02 だんだん正体がわかってきた?
今更だけど…
なぜセイメイ老師はあんな闇落ちしたのか?
なにもわかっていない。
というか、誰もそのことを不思議に思わないし探らない。
事実としてあったことなのは、みんなも認識しているけどただそれだけ…
って、俺も今の今までそうだった!
すっげぇ違和感!!
元から闇落ちしていて、俺たちを最初からだましていた?
ドーマに、黒の魔術師の呪術に堕ちた?
…いや、これはないな。
これだったらドーマを捨て石にするのはおかしい。
ドーマが老師に成り代わっていた?
いやこれもちょっと違う気がする…根拠ないけどな(苦笑)
美玖はなんで全面武装解除を北大陸諸国に要求した?
うん、わかるよ。
戦争は良くない。
けど、そのために圧倒的な戦力で恫喝する必要があるか?
争う必要がどこにある?
つらつらと頭の中にいろんな思いが浮かんでは消える。
「タック~~、どうしちゃったかな?」
ユミンがテーブル越しに問いかけてきた。
「ここ数日、様子がおかしいですわね」
桜太夫も小首をかしげて俺を見つめている。
「ごめん、なんか取り留めのないこと考えてた」
「戦闘がないから気が抜けちゃったかな?」
「俺は戦闘民族ぢゃねぇ」
俺の軽口に二人は安心したように笑みをみせた。
「戦いがないのは良いことだし、こうして平和なのが一番だ…」
言い終わらないうちに後頭部に衝撃が走る!
「って~な!瀧夜叉!なにしやがる!」
「なにが平和が一番よ!戦わなきゃ、何も得られない!」
「?」
「今度はこっちから先制攻撃しよう!」
瀧夜叉は積極的だが、好戦的な発言をするような娘じゃない…と思ったんだが?
「一発、ミクを狙撃でもして刺激してみる?」
アーネが乗っかった。
おいおい
「い~ね~wwこっちサイドのすそ野に罠でも仕掛ける?」
ユミンが被せる。
お~い
「それとも…うふっ、褒め殺しでもして差し上げましょうか」
桜太夫まで悪ノリか?
「ちょっと待てや!」
「「「「?」」」」
俺のストップ発言に皆は盛大に首をかしげる。
「おかしいだろ!緊張状態とはいえ、均衡が保たれて戦いがない。これを発展させて和議に持ち込めば」
「は?」
瀧夜叉の表情があからさまに険悪になったのがわかった。
「あっちにすり寄れと?」
「そうは言ってない」
「じゃあなんで和議なんてワードが出てくるん?」
「これ以上の犠牲は不要だと言っている」
「死んでいった者たちを侮辱するのか?」
「だから、なんでそうなる?」
「今更和議とか、タクはどうしちゃったかな?」
瀧夜叉の圧は益々強くなってくるのがわかった。
あ~暴発寸前だな…
俺は両手を挙げて降参ポーズをとった。
「わかった、俺の失言ということにする。和議の話はなしだ」
「…」
「だから引っこめると言ってるんだ」
「…」
「そもそも思いつきだし、本気で言っていない」
「!」
あ、しまった!
瀧夜叉が立ち上がった。
「おい、タク、冗談と思い付きでそんな暴言を吐いたのか?」
「いや、すまん!俺は黙っとく」
俺は素直に土下座に近い最敬礼をした…てか、この場を穏便に納めないとヤバい!
その俺を憎々しげに見降ろして、そして怒りの表情そのままに、幔幕を出て行った。
と、
桜太夫、ユミン、アーネの順で瀧夜叉について、沈黙したまま俺を残して出て行った。
「ふぅ…」
深いため息が出た。
あんなだったか?
彼女たちは、あんなに好戦的だったのか?
ふむ、確かにこれまで払ってきた犠牲は少なくない。
そしてその屍を踏み越えて、俺たちは戦ってきた。
だが、何故?
これまで一度も話し合おうという提案すらなかった…
そんなにミクたちの主張は一方的だったか?
というか、生の主張を…聞いたことが俺はあったか?
ここでまた、強い違和感を感じた。
オカシイ…
彼女たちの出て行った幔幕の出口を俺は茫然と見続けた。
「どないしたん?」
彩姫が幔幕に入ってきた。
彼女なら話ができるか?
些か疑心暗鬼になってる自覚がある。
その俺の前にストンと座って、じっと俺と視線を合わせてきた。
ダメ元か、な?
内心苦笑いしながら、俺は彩姫に今あったこと、胸に湧いてきた疑念を説明した。
話し終わって、一息ついた俺に彼女は微笑んだ。
「そこまで、やっと辿り着いたんやね」
「ん?辿り着いた?」
「せや。言語化出来てきてるやんな」
「ああ、そういう意味」
「そっちの意味も、こっちの意味も、や」
禅問答?
「みんな、だんだんとオカシなって来とんで…性格がどんどん変わってきてるんや」
彩姫ちゃ~ん、今何と言った?
「タクの思ってるのは正しい印象やって」
「彩姫さん?」
「なんや?」
「気づいてた?」
「せやな、気づいてた…ってか、タクの話聞いて気づいたんや」
「え?いつから?」
「最初にタクが言語化でけへんて悶えてた頃から、自分含めて皆を観察してん」
「自分含めてって、おい!」
「大丈夫や、うちはそんなに変わってへんて」
視線は合ったまま、俺たちの物理的距離は少しずつ近づいている。
自然、声のトーンは落ちている。
「うちも引っ張られることがあんねんけど、理性で引き戻せとるな」
「引っ張られる?誰から?呪術か?」
「ちゃうやろな。そういう誰がって感じやあれへんし」
「けど、俺の判断力や記憶力は微妙に…ごく自然に流される感じだぜ?」
「それが人為的なものか違うのかは、うちもまだわかれへんけどな」
「他に気付いているのは?」
そこで初めて彩姫は視線を外し、盛大な溜息をついて、聞こえるギリギリの小声で囁いた。
「おらんよ」
「!」
「ある意味、うちら以外はみ~んな敵みたいなもんや」
「どうす…」
俺が全部を話す前に彼女は唇で塞いできた。
おい!
唇をはなすと、目を剝く俺にかすかにうなずく。
そして視線を一瞬外に向けた。
「今度の順番のときにゆっくり…な」
「あ、ああ。ゆっくり、な」
彩姫は急に声を張って喋りだす。
「元気出たやろ?!」
「だな、ちょっと思考が後ろ向きになってたかもな」
と彼女に合わせた。
外のユミンの気配は消えていた。
【続】
頑張れ!アラフィフおやじ(笑)…いうほど見た目は老けてはいないってwww