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16 覆る伝説

数週間ぶりの戦闘。

北の連合軍とショウモン軍との小競り合い。

どちらも、最早馴れきった儀式のような…戦いともいえない、まさに小競り合い。

罵りあいはする、吶喊とっかんの喊声は戦場に響き渡る、が、どうにも締まらない馴れ。


「あ~~~!!鬱陶しいっ!」


瀧夜叉は陣地後方から戦場を見渡して地団太踏んでいた。


「今回もこんなか!」


戦いにこそその命を燃やし、ヒリヒリするような緊張と削り取られる感覚、はそこにない。


「どうしてこうなった」


もう数年、こんな不毛な状態が続いていることに彼女は苛立つ。


「ミクは出てきてないよね?」

「いないね」


瀧夜叉と肩を並べているアーネ。


「戦鼓隊はいるけど『万感の太鼓』は出ていない」

「本気じゃないってか」

「今回もそんな感じ」

「ミクたちはなにがしたいんだ?」

「時間稼ぎ、っぽいかな」

「時間稼ぎって言っても、その先に何がある?」

「う~~ん、なんだろ」

「彩姫や太夫は?」

「陣に籠ってるね」

「ユミンは?」

「斥候に行ってるよ。もう戻って来るんじゃない」

「どうせ碌な収穫はないんだろう」

「だろうね」


彼女はここ最近、柄にもなくいろいろ考えている。


「『タク』は戻ってきてるのかな?」

「そんな感じはないけど」

「随分前、半年くらい前に『タク』に似た気配があったけど」

「結局わからなかったじゃん。それに今はまったくそんな感じないし」

「だよね…」


アーネが戦場をちらっと見て嘆息する。


「終わったみたい」

「そう…撤収しましょ」

「そういえば」

「なに?」

「随分長いことリュウの姿が見えない気がするんだけど」

「『ミク』は何度か出てきてたよね」

「取り巻きの顔ぶれがちょっと変わってきた気がする」

「そう?」

「瀧夜叉はそういうの気にしないもんね」

「むぅ、なんか莫迦にされてる」

「してない、してない」

「『タク』はいつ帰ってくるんだろ。てか、戻るのかな」

「あんな渡り方したから…もしかしたら愛想つかされた、かも」

「何であんなことしちゃったんだろ。彩姫も太夫もユミンも賛成してたし、快く送り出せばよかったのに」



『タク』が渡ると思ったとき、なんであんなに焦ったのかな。

戦線膠着していたし、なにか思惑があって渡る決断したはず…

でも、その本当の理由は私とアーネには話してくれなかった、よね…

どうして?


冷静に考えてみれば『タク』はある時から…

最初は彩姫、次は太夫、そして渡る間際にユミンと、自分たちとは接し方が違うような気がしていた。



瀧夜叉とアーネが陣に戻る。

二人とも珍しく落ち着いた表情をしていた。

彩姫は彼女の天幕で太夫と深夜に落ち合った。


「そろそろ、やねぇ」

「さすがに頭が冷えたみたいですわね」

「せやけど、監視をどないする?」

「ですわね…まだ戻るのは早いですわね。瀧夜叉たちには申し訳ないのですけど、もう少しこのままの方がよろしいですわね」

「あの子たち、嘘つけへんしな」

「『卓』さんたちからはその後なにか連絡ありまして?」

「ちょいちょい来るけど、たいして進展なさそうや」


その時、夜陰に紛れてそっとユミンが雪村を連れて天幕に忍んできた。

雪村は彩姫へ『卓』からの伝言を運んできていた。

彼から手渡された手紙―ほとんどメモ書きのようなもの―は当たり障りのない内容が記されていたが


「え?うちが渡るん?」


暗号になっているその手紙には、想定外の『卓』の依頼が記されていた。


「どういうことですの?」

「詳しいことはわからへん。けど『卓』はうちに渡ってみてくれと言ってきはった」

「どうしますの?」


太夫の言葉に沈思した彩姫は雪村を見た。


「何か聞いてはる?」

「申し訳ありません。まったくわからないです」

「雪やんにも話してへんのやな」

「はい。ですが…」

「なんやろ」

「そもそもの疑問を聞いたときから『卓』様の様子が変わりました」

「そもそもの疑問って?」

「なんで『卓』様が勇者になったのか…というか選ばれたのか?という疑問です」


彩姫も桜太夫もユミンも

そう…過去の因縁めいたものがあるような気がしていたにもかかわらず、その点においては何の疑問も持っていなかった。


「呼ばれた、て」


『タク』が最初に来た時、そう言っていた。

誰に呼ばれた?

何で呼ばれた?


「で、なんでうちが渡る流れになんねん?」

「そこは手前にはなんとも…」

「説明はなかったんやね」

「はい」


彩姫は雪村にどこに何を見て聞いたのかを尋ねた。


黒牙都市、南方各国のうち過去に大戦があったという中央森林と『黒の遺跡』に行ったらしい。


「『黒の遺跡』て、うちも行ったことないな」

「どのような遺跡でしたの?」

「ひと口に言って、中央森林地帯に隠された都市の成れの果て、みたいな所でした」


雪村は思い出しながら説明した。


「土地の言い伝えですと、一夜にして現れた魔王の都市、ということです」

「魔王…な」

「大陸王の軍と大陸平定後に戦ったらしいです」

「そのような記録は今までありませんでしたわね」

「言い伝えにもあれへんわ」

「魔王?は負けたんやね」

「というか、魔王そのものが消えてしまったのが魔王軍敗退の原因だとか」

「消えたって?」

「諸説ありましたが、『卓』様はそう推察されていました」


雪村はちょっと唇を舌で湿らせて、次の言葉を放った。


「魔王は大陸王。大陸王の名はドーマ」

「ちょい待ってや!なんやのそれは!」


彩姫、というか現時点でこの大陸の誰しもが知っている話―


『勇者様と大陸王の伝説』

他の世界から乱れたこの世界を救うために降臨した長剣を持った勇者様。

そしてこの大陸にある35の国をまとめ、平和な日々と人々の幸福を招いた大陸王


この伝説に語られていない後日譚??


『卓』!いったいあんたは何をつきとめたんや?


彩姫も桜太夫も、もちろんユミンも目を見開いて茫然とお互いを見つめていた。




【続】

俺、頑張れ!

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