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12 呼ばれた理由

―黒翼山脈南方 黒牙都市郊外―



四騎の走竜そうりゅうが岩塊を縫うようにして走り抜けて行く。

既に老師の庵を抜けてから半年が経っていた。

ドーマ所縁の場所を訪ね、丹念に調査して行く。

手掛かりなしからは少しだけ進捗していたが、その全容解明には遠く及ばない。

さすがに『卓』も焦りを覚えてきていた。


野営の準備を終わって、焚火のまわりに三人は腰を落ち着けた。


「ドーマの奴、本当に用意周到というか、なんというか」

「何かを探していたようですが、何を探しているのやら…」


同行しているリュウも溜息をついていた。

そして今一人…

ショウモン軍の兵卒で、桜太夫に見いだされて同行している雪村。


「あの~」


おそるおそる手を挙げて発言を求める雪村に『卓』が応えた。


「どうした?」

「そもそもなんですが…」

「ん?」

「どうして『卓』さんが勇者に選ばれたんですか?」


そういえば、なんで『俺』が選ばれた?

至極真っ当な疑問だ。

それが目の前の事実だから、そういうもんだと思い込んでいた。


「確かに、そうだな」

「え?」

「理由は、わからん。呼ばれたとしか言いようがないんだ」

「呼ぶには呼ぶなりの理由があると思うんですが」

「うん。俺も今、雪村に言われて気づいた」

「その理由って、ドーマの目的となにか関係ないですか?」

「どうしてそう思う」

「あ~~、すみません。そんな気がしただけなんですけど…」

「その視点はなかったよな…」


リュウを見ると、彼も顎に指を添えて考え込んでいる。


「『俺』が呼ばれた理由、か」


確かにそうだ。

俺、というか『タク』は何故選ばれた?

元の世界では単なる不惑半ばのくたびれたおっさんサラリーマン。

バリバリ仕事していたわけでも、なにか特別な経歴があるわけじゃない。

だいたい、俺は普通の家庭のごくありふれた両親に育てられ…た……


そこで違和感があった。


ちょっと待て。

両親?

どんな顔だっけ?

ん?

え?


「『卓』さん、どうしました?」


明らかに挙動不審になった彼にリュウが問いかける。


「あ、いや、ちょっと考える時間くれないか?かなり混乱してきた!」


『卓』は立ち上がって、焚火から離れた。


「少し頭を冷やしてくる。心配しなくても遠くには行かないからひとりにしてくれ」

「あ、はい」

「大丈夫ですか?」

「う、うん。多分大丈夫?」


彼はひとりで休息している走竜の方へ、二人を残して歩いて行った。




―湾岸エリア ダンジョン 街―



街は広い。

と思ったんだが、足を踏み入れてみると建物に阻まれて視界が効かない。


「あそこの教会みたいな塔に上ってみるか」

「そうね…闇雲に歩いても迷うだけだし」


俺たちは数区画先の教会のような尖塔のある建物に向かった。

数段の階段。

その先の入り口の扉は八の字に解放されていた。

注意深く中を確認し、ひとりを入り口に残して中に入った。


「階段ありました」


散開して内部を探索していたひとりが戻って、そう報告してくれた。


「行こう」


階段下にもひとり残して、俺と美玖、残るひとりを連れて登って行った。

行き着いた先は鐘楼のようで、大きな鐘が釣り下がっていた。


「結構広いな…」


登り切って鐘楼に立って街を一望した?


「って、建物どこいった?」


そう、街を構成していた数多の建物が、この鐘楼からは一切見えない。

下をのぞき込むと、この建物こそしっかりそこに存在していたものの、他の建物は姿を消していた。


「下へ行って、外を見てきてくれ」

「はい!」


待つことしばし…

戻ってきた仲間の報告では、下の入り口からは依然建物が林立していたとのことだった。


「どう思う?」

「幻影かな?」

「どっちが?」

「街が幻影じゃない?」

「どうしてそう思う?」

「待ってる間に考えたんだけど、街に入って目の前に建物がたくさんあったのに」

「うん。なぜかここにこの建物があることが認識できてた」


俺たちは鐘楼から周囲を見渡す。

うっすらと別の建物が見えた気がした。


「あそこ!」


美玖も見つけたようだ。


「洋館?」

「ゾンビゲームに出てきそうだな」

「勿論、探索するよね?」

「もう少しこの建物を探索して、次はあそこに向かおうと思う」

「良いと思うわ」


俺たちは再び階段を降り、階段下のメンバーを加えて建物内部を探索した。


「いつまでたっても夜にならないな」

「地下だし」

「まぁそうだな」


玄関ホールで美玖と無駄口叩きあっていると、ひとりが帰ってきた。

地下室と怪しい扉の存在。

入り口の見張りを残して全員で地下へ降りた。

扉は本来は自動で動くようだったが、どうやら今回は手動で開けなくてはならないようだ。

両サイドへスライドさせる必要がある為、荷物から適当な道具を出してこじ開ける。

奥が暗いが、長い白い壁の一本の廊下が待っていた。


タッタッタ…


遠くに何かが走る音がした。


「マジか…」


戦闘態勢をとって、近づいてくる足音を待ち受けた。

それは間もなく正体を現した。


「犬のアンデッド…」


ドウン!


頭部への銃撃一発で無力化出来た。


「ゲームと一緒だな…脳か脊髄の損傷が弱点ってか」

「グロいわ」


魔物討伐で耐性のある俺達でもきつい。

ちょっとえずいた美玖だったが、涙目になりながら死骸を廊下の片隅に避けた。



数度、数頭のアンデッド犬が襲撃してきた。

そのたびに撃退。

やがて廊下の両側にラボのような部屋が連なってあるのを確認した。


「あれ!」


美玖が指さす先に、巨大な部屋があった。


「ここが終点か?」

「じゃないかな?ここまでの到達時間の感じだと、あの洋館の地下かなって…」

「だろうな」


その部屋のもっとも奥まった場所は、数段高くなっていて、そこには長い柄を持った武器があった。



不意に『タク』はそれが何かがわかった。



『破邪の薙刀なぎなた



あっちで行方不明になっていた『大陸王の三宝物』のひとつだと確信した。





【続】

書き下ろし連載は結構きついねぇ(苦笑)

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