24 説明会
『ミク』ことミュ・クーの叩く『万感の太鼓』の波動はここにも到達していた。
「楽しませてくれよる」
都庁の上に構築された魔王城。
その玉座に尊大に座る黒い影。
顔と思しき所だけが白く浮き上がり、表情はそれまでの退屈そうなものから変化していた。
「くく…あのダンジョンに何があるやら」
耳まで裂けたように三日月に口が歪んだ。
「魔物の軍団を送れ。ダンジョンごと破壊しても構わん」
さて、どうなる?
いったい、あそこに何があるというのだ…
くく…この時代には探し物はなかった、が、そこそこ楽しめたか
魔王ドーマはひとり悦に入る。
次はどの時代に飛ぶか…
もっと時を遡る必要はありそうだ
それにしても面倒なものを創るやつがいるものよ
思考の海に漂っていたドーマの前に漆黒のフードを被った者が現れた。
「潰したか?」
「い、いえ…全滅のようです」
「ほう!面白いな」
ドーマの中の嗜虐が頭をもたげた。
が、フードの報告に舌打ちする。
「ちっ、ナゴンが来ているというのか?」
「正体は不明ですが、明らかに『破邪の薙刀』と白の魔術の痕跡がございました」
「どうやってここへ現れた…まぁ、よい。捨て置け。我らはここを放棄して次へ向かうとしよう」
ドーマの指示に恭しくフードは頭をさげる。
どこまでも面倒だ
探し当ててなかったことにしてくれるわ
むこうもそろそろ術の限界だろう、まぁよい、放っておくか…
魔王城はその後、黒い霧の中に消えていった。
破壊されつくされた都市を置き去りにして…
― ダンジョン最奥 ―
ラボの震動は止まり、ブレていた自分も元に戻った。
圧倒的な状況を聞いて『タク』も茫然としていた。
そして自分がこれまでしていた戦いが、いかに未熟だったかも理解した。
ラボに転移で戻ったナゴンは『タク』を見て、瞬間表情が変わった。
が、目の前で『破邪の薙刀』を手にした王妃ナゴンはもう静かに微笑んでいる。
「貴女は『白の一族』ですね?お名前を聞いてもよいかしら」
「あ、彩姫言います」
「ここの皆さんのご紹介をお願いしても?」
「勿論です」
彩姫は謎のどや顔で『タク』達に向き直った。
「こちらは大陸王王妃ナゴン陛下であらせられます」
「あらあら、そんなに改まらなくてもよいのですよ」
「ですが…」
微笑みの圧に彩姫は負けた。
「承知しました。では、えっと彼が『タク』です。『覇王の聖剣』保持者になります」
ちいさく王妃は顎を引いた。
「彼女は『美玖』、そして…」
次々にメンバーを紹介して行った。
「今、どのような状況なのですか?」
ナゴン王妃の疑問に『タク』は順を追って説明を始めた。
あちらの世界での国家間紛争の状況
黒の魔術師ドーマを中心とした魔物の襲来
自分は何かに呼ばれて、初めてあちらへ渡ったこと
理由はわからないが、自分が『覇王の聖剣』に認められたこと
二度目の渡りで『美玖』も連れて行ったこと
『美玖』は『万感の太鼓』に認められ、現時点では北方軍を率いていること
幻術を使われて、苦戦したものの撃退できたこと
三度目に渡った時、黒翼山脈を境に南北で陣営が分れて戦っていること
南方軍は(おそらく)ドーマの幻術で、認識が狂わされていること
その幻術は限られた将兵に限って施されたもので、きっかけがあれば立ち直れること
向こうの状況は概ねなにかに監視されている可能性があること
倒したと思ったがドーマはこちらの世界へ来て、侵略占拠していること
こちらへ戻った自分と、こちらの自分が同時に存在していること
今はあちらの自分がこちらへ、こちらの自分があちらにいること
このダンジョンで起こったこと
彩姫がこちらへ渡ってきたこと
彩姫から向こうの状況が掻い摘んで説明していった。
向こうの『卓』が仲間数名と『黒の遺跡』を調査し、魔法陣を発見したこと
彩姫は数か月調査、研究して九分九厘までの解析に成功、こちらへ渡ったこと
『破邪の薙刀』を持ててしまったこと
最後に
そこにいる『美玖』と、『万感の太鼓』に認められた『ミク』は別人ということ
「どういうことかしら」
王妃の疑問に『タク』が答えた。
「ちょっと理解が追い付かないかもしれませんが…」
「答えはあるのね?」
「推論ですが、多分大外れではないと思います」
「話してちょうだい」
「お…自分が生きていた世界線と、あっちにいる『卓』の世界線が別物なのは間違いないのですが、そこにいるお…自分の想い人が、同じ名前で立ち位置で別人という状態です」
「俺で構いませんよ。話しやすい方で。で、別の世界とは?」
「ちょっと難しい話ですが、並行世界と言った方が判りやすいですか?」
『タク』は並行世界の推論について話した。
「成程ね、並行世界とは上手く表現したものね。そしてそれぞれを辿る道が世界線というわけね」
「ご理解できますか」
「わかります。現に私が飛ばされたわけですから、身をもって体験していますのよ」
「そう、なるんですかね」
「ええ」
「話をもどしますと…美玖…想い人は長い付き合いです。
多分分岐前から…で、分岐したきっかけはわかりません
ですが、おそらく分岐後に俺の方の想い人は、入れ替わったんじゃないかと思っています」
「では、貴方の想い人は?」
「わかりません。彼女といろいろ酷似しているんですけど…その、ちょっと有り得ないんですけど」
これまで考えてきた可能性の一つ
「彼女…向こうにいる『万感の太鼓』の鼓手『ミク』の中に意識というか、魂というか…同居している可能性…」
王妃は天を仰いだ。
「そうです、ね。今までの話と、私の知る事柄を考えると、その可能性が一番高いかもしれません」
彩姫に向き直る。
「彩姫。魔法陣の解析を完全に終わらせることはできますか?」
「もう少し時間かかると思いますよって、けど、やり遂げて見せます」
鼻息荒くそう答える。
再び『タク』に向かって
「ところで」
「なんでしょう」
「貴方方はセイメイ殿をご存じですか?」
「勿論です。老師は恩人です」
「今までの話の中で、彼の名が出てこなかったようですが…」
「はっきり言って、どの時点からかわかりませんが、老師は行方をくらませています」
「行方を、ですか?」
「はい。それはもう清々しいまでに痕跡がなくなっています」
「あらあら」
「お心当たりは御座いますか?」
「随分、長いこと眠っていましたからね」
「ですよね」
「ですが、なにか深謀遠慮を巡らせている、そう思いたいですわ」
「同感です」
長い話にひと段落ついたとき、外からの通信が入った。
これまでドーマに傍受される危険性を考え、通信制限をしていた。
通信をうけた『美玖』が驚きとも喜びとも言えない何とも言えない表情をした。
「どうした?」
『タク』の問いかけに『美玖』は答える。
「ドーマが城も諸共消えたって!」
【続】
謎を解きながら、更に深みにはまってしまった気分…苦笑