01 3年経ったある夜
「おっさん勇者」シリーズ、第三幕(笑)
15年の時を超えて再び開幕♪
なにかがオカシイ…
ずっと胸に違和感がある…って別に病気じゃない。
3度目の転移からこっち、なにもおかしくはないはずなのに、どこかで何かがオカシイと感じている気がする。
美玖と戦うことになっていたのはやるせない。
切ないな。
だけど、それもいままでの経緯を聞けば何の不自然さもなく、幻術やまやかしの類ではなく…
『紛うことなく現実』
と、突きつけられた。
すでに戻ってきてから3年が経っている。
勝っては負け、負けては勝ちの千日手。
黒翼山脈は今も目の前に聳えて、俺たちを圧している。
美玖の要求はたったひとつ。
この大陸の全面武装解除。
そう…武装解除させるために、圧倒的な【チカラ】を見せるための闘い。
なんだかなぁ
目指すところは一緒なのに、相争うという矛盾。
黒翼山脈の向こう側はすでに美玖たちの軍門に下り、こっち側は団結して対抗している。
この長い戦は何のためのものなのか、目的すら曖昧になるほど混とんとしている。
今年のその日も昨日過ぎていった。
俺は今回も渡らずにここにいる。
俺の指揮する一軍の中核は、今もショーモン軍。
瀧夜叉、彩姫、桜太夫、ユミンもアーネも健在だ。
彼女たちは今はもう各隊の長になって活躍している。
「何を呆けているん?」
瀧夜叉が俺の隣に座るや、顔を覗き込んでいる。
「呆けてなんかいない」
「3年経っても、敵になった美玖が気になる?」
「いや、そのことじゃないんだが…」
おそらく言葉にすると違ったものになっちまうとわかるこの違和感。
「あああああ~~~~~!!」
俺はガシガシと頭を掻きむしって吠えた。
「ちょ、どうしたん!?」
そのままの体勢で固まった俺を、瀧夜叉がそっと案ずるように抱きしめてきた。
彼女の柔らかく、血なまぐさい戦場にもかかわらず甘い体臭。
固まった俺が解けてゆく。
トクトク
と彼女の少し早い鼓動が聞こえる。
「さっきユミンから伝令が来たよ。向こうは相変わらず静かなようだし、今夜もゆっくり眠れるよ」
「そっか…」
「みんなを集める?」
「いや、いい。ゆっくり休んでくれ」
「今夜は彩姫の番だけど…」
「うん、呼んでくれて大丈夫だ」
少し抱きしめている腕に力が入って、すぐに瀧夜叉は俺から離れた。
「呼んでくるね」
「まだ、慣れないんだな」
「そりゃ、ね」
伏し目がちの睫毛がかすかに震えている。
ひゅ
っと彼女の形の良い唇から小さな息が漏れ、そしてそれはさみし気な微笑みに変わる。
いつもの顔だな…
「今夜は三人でいるか?」
「ううん…彩姫、呼んでくる」
「いいのか?」
問いに応えず、彼女は俺の幔幕を出て行った。
また思考が落ちる…
来たときは感じなかった違和感は、時を…日を追うごとにじわじわと俺の中に侵食しているようだ。
なんだ?
一体、なにが?
そして俺の中の俺が応える。
何かがオカシイ
と。
「タク?」
彩姫が幔幕に入るや、眉を寄せて俺の顔を見つめている。
「何でもない」
「って顔やないで」
「…」
「オカシイ…んやな?」
彩姫にはずいぶん前…1年ほど前か?
この「オカシイ」を話そうと試みたことがある。
結局、表現にすらならかったけど、彼女は真摯に聞いてくれていた。
「ああ」
「まだ、言葉になれへんの?」
「ならない…けど、じわっじわっと侵食されている感じがする」
「前より表現でけるようになってきとるんやない?」
「そうかもしれない」
確かに、前に話したときはこんなことすら言語にできなかった。
ただ駄々っ子のように、イライラとグチグチと彼女に当たった。
彼女は上着を脱いで夜着一枚になって寝台に潜り込んだ。
「タクもこっちゃ来てや」
「ああ」
のろのろと彼女の横に入る。
彩姫は俺の頭を胸に抱きしめた。
優しく髪を梳かれ、子供にするように背をポンポンとリズミカルに叩かれると安心する。
「じじぃなのにな」
「まだそんな歳ちゃうやろ?」
「そうか?」
「せやで。タクはこうしたら、てんで甘えん坊やし」
彩姫の胸に顔を埋めて苦笑いが口元を歪めた。
どれだけ時間がたった?
ん?
不意に彩姫の体が硬直したのを感じた瞬間、彼女に突き飛ばされて寝台から転げ落ちた。
「彩姫!?」
「にげ!」
寝台を見ると彼女は真っ黒い靄に包まれ始めていた!
「呪術!」
靄が彩姫を飲み込んでゆく!
起き直った俺は必死に手を伸ばしたが、あっという間に彼女は真っ黒くなって崩れ落ちた!
「っ!」
寝台の脇に立てかけた太刀をとり、立ち上がる。
幔幕の継ぎ目から隙間風が入ってくる…と、彼女だった黒い塊はサラサラと飛び去って行った。
さ、彩姫ぃぃぃ!!!
叫べない。
声が出ない!
ぱん!
頬を衝撃が走った!
覚醒した。
そこに涙目の彩姫の顔があった。
「さいき…」
「ここに居んで」
「夢…か…」
「えらいうなされて…どんな夢みとったん?」
俺が目を覚ましたことで安堵したのか、彼女はぎゅっと俺の手を握った。
すでに俺は何を見ていたのか記憶していなかった。
「ごめん、よくわからない…けど、悲しくて怖かった…」
「夢なんてそんなもんや」
彼女の柔らかい唇を求めると、素直に応じてくれた。
ここが俺の居場所
確認するように、刻み込むように俺は自分の脳みそにそう念じた。
【続】
「みどるえいじ くぇすと」の続編ですな…15年経つと、設定とかは既に忘却の彼方(笑)
なので、再設定したりの作業しながら、ゆっくり更新になると思います<(_ _)>