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35 記憶の補完

あれは、なんだろう…

ああ、小学校の教室だ

中学の、厨二だなぁ


眼前に懐かしい風景、友達

初恋…わーーーハズい!


教室から見える小さな校庭

都会の真ん中にある学校なんて、校庭も箱庭みたいだ




霧が晴れるように、いろんな景色が見える…って、よみがえる?


ああ、これは、俺の記憶だ


思い出せなかった、俺の足跡だ



バカばっかりやってた高校生時代

あいつは元気なのかな…生きてるかな


碌に受験勉強なんかしないで、推薦で大学

そうだった、バイト三昧の生活だったな


就活も結構アバウトにやってたっけ



おっと、そうそう、仕事であんな失敗やらかしたっけな

得意先にフォローされるとか

認めたくないものだな…若さゆえの過ち(笑)




ん?

見知らぬ天井ってか…

初めて二人で来た旅先の旅館か


あ、美玖

てか、かわいい

こんな可愛い子と

俺でいいのか?

俺はいいけど



なんだろ、なんか、抜け落ちてる気がするが



世の中ひっくり返った

ラノベ?アニメ?

魔物とか魔王とか…



守らなきゃ、だよな




「卓!」


柔らかい手が俺の手を握ってる。


「み、く」


目の前に美玖が泣き笑いしてる。


「目が覚めた?」

「お、おう」


身体を起こしてベッドに腰かけると、誰かが部屋に入ってきた。


「目ぇ覚めたんやね」


丸顔の愛嬌のある女子がニコニコしてやってくる。


「自分が誰かわかるな?」

「えっと、ああ、そりゃ分かります」

「頭痛や吐き気は収まったようやね」

「快調ですが…」

「敬語って、なんや、けったいな言葉遣いして」

「初対面でタメ口はさすがに出来ません」

「ちょ、初対面って」


彼女は少し表情を曇らせて、じっと俺の顔から全身を嘗め回すように見る。

顎に指を添えて、目を閉じて、じっと考え込む。


「彩姫さん、どうしたの?」


美玖が彼女をそう呼んだ。

彼女は無言で部屋を出て、中年の女性を連れてきた。


誰だ?

ってか、ここどこ?


今更な疑問。


中年の女性はナゴンと名乗った。

彩姫と呼ばれた彼女とナゴンさんは、俺からちょっと距離をとって何事か小声で話している。

その間も俺は美玖に手を握られたまま…


「もうちょい、ゆっくり休んでな。美玖はん、任せてええか?」

「あ、うん」

「よろしゅうな」


急に部屋が静かになった。

美玖が俺を寝かせる。


「もう眠くはないんだが?」

「いいから、寝る」

「お、おう」

「私はここにいるから、安心して寝てね」

「お、おう」


さして眠くないはずだけど、美玖に言われるがまま目を閉じた。



帰ってきたんだな



そんな言葉が浮かんで、意識が落ちて行く…






数日後――



「あれは、卓はんやな」


彩姫は確信していた。


「向こうで相当なことがあったんやないかな」


ナゴン王妃は無言で彩姫の次の言葉を待った。


「あれから何度か話したんやけど、完全にうちらの事、入れ替わりで渡ってった後のことを覚えとらん」


彩姫は彼の体格、特に筋肉のつき方や傷の有無も含めて、卓に戻ってるいることを説明した。


「忘れてたはずの子供の頃の記憶も鮮明になっとるし」

「どうしてそんなことが?」

「わからんわ。ま、記憶の改竄かいざんがされとるっちゅうことは、卓の中で折り合いつけた結果なんやろな」

「折り合い?」

「せや。忘れたいこと、認めたくないこと、覚えておきたくないこと…そんなんを脳内で封印ってか、放棄するためやないかな」

「つまり?」 

「忘れていた記憶を蘇らせて、脳内の記憶に関する総量を補完したって感じやと思うわ」

「う~ん、難しい」

「うちもうまく説明でけへんし…けど、卓はんの防御本能が働いたっちゅうことやろね」

「私の知ってる卓にもどった?」

「ま、おおむねね、その認識でええと思うわ。そうせな卓はんはぶっ壊れたんと違うかな…」


彩姫は苦笑いした。

ナゴン王妃が微笑んでいた。


「と、なると」

「そうです。うちらがここにいることは、彼に無用な混乱を与えるっちゅうことです」

「そうですね。それにドーマがここを去った以上、おそらく戻ってくることもないでしょうし…」

「大概の調査は王妃様のお蔭で完了したと思うし、こっちで何かあっても戻ってくることは問題ないと思いますぅ」


美玖に魔法陣の起動操作方法も教えておきますと、彩姫は美玖を見た。

その言葉に美玖が頷き、少し寂しそうな表情で彩姫を見た。


「帰るんだ」

「せやね」

「お世話になったわね」


ナゴンは深々とお辞儀をして謝意を示した。


「悔しいけど、ちょっと寂しいわ」

「あはは、何言うてんの。清々するんやない?」

「ちょ、そんなこと」

「ないわけないやろ。意外と美玖はんは焼き餅焼きやからな」

「意外とって、随分じゃない?」

「ま、もう会うこともない思うと、寂しいのはうちも同じやし」

「彩姫さん」

「美玖はんも元気でな」


ふたりはハグをして別れを惜しんだ。


「じゃあ、今夜は盛大に送別会ね」

「ありがとな」

「卓とは…」

「混乱さすだけやさかい、会わんで行くわ」

「そう…」

「それに、あれだけの苦痛に晒されたんやし、まだまだ安静にしとかな、な」

「うん、ありがとう」


その夜

卓を除いた、彩姫とナゴンを知るメンバーが揃って夕食を共にした。



翌早朝

魔法陣が起動して、先にナゴンが渡り、続いてリュウが渡り、最後に彩姫がその中心に立った。

見送りには美玖と光司が来ていた。


「ほなな」

「もう会えない?」

「やめた方がええと思うわ」

「だよね」

「卓はんと幸せに、な」

「うん」


魔法陣の光が彩姫を包み、それが終息した時、そこは静寂に包まれた。


「光司さん、私たちも準備ができ次第ここを撤収します」

「了解しました!」




その後――

彼女たちが立ち去るのを待ってたかのように、ダンジョンは自然に消滅してしまった。





【続】


ややこしいのが終わったwww

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