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31 姫将軍と魔王

未曽有の厄災だった。

東日流つがる奥六国おくろっこく常総海国ひたちかいこく関東六州かんとうりくしゅうで巨大な天変地異。

天を覆うほどの津波が沿岸を襲い、異形の獣や鬼と見紛う者どもが席巻して行く。

その震源は磐城いわきの国、大館城おおだてじょうにほど近い山の山頂に突如現れた漆黒の城塞、と恐れられた。

漆黒の城塞からドーマ配下の魔人、魔物が吐き出され、眼下の大森林を焼き払った。

そこを拠点に黒の軍勢は南下していった。




畿内耶麻都にある中央政府から海路やってきた第一陣は常陸の国との国境で陣を敷いた。


「第一陣総大将 浅井茶々である!」


副将に浅井江あざいごう、前田豪の姫将軍ふたり。

軍師格は真田幸村。

侍大将は前田慶次郎、上杉影虎、立花宗茂たちばなむねしげ

総勢千五百騎。


「これは、姫将軍殿。良くぞ参られた!」


隻眼の大男が返り血のついた顔に似合わぬ、にこやかな表情で迎えた。

既に彼の率いる軍団は、相当の闘いを経てきたようだった。


「こんな小娘で相すまぬ。時を置かず叔父上も九鬼、瀬戸内の軍団と共に後詰にやってこられると思う」

「いやいや、茶々殿以下軍師真田幸村殿等、一騎当千のツワモノ。正直安堵致した」

五郎八いろは殿は息災か?」

「覚えていていただけましたか。許嫁の忠輝殿と共に、上杉軍と合流して西側に布陣しており申す」

「まだ幼きに、健気な!」

「では、早速軍議に致しましょう」

「案内せい」


東国総領事にして関東六州かんとうりくしゅう総代の上杉景勝を総大将に、東進して磐城の国に入って布陣している。

蝦夷総代の蠣崎氏を除く東日流総代の津軽軍団が北から南下中。

奥六国総代の伊達軍団と常総海国総代の佐竹軍団が既に数度にわたって交戦を経験していた。


「敵は何者ぞ?」


茶々の問いに隻眼の軍将政宗が答えた。


「人ではございませぬな」


軍議用に用意された野戦の幔幕に、異形の死骸が横たわっていた。

茶々を含めた3人の姫将軍もさすがに眉を顰めた。


「獣か?鬼とはこういうものだと言わんばかりだな…」


真田幸村が呟く。

そこを差配していた片倉景綱かたくらかげつなが彼らに一礼して話し出した。


「これで兵卒のようです」

「なっ!では敵の将は更に醜怪と言う事か?」

「だけではあり申さぬ。角の生えた獣も従えております」

「魔物、鬼人の軍勢…」

「敵の総大将は魔王と名乗って御座います」

「大館城を占拠したとか」

「左様です」

「狙いはなんでしょう」

「まだ、その辺は不明でございます」


茶々は幸村、景虎、宗茂を見る。


「宗茂、上総の港へ使いを出しなさい。これは急を要します」

「徳川殿へも救援のご依頼をした方が…」

「勿論です。そちらは江、貴女が行きなさい」

「承知いたしました」

「豪、貴女は上杉殿の陣へ、この後の軍議での決定事項を伝えなさい」

「畏まりました」


中央に茶々と政宗を戴いた軍議が開かれた。





― 魔王城 ―



ドーマの機嫌はすこぶる悪い。

文明度の低いはずの、この世界の過去に遡ってきたのだ。

赤子の手をひねるより簡単に征服し、目的を達するつもりだった。

だがしかし、想定以上に災厄とも呼べるこの事態に即応してみせた。

迅速かつ的確に対応され、戦線を膠着状態にされるとは思ってもみなかった。



「どうなっておる!」


ドーマの苛立ちは最高潮に達している。

偵察すら満足に出来ない状況になり、圧倒的に情報量が足りない。



黒いフードの男も、この状況を見て驚いた。


「この時代に、これほどの力があったのか…」


彼はドーマの勢力圏を意識的に封鎖する意図が、増援待ちの時間稼ぎと理解した。




数日後、男の姿は戦場にあった。


「用兵が理にかなっておるな。見事な采配よ」


戦場を走りながら彼は敵?の将を探した。


「あれか!」


視界の先に幔幕と軍旗を立てた一軍を発見した。


「いかん!あの陣立てでは近寄れんな」


陣の前に隻眼の武将が軍馬にまたがり、太刀を抜いて悠然とそこにあった。

ズラリと整然と列を作る将兵。

幔幕の中央に総大将と思われる小さな影。


「姫将軍か!」


彼はその姿に見惚れた。

一瞬の隙。

首筋に刃が充てられていた。


「怪しげな奴。何者だ」


さすがにフード姿では怪しいと言っているようなものなので、敵の死者から鎧兜を拝借していた。


「すみません。迷いました」

「ほう。てっきり間者かと思ったが?」

「そんな者ではありません」

「ふん」

「あの…」

「何だ」

「あの姫将軍様は…」

「信長公姪御の浅井茶々様だ」

「そうですか…神輿にしては華やか…」

「お主、茶々様を知らぬとは、やはり間者だの」

「え?」


男は小さく詠唱する。


「それは無理だ」


ガツンと衝撃を首筋に感じたとき、既に男は気を失っていた。


「才蔵、どうした?」

「間者のようだ」

「殺したのか?」

「いや、茶々様の許へ連れて行く」

「敵だろ?」

「とは思うのだが、人だ」


倒れた男の顔や身体を調べる。


「確かに、人だな」

「まずは幸村の殿に」

「だな」


ふたりの忍びは男を担いで陣中へ戻っていった。





【続】

拙作(連載中断中)の【Make one CHOICE~不如帰ほととぎすの選んだ空。日ノ本を変えた男は敦盛あつもりうたう】から設定頂きました(笑)


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