猫被りは明かさない
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「今日は見回りだよ!!」
もうほどんどの生徒が帰った校舎の会議室で愛川は目を輝かせる。
そんな様子をジト目で見る、他の二人。
「なんですか急に」
「遊びじゃないんだ、浮き足立つなよ?」
少しだけ八代は精彩を欠いているようにも見える。
そんなことを気にも留めず愛川は勢いそのままに続ける。
「夜の学校だよ!?もしかすると、お化けが出たりしてね!」
初瀬はより一層冷ややかな視線を送る
「何がお化けですか、あんなの脳の誤解ですよ。馬鹿らしい」
「あれれ〜!もしかして怖いの?初瀬さん??」
初瀬は、こめかみをピクつかせながら平静に受け流す。
「安い挑発ですね、、驚かす系は苦手ですが心霊的なのは平気です」
愛川は両手を前にして何かを揉むように動かして言う。
「へ、へ、へ。口ではそう言っても体は正直だぜお嬢さん?」
「気持ちの悪い」
一層どすの利いた声だった。
「蒼生くんは信じる系?」
愛川は椅子に腰掛けている八代を見る。
少しいつもより張りのある声で返す。
「は!馬鹿言うな」
「だよね〜」
「見たことない以上、いないとは言い切れないだろ」
「そっちなんだ!?」
八代は机上で汲んだ手に顔を乗せ、大きく目を見開いている。
信じたくないと言った様子で続ける。
「別に可能性の話をしてるだけで俺の認知の話をしてるわけじゃないんだが?むしろ否定するならその根拠をだな、、、」
「わー普段よりも多めにペラが回ってる」
見えすいた強がりを面倒そうに対応する愛川に初瀬は問いかける。
「逆に愛川さんはどうなんですか?信じてるんですか?」
愛川は待ってましたとばかりに、腰に手をやり胸を張って不敵に笑う。
「ふっふっふ!もちろんいるに決まってるさ!!」
「随分な自信ですね、、」
「まぁみんなも気をつけたまえよ!」
一体何にだろうかと二人が考えているうちに、愛川は初瀬らに背を向け扉を開けて走り出す。
「私ちょっと便所!」
「汚いな!」
嵐が過ぎ去った会議室で、初瀬は内心歓喜に飲まれていた。
「へー、八代くんお化け怖いんですか?」
言われて八代の体に緊張が走る。
(これでは完璧超人[当社比]な俺のブランド力が、、!)
「そんなこと言ってないだろ!ただいるかもしれないって言っただけで、、!」
「別に強がらないでいいですよ。誰しも怖い物の一つくらいありますし」
意外な言葉に驚く八代に、さらに声を掛ける。
それはとても優しい声色で、初めて心の根の温かさを感じさせるものだった。
「確かに意外でしたけど、そういう所を知っていけるのも楽しみの一つですよ」
言って柔和な笑みを浮かべる。
初めての雰囲気に戸惑いながらも、せっかくの機会と、八代も距離を詰めようと試みる。
「じゃ、じゃー。初瀬の怖いものってなんなんだ?」
「知りたいですか?しょうがないですね。それは、、、」
「お待たせ!ってアレ蒼生くん顔が怖いよ?漏れた?」
いつもの間の悪さに、二人とも肩を落とすが愛川はマイペースに続ける。
「もうそろそろいい時間じゃない?始めよーよ!」
「わかりましたから腕を引っ張らないでください!」
連れていかれる初瀬を追うようにして八代も会議室を出る。
先頭では謎の歌を口ずさみながら歩く愛川。
後方では、いいムードだったが話の腰を折られしょぼくれている八代。
初瀬は後ろを振り返る
長い髪からの覗く妖艶なその表情は、八代の情緒を掻き乱す
ゆっくりと人差し指を口にやる。
「秘密、です。今はまだ」
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