19 転移先は…
― 黒の遺跡 魔法陣の間 ―
唐突に魔法陣に光が走り、微振動をその場の面々は感じた。
円形に描かれている中心部は、そのすべての光を集約するように輝いた。
光の中に影が浮き出し、形作り、実像になる。
『卓』はその姿に目を見張る。
「まさか、な」
「知っとるんか?彼を」
「ああ、多分知ってる」
魔法陣の光が終息すると、そこに茫然と立っている男がひとり。
『卓』は男に歩み寄った。
「斥候隊の光司くん…かな?」
「た、『卓』さん?」
「これって…」
「いらっしゃ~い」
『卓』は苦笑いで光司を迎えた。
きょろきょろと周囲を見渡した光司は、改めて『卓』を見た。
そしてリュウ、彩姫、雪村を順に確認。
「えっと」
「とりあえず、ちょっと落ち着こうか」
彼は自分の置かれた状況が理解できていない。
完全に挙動不審者だ。
部屋の隅に連れて行き、飲み物の入ったカップを渡した。
「ここがどこかは後で説明するとして、光司くんはどこにいた?」
「あ、えっと、ダンジョンの中にあった一番奥の部屋です」
「ここと同じような感じかな?」
「そうですね、いろんなものが置いてありましたけど、床とか壁の線は…」
もう一度ぐるりと見渡して
「多分、ほぼほぼ一緒なんじゃないかと思います」
そこへ彩姫が興味深そうに割って入る。
「向こう側は安全そうやね」
「ああ、埋まってるとか危険な感じはないんじゃないかな。それに行き来もできそうだ」
「せやったら、俄然やる気出たわ!」
「ほい、解読よろしく」
「任せといて!」
彼女は勇躍して、リュウを助手にして魔法陣の解読作業に向かった。
「えと、『卓』さんは『タク』さんじゃない?」
「あー、あっちで俺はどういう説明してるかな?」
「説明、説明はチームメンバーには『美玖』さんからちょっとだけされています」
「どの程度かな」
「急に老けちゃった、的な?」
「ありゃ、随分ザックリだな」
「それでみんな納得したの」
「声も仕草も一緒ですもん。そりゃ顔は老けてて逆に体格は急にマッチョになっててびっくりはしたんですが…」
カップの飲み物を飲み込んで、光司はその場に座り込んだ。
「指示は的確だし、考え方は違和感なかったですし、ね」
そこへ彩姫が口をはさんだ。
「そこを気にするより、大変な状況なんやろな」
「ですね。疑ったりした連中はさっさと離脱しました。それにサブリーダーの『美玖』さんが、全幅の信頼を寄せていることの方が大事でしたから」
「そっか、『美玖』サマサマだな」
「ですです」
「んじゃ、状況説明するな」
『卓』は一旦この場から遺跡の拠点まで戻ることにした。
拠点に落ち着くと、『タク』と入れ替わりでこっちへ来てしまったことから現在に至るまでを掻い摘んで話して聞かせた。
「あー、にわかには信じられないですけど…目の当たりにしちゃあ、信じないわけにはいかないですね」
「いろいろ疑問もあるだろうけど、そこは一旦飲み込んでくれるとありがたい」
「はい、了解です」
「素直でよろしい」
そういって笑う『卓』の顔を見て、光司は懐かしいものに再会したように気持ちが落ち着いた。
― ダンジョン洋館 最奥ラボ ―
斥候くん(光司)の姿が消えたのを目の当たりにして、頑固な『美玖』も『タク』の言葉を信じざるを得なかった。
「ホントに魔法陣…なんだ」
「それも転移陣らしいな」
「転移陣?」
「ああ、どっかへ飛ばされた。んでもって、現状、俺の知識じゃ行き先はわからない」
「読めないの?」
「文字そのものは解るものもあるけど、魔法陣は羅列された文字の意味をきっちり術式に落とし込んでるから、専門知識は必要だな」
腕組みをして魔法陣の文様を目で追う『タク』は首を振った。
「ごめん、これは俺の専門外だ。彩姫でもいてくれればわかるんだろうけど…」
「その、サイキさん?はその道のプロってこと?」
「まぁ、そんなところだな」
「白の魔術師だっけ?」
「うん。ともかく転移先がヤバいことになってないことを祈りたいな」
「どゆこと?」
「転移先が埋もれてたりしたらどうなると思う?」
あっと『美玖』だけでなく、その場にいた面々が彼の言葉に最悪な想像をしてしまった。
気を引き立たせるように、明るく根拠のない希望的想定を口にした。
「これが動いたってことは、向こうもなにかしら反応してるはずだから、そうそうおかしなことにはなってない、筈と」
「根拠も説得力もないけど、そう思うしかないわね」
「とはいえ、偶然とはいえ動いたんだから、動かすスイッチみたいな何かがあるはずだ。もう一度それをうごかそう」
「こっちよ」
彼らは慎重に魔法陣を踏まないようにして、先ほど『美玖』達が向かった部屋へ移動した。
「この石板よ」
彼女が案内した先に、丁度コンソールのようになっている石板があった。
「いかにもだな…これって不用意に触ったらダメな奴じゃん」
「だよね…」
「誰が、は置いといて、どういう風に触ったか覚えてる?」
バツの悪そうな顔で『美玖』班のメンバーの一人が進み出た。
「よく覚えてはいないんだけど…」
と言いながら思い出しつつ石板に触れ出す。
「最後の一手は口で頼むよ」
「あ!わかりました!」
「で、最後にそこを触ったら起動した、と」
「はい」
「すごい確率だな」
苦笑いしながら『タク』は石板をのぞき込んだ。
ぶぅぅん…
「にゃ!」
急に振動音がして『美玖』が変な声を出した。
最後の一手を触っていないはずだが、急にコンソールの石板が淡く光りだしたのだ。
「戻って戦闘態勢!ここにもひとり残ってくれ!」
言いおいて『タク』も『美玖』も来た廊下をラボに向かって駆け出した。
光が再び魔法陣の文様に沿って走る。
部屋に戻ると魔法陣が完全に起動していた。
中心部が輝き、それが収束すると目を開けていられないほどの光!
その中に影が浮かぶ。
光が収まると影は人型になって…
「やっほ~♪」
しまりのないことこの上もないご挨拶とともに現れた。
「さ、彩姫っ!」
「はいな!『タク』っ、久しぶりやね」
【続】
キャラ絵、描かなきゃ…なんだけど、なかなか辿り着かないな<(_ _)>