勇者』とだけ伝えられてるけど、じゃあ『万感の太鼓』は?『破邪の薙刀』は?って思わないか?」

「せやな」

「それに奴の目的を阻んだのが『白の一族』というより、その三宝物なんだろ?ってことは、それがなければ目的達成したかもしれないよな?」

「タクが何を言いたいか、見えてきたわ」


ミュ・クーも参加する。


「三宝物の存在を消す、製作者を殺す?」

「きっと何らかのチカラでこの世界に転移してきたんだ。つまりどっかの世界線上にある歴史にいる…と思われるその人を…」

「今の目的は三宝物の製作者を亡き者にすること」


と、そこで彩姫が首をひねる。


「けど、そんなことしても時間は戻らんのやし、目的達成にならんやないの?」

「変態なんだろ?」

「変態ね」

「だったらさ、そうして三宝物がないことにすることで、自分の目標達成する世界線を実現して、高見の見物して悦に入りたい、とか?」


いつの間にかナゴン王妃がそばに来ていた。


「ホントになりそうで怖いわね」


彼女の真剣な顔にタクもミュ・クーも彩姫もげんなりした表情になった。






【続】

この理屈に異論は多々あろうかと思いますが、まぁ、笑って流してください<(_ _)>

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