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14 歪んだ願望

王弟セイメイはあの日のことを思い出していた。

数か月前、王宮から脱出したときの王妃の笑顔を…



「義姉上」

「セイメイ殿、第二王子を聖剣と共に脱してください」


大陸王による各国周遊の隙に、王妃は王弟セイメイに我が子のひとり第二王子を託した。


「近い将来、私も消されるでしょう。ですが貴方と第二王子が残れば火種は消えません」

「義姉上もともに参りましょう」

「それでは討伐の大義名分と優先順位が上がってしまいます」

「謀反の火があることを世に示すべきです」

「時期尚早ですよ。貴方にもわかるでしょう」


王妃の言葉に王弟セイメイは歯噛みした。


その通りなのだ。

まったくもってその通り…

それが大陸王ドーマにとって、この上なく都合の良いことなのだということは…

わかっているが!


「ありがとう。息災で、そして、いつか大陸王を打倒してください」


王妃は華やかな笑顔で王弟と第二王子、その側近たちと王妃の縁者である『白の一族』の者たちを王城から送り出した。



今朝も王子は黙々と聖剣を振っている。

汗が朝日を反射してキラキラと舞っていた。


「叔父上」

「精が出るな」

「まだ剣に振り回されています」


自在に扱えない自分の力量不足に王子は下を向いた。

 


大陸各地に『白の一族』はいた。

何代もその地に根付いて生活している彼らから、逐次大小様々な報告が王弟セイメイの許にやってくる。



『白の一族』



治癒・回復・支援系の魔法に秀でた一族。

薬草の知識や調薬の技術を受け継いでいるがゆえに、大陸の各地にその系譜が存在していた。

そして、独自の諜報ネットワークによって、一族は横のつながりを保っていた。


が、いつの世でもその輪から外れるものも少なからずいる。

彼らは大陸南方を拠点に各国からの依頼で影の仕事を生業としていた。

大陸王ドーマは黒禁呪術を以て彼らをまとめあげているらしい。

王弟セイメイはこの『黒の一族』とも呼べる勢力を最も警戒していた。




王弟セイメイと第二王子の王城脱出から十年有余。

大陸には争いが絶え、為政者も民も等しく平穏な日々を疑いもなく享受していた。


第一王子の大陸王位の継承が成った。

そして、その日を境に初代大陸王ドーマの姿が王宮から消えた。



- 大陸北辺境 -



セイメイ達の雌伏する村にその報がもたらされたのは、第一王子王位継承から半年ほどたった時。

大陸南部のほぼ中央に位置する大森林に、突如都市が現れたという。

そこは『黒の一族』の支配地。

支配者は初代大陸王ドーマ。


「ついにこの時が来てしまったか」


セイメイはここ数年の安寧こそが危機の始まりと、警戒を強めていた。

この地に拠点を置いてから十年余。

身分を隠し、辺境の村や周辺小国と友誼を結んでいた。


「南方の『白の一族』が狙われています。危機を感じた同胞が逃亡しています」


ドーマは大陸王宮を傀儡にしているようだった。

白の一族を狩りだした。

発見次第捕縛し、『黒の一族』に転ぶ者はその先兵とし、拒絶するものは見せしめに殺戮していった。


突如起こったこの血なまぐさい事件を、それでも関係のない各国や一般民衆は対岸の火事の認識。

が、ある日とんでもないことが起こる。


「国が丸ごと消えた、だと!」


セイメイはその知らせに戦慄する。


『黒の一族』…『黒の帝国』の周辺小国の一つが一夜にして消滅したという。

ひと月後、更にまた小国が消え去った。

数万人という民衆もろとも、小国版図がきれいさっぱりなくなった。

動きの速い周辺国のいくつかが調査団を組織、派遣。

しかし彼らは『黒の帝国』によって攻撃される。

大陸は南から恐慌状態が北へ向かって波状に広がる。

たった数年…十年にも満たない平和な日々は、人々を怠惰に慣らせていた。

平穏に馴れた人、国はいたずらに狼狽え、慌て…

そして有効な手も打てないまま『黒の帝国』の軍団と黒禁呪術に蹂躙されてゆく。


人々の悲鳴、怨嗟、絶望に歪んだ表情を見て『黒の帝王』ドーマは愉悦を覚える。


「そうだ!これが見たかった!その為にこの大陸に平穏を作ったのだ!」


ドーマは真っ赤な液体の入った酒杯を傾け、愉悦に溺れる。

その人生の大半を費やし大陸に平和を作った彼は、迅速に、しかしながら成果を噛みしめるように破壊していった。



「それが墓穴を掘る結果になったんだ!父上覚悟!」



『黒の帝国』軍団…人を黒禁呪術で異形にした魔物と、黒翼山脈の麓で王弟セイメイを先頭にした大陸北の連合軍が激突する。

一方で『白の一族』の精鋭を従えた第二王子が、大きく回り込んで『黒の皇帝ドーマ』の本陣を急襲!

ドーマのこれまでの人生で初めての敗走を体験させた。


そこからは坂道を転がり落ちるような凋落だった。


『白の一族』は王宮宝物庫から『万感の太鼓』を奪取。

第二王子の持つ聖剣とともに『黒の軍団』を撃破して行く。

やがて持ち直した大陸の民たちを糾合し、『黒の帝国』の侵食を食い止め押し包んでいった。

ドーマの黒禁呪術も『万感の太鼓』と『白の魔術』によって発動できなくなっていた。




【続】

書き下ろし…ほんとにしんどい(笑)

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