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30/92

30 涙

「あてずっぽうの乱暴な妄想がホントになってた、か」


『タク』は庭園でのナゴンの話を脳内で反芻した。



…にしても、なんで俺なんだ?ミュ・クーはトゥーク殿下を追ってたんだろ?



そこで導き出される推論は自分が『トゥーク』であるということ。



確かに30歳手前までの記憶は曖昧、てかないけど

それが俺=トゥークとは限らない

う~ん

トゥークを追っていたミュ・クーの魂が、俺の彼女である『ミク』に憑依したのが傍証その1

『覇王の聖剣』を持てたことが傍証その2

けど…だけど、さ

俺にそんな記憶は全くない

明らかに他人事の感じだし



拠点を洋館に移し、その一室でひとり考え込んでいた。

光司は連絡係として一度街へ帰っていった。

リュウは警護として扉の外に待機している。



「『タク』様、『美玖』さんがお出でです」


考えを中断して招き入れた。


「どうした?休まなくて良いのか?」

「目が冴えちゃって」

「あー、ここんところ目まぐるしいもんな」

「うん」

「あっちの『卓』が心配?」

「うん。なんか変な感じなの」

「?」

「あは…んと、あっちには美女がいっぱいいるんでしょ?」

「あー、そっちの心配か」

「ん。あたしそっくりの別人もいるんでしょ?」

「ミュ・クーさん」

「うん。えっと、自分に妬いてる?的な」

「まぁ、複雑だよな」

「『タク』は彩姫さんや他の人ともハーレムしてたんでしょ」

「言い方!」

「でも、そうでしょ?」

「『ミク』と一緒の時は『ミク』だけだったし」

「だからなに?」

「あ、うん、そうだな。うん、そうだったよ」

「しかも今は『ミク』じゃなくって、ミュ・クーさんなんでしょ?」

「だな」

「……」


唇を噛んで、両手はパンツを硬く握っている。


「ずっと思ってたの」

「なにを、かな」

「『タク』が『卓』じゃなくても、『卓』じゃない?なのに何で私を抱きしめてくれないの?」

「…」

「不安だよぉ」


『美玖』は『タク』にすがりついた。

抱きしめたい衝動に駆られたが、『タク』は理性を総動員して耐える。

彼の胸を彼女の涙が濡らす。

どうしてよいかわからない彼の両手は、いまだ宙を彷徨っていた。

嗚咽が号泣になる。

直立不動で降参ポーズの『タク』

どれくらい経ったか、やっと『美玖』の激情が落ち着いてきた。

片手をそのままに、彼は『美玖』の頭を撫でた。


「バカ」

「ごめん」

「でも、落ち着いた」

「うん」

「きっとあっちで『卓』はやせ我慢してると思う」

「だね」

「まったく…このおぢさんは…」


『美玖』は彼の顔を見上げて、ニッコリと笑った。


「こ~んなにしてるのに、降参ポーズで硬直って…バカ!」


彼女は『タク』の股間に手を宛て、そして(不謹慎だが、男の本能ということで)硬くなっていたナニをこれでもかと捻り上げた!


「ぐっ!」

「いい気味だわ」


股間の激痛を耐え、涙目になった『タク』に、今一度彼女はとびきりの良い笑顔。


「ま、大丈夫、かな。『タク』も『卓』も信じてるわ」

「あ、りがと、さん」

「お休みなさ~い」


そう言って彼女は部屋を出て行った。


「がぁ!いってぇ~~~~~!!!」


しばらく寝床で転げまわっていた『タク』に、そっと回復魔術が降り注いだ。


「彩姫、か」

「あはは、やられてもうたな」

「明らか八つ当たりだろっ」

「しゃーないやんか」

「ああ、無理もない、か」

「ツラいんやな」

「なんかごめん」

「ええんや。おんなじ女同士、気持ちの一端は分かるし」

「あっちの俺もさ、やせ我慢してくれていることを祈るよ」

「みんな正気に戻ったってことやし、太夫もおんねんから、当面は無事、ちゃう?」

「何故、疑問形!」

「瀧夜叉の突撃」

「あ~、やりそうだ」

「けどまぁ、太夫が何とかするやろ」

「とは思うが…といって、ここでヤキモキしていても仕方ないな」


水を一杯もらって『タク』は椅子に座った。


「なぁ、俺はトゥーク王子だと思うか?」

「それはなんとも言えへん」

「傍証はいくつかあるけど、決定打がない感じだ」

「せやね。な~んも思い出せへんの?」

「ああ。只な、30歳前の事を思い出そうとすると酷い頭痛になる」

「その辺が鍵なんやね」

「話は全然違うんだが」

「どないした?」

「老師さ」

「ああ、それも謎やね」

「あのクソ爺の事だから、生きてりゃなんかやってそうだけど」

「生死すら不明やもんな」

「いつから姿が見えなくなったかも曖昧だし」

「困った爺や」

「生きてるとして、ナゴン王妃は深謀遠慮とか言ってるけど、それはそれで碌でもないことやってそうだ」

「せやなぁ。連絡位してくれたらええんやけどな」

「ほんとそれ」


ふたりは同じように苦笑いを浮かべた。




― ドーマの魔王城 ―



明らかに文明水準が違う場所に現れた。

標高が高く、鬱蒼とした大森林が広がっている。


黒いフードの男が物見櫓から、その大森林を見下ろしていた。


「ドーマは何を探しておるんじゃ…」


未だドーマの真の目的を図りかねている。

何か?誰か?を探しているのは分かるのだが、その目的が見えない。

すべてドーマの胸の中、だ。




玉座に深く座っているドーマは、手の中で何かをもてあそんでいた。


「ふ、少し遊んでやろうか」


魔王はその手の中のモノを見る。

黒い小さな種子。

掌の上にそれが浮かぶ。


「行け」


そう言うと種子は小さく揺れて消えた。






【続】

物語をとっとと進めるのが良いのか…キャラたちの心情を書いたらよいのか…それが問題だ(汗)

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