03 アラフィフの奮闘(笑)
それからはどーにも苦しい日々が続いていた。
なにがって?
あーだこーだ理由をつけて、可能な限り戦闘を避けてまわった。
瀧夜叉たちのストレスは、犠牲の出ないような小競り合いをすることで発散させた。
持ち回りの俺の夜の順番で、ともかく俺は『頑張った!』…
そして…
俺の安息は、週に二度のひとり寝の時と彩姫との夜に限られた。
半年、頑張った。
正直、もうすぐ五十になる俺だしな…
男だからといって、いかに鍛えているといっても、気持ちが萎えている相手に対しては結構厳しいよ…
四面楚歌ってこんなに辛いんだな、と。
彩姫とは都度情報交換…てか
「この夜の順番制って、おかしくないか?」
「?」
「いつからこんなだった?前は美玖だけだったし」
「ああ、そういえばそやな…て、確かにそこもおかしいな」
「だろ?」
「タクはうちが嫌になった、とか?」
「いや、ほかの四人が正直負担だな」
「あほ…」
そういって俺の胸に顔を埋めた彩姫は耳まで真っ赤ww
愛い奴じゃ…
じゃなくて!
このままだと俺は遠からず死ぬぞ。
あいつら毎回半端なく激しいのをご所望だからな。
「とはいえ、ストレスは発散させないとすぐに戦いたがるしな」
愚痴めいた俺の呟きに、彼女は俺の腕の中で小さく言葉を発した。
「なぁ」
「ん?」
「提案なんやけど」
「改まってなんだ?」
「一度、渡ってみたらどうやろ」
「渡る?戻ってみるってことか?」
「次まで二か月程やろ?」
「ああ」
「タクがタクの世界に戻ってみて、どうなるか…」
「もうこっちに戻れないかもしれない。そこの法則性は全くわかってないんだぞ」
「…行ったきり会えんようになるかも知れへんけど」
「四度目の渡りになるかもしれない」
「せや」
じっと彩姫の瞳を見つめると、それは小さく揺れている。
「なにかあるのか?」
「勘…としか言えへんのやけど」
「それでいい。なにか心当たりがあるんじゃないか?」
「黒の魔術師ドーマにセイメイ老師…簡単すぎやない?」
「そこは、俺も何度も考えた」
「結論でぇへんのやろ?」
「というより考えている途中から、どうも先に進まないんだよな」
「そこに違和感はあれへんの?」
「む…そういえば」
抱きしめる腕に力が入って、彼女は身じろぎをする。
「あ、ごめん、苦しかったな」
「大丈夫や」
「渡りの件、考えてみるよ」
「うちも、もう少し調べてみたいことでけた」
「?」
「老師の庵をもう一度さらってみたい」
「あそこか…もうずいぶん長い間放置しているけど、なにか引っかかるのか?」
「初手に戻るって感じやね」
「そうか!渡りについての記述のあった古書はあそこにあったからな」
「うん。老師が見つけたって言うてたけど、実際その書物どこにあったんやろって」
「なるほど。わかった。あそこに行く口実作るな」
「了解」
「しかし、気持ち悪いもんだな…記憶が欠損してる状態ってのは」
「欠損なんやろか…」
「?」
「や、なんでもあれへん。お休み…ゆっくり休んでな」
「ありがと…」
―黒翼山脈、ミク陣営本陣―
「どう思われます?」
ミクに声をかけたのは、担ぎ太鼓隊で彼女の補佐をしているリュウ。
ハルニーナのひとり息子。
「最近、おとなしい、よね?」
「はい。ここ半年以上大きな動きを見せません」
「タク、かな?」
「さすがに密偵は入り込ませることができていませんが、そう見るのが妥当かと」
「とすれば、こちらの意図がわかってくれた?」
「そこまでは…」
「だよね…だったら陣を解くか、和議に出るよね」
「はい」
「瀧夜叉たちの様子はわからないかな?」
「申し訳ありません」
「だよねぇ…といってあの陣立てと警戒の度合いからして密偵はまだ入れられそうもないし」
「はい」
ミクは再び遠眼鏡でショーモン軍を遠望する。
そこへミクの側近が伝令を連れて駆け込んできた。
「どうしたの?」
「敵を捕らえました」
「末端兵士なら何もわからないだろうから、解呪してあげて」
「いえ、その…」
「?」
「敵将のひとり『火山の魔術師』です」
「え?彩姫?彩姫を捕らえたの?」
「はい!」
「本物?というか、どんな様子?」
想定外の事態にミクはやや慌て気味に側近に尋ねた。
「おとなしいです」
「どこで捕らえたの?」
「セイメイの庵跡です」
「そんなところで、一体なにを…」
「書庫を調べていたようです」
ミクはうーんと唸って、天を仰いだ。
「今どこに?」
「陣外れの結界牢に閉じ込めました」
「で?」
「いえ、おとなしくしています」
「拘束は?」
「結界牢ですので不要かと…」
その答えに苦笑したのはミク。
報告した側近をにらみ、いまにも駆け出しそうなリュウ。
ミクはリュウを目で抑えた。
「彩姫なら、拘束せずにおいたら、うちらの結界牢なんかあっさり破るわよ?」
「!」
「でもおとなしくしてくれてるんでしょ?」
「は、はい」
「わかった。下がっていいよ」
側近君は冷や汗をかきながら、伝令と共にミクの前から立ち去った。
「ミク様、如何なさいます?」
「もちろん会いに行くわ」
「危険では?」
「ここから結界牢までどれほどの距離があるかな?彼女がその気ならもうここは吹っ飛んでるわよ」
「あ…」
「一緒に来て」
「承知しました」
さて、彩姫ちゃんはどうなってるのかな?
タク…卓の様子を知ることができるかな…
ミクはリュウを連れて、ゆっくりと彩姫のいる結界牢に向かって歩き出した。
【続】
ミクちゃんSide