表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/92

23 共鳴

リュウが『ミク』の許に帰ってきた。

彼は『黒の遺跡』でのことを詳細にわたって報告する。


「えっ!彩姫が渡ったの?」


くだんの魔法陣を解析し、自ら起動させて『タク』の世界に渡って行ったのはさすがに想定外。


「けど、そう、あれを遂に見つけたのね」

「『ミク』様…」


彼女は立ち上がると指令室にしていた部屋を出た。

無言で進む彼女をリュウは影のようについてい行く。

村一番の大きな家を出て、彼女は蔵に向かっていた。


蔵の中には『万感の太鼓』が静かに置かれている。

ばちを手に取ると、『ミク』は最初は小さく叩き始めた。

やがてそれは早く緩く大気を振動させた。

『ミク』の奏する『万感の太鼓』の音色は村中に響き渡り、それは敵陣にも遠雷の様に届いた。





『万感の太鼓』が発する波動に気付いたのは、瀧夜叉が最初だった。


「あれは『万感の太鼓』よね?」


彼女の傍らで銃の手入れをしていたアーネは、その言葉で耳を澄ませた。


「うん、そうみたいだね」

「敵襲?!」

「じゃ、ないみたい」


太刀を手に立ち上がりかけた瀧夜叉は、再びすとんと腰を下ろした。


「泣いているようだね」

「うん。なにかあったのか、な」


いつもなら逸って出撃する瀧夜叉も、その音色に聞き入った。


桜太夫とユミンの耳にもその波動は緩やかに染みとおった。


「何かあったようですわね」

「うん」

「もの悲しい調べですわ」

「うん」


ふたりは押し黙って、その場で波動に身を任せた。




幾千里を超えて『黒の遺跡』で『卓』は確かに耳にした。

初めて聴いたのに、懐かしさを感じた。

走ってきた雪村も感動していた。

そして、この世界の住人ではない光司も聞いた。


「な、なんだ!」


唐突に魔法陣が起動、光があふれた。


「どこも触ってません!」


慌てたように雪村と光司が叫ぶ。

『卓』はじっとその光を見つめた。


「共鳴してるんだ」

「はい?」

「この『万感の太鼓』の波動に共鳴してるんだよ」

「そんな!」

「直感だけど…有り得ないけど、確かに共鳴してる」


太鼓から発せられたであろう波動のリズムとリンクするように光が明滅している。

異常は更に加速する。

部屋全体の輪郭がブレ始めた。


「なにが起こってるんだ!?」

「なんすか、これ!」


『卓』だけがブレていた。

信じられないという表情で、彼は自分の手を見て、雪村と光司を見た。


「俺だけがブレている!」






時空を超え

ダンジョンの最奥で作業している筈の『タク』も彩姫も『美玖』も…それを感じた。

耳ではない、胸の奥底に確かにそれの波動は感じられた。


「これって『万感の太鼓』じゃないのか?」

「間違いあれへん」

「こっちにはないんだよね!?」


愕然とする『タク』、彩姫と『美玖』


「すべてを超越する響き、やね」


すんと真摯な表情になった彩姫が呟いた。


「彩姫っ!魔法陣が!石板が!」


『美玖』の声にふたりは振り返る。

魔法陣に光―彩姫が来た時とは違った色―が満ちる。

『白の王妃』ナゴンの石板、彫像が共鳴したように光りだす。


そして


「「『タク』!」」


彩姫と『美玖』が同時に叫んで、彼の腕をとった。


「な、どういうことだ?強制送還か?」

「渡りとはちゃう!」


そう…


『タク』も輪郭がブレ始めていた。


別の衝撃がダンジョン全体を襲った!

外からメンバーたちが走ってくる。


「ヤバいっす!ドーマの魔物軍です!」

「このタイミングでか!」


洋館を襲撃してきた魔物の数は数百匹。

彩姫は咄嗟に隣の部屋の『破邪の薙刀』を取りに走った。

『美玖』達は手に手に銃や得物を持って、迎撃に出る。


う、動けない!


『タク』はその場に釘付けになって動けない。


バシーーーーーン


その時、目の前で彫像が砕け散った。

彫像の中からそのままの女性が、長い髪を掻き揚げた。

微笑みの表情は毅然としたものへ変わっている。

薙刀を持った彩姫が戻ると、女性は形の良い唇からなにか言葉を発した。


「薙刀を渡しなさい」


はっとして彩姫は薙刀を女性に渡し、自分は相棒の杖を手にする。


「行きますよ」

「はい!」


女性―王妃ナゴン―は彩姫を連れて転移した。


「援護と支援は任せます」

「承知っ!」


彩姫はありったけの魔力をナゴンに渡す。


「上々です」


ニコリと彩姫を見て、王妃ナゴンは微笑んだ。


「あの人の、本性そのままに、醜悪な軍勢ですこと…」


彼女が『破邪の薙刀』を一閃する!

その刃から放たれた光の巨大な刃は、押し寄せる魔物の軍勢を一瞬でほふった。






どどどどどど…かかかか


『ミク』の瞳から滂沱ぼうだの涙。

涙のひと粒ひと粒がキラキラと宙を舞う。

渾身の彼女から汗が飛び散る。



どどどん、どどどどどどど



終演に向かうように、太鼓の音色は変化してゆく。



すどん!!!


どん!!


どん!



かっ…



どおおおおん



最後の一打ちに全霊を籠める『ミク』



シン…

と打ち終わった後の余韻に、その身を漂わせる。



ポツリと彼女の唇が動いた。


「会いたい…トゥーク…ナゴン陛下…」


彼女は撥を握りしめて、ただ、立っていた。


「ミュ・クーはここにいます。お待ちしています」







【続】

毎晩、この時間になっちゃうな(苦笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ