表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫被りは恋がしたい  作者: 茶ノ川
2/6

猫被りは褒めたい

読んでいただきありがとうございます!

最後の授業も終わり、委員会の当番の八代は会議室へ向かう。


「あ、蒼生君も今から会議室?」


後ろから小走りで八代に近づいてきた愛川はにこやかに問いかける。


せっかちな愛川は、八代の答えを聞く前に隣を歩いて話し出す。


「いやー特に仕事もないのに当番するの嫌だよね〜」


「別に俺たちに仕事がないのは良いことだろ、、」


風紀委員は、放課後の有事があった時のために何人かが会議室で待機しているが、暇なのだ。


愛川がわざとらしく一歩一歩大きく歩いていると、すれ違う生徒に声をかけられる。


「あ、咲!お疲れ〜」


親そうな生徒に笑顔を返す


「お疲れ〜」


愛川は手を振り終わると、首を左右に振りながら続ける


「でも暇すぎるのも考えものっていうか!」


「あ、愛川さん。さよなら!!」


「うん、バイバイ〜」


また手を振り終わると今度は左手で前方を力強く指差して言う


「『ビシッ!』って風紀委員ごっこしたいっていうか〜」


「、、、」


会議室についた愛川は扉は開きながら、八代に対して屈んで顔を見る


「あれ、どうしたの?漏れた?」


愛川を気にも留めず、八代は椅子に座り机に倒れ込む


八代は低い声で呟く


「俺、嫌われてんのかな、、、」

ーーーーーーーー

少し時間が経ってから、初瀬は会議室に向かう。


(今日は八代君と一緒ですし、早く行ってしまってはまるでがっついてるみたいで下品です。まーあー、別に八代君を意識して遅刻したわけではないですけど!ないですけど!!)


会議室が近づくと、何やら騒がしい。どうやらetc(愛川)がいるようだ


(いちゃついてるんじゃないわよ!!)


強く扉を開く


「失礼します!」


「そんなことないよ!そことなくいいところあるから!!」


「、、例えば?」


「え!?ほら、、優し、、い?」


「うわぁぁ!!」


八代は机に突っ伏した顔をブンブンと振り回し、両手で机を叩いている。


その横では宥める様子の愛川。


「な、なんですかこれ」


近づいて愛川に問いかけるが、自分の大声で扉に気づいてなかったのか若干の驚きを見せる。


「ここに来る時、蒼生君だけ挨拶されなくて、、」


それを聞いて出来立ての傷が疼くのかうめき声ののち、低い声でぼやく


「はぁ、風紀委員だから嫌われてんのかな」


大体の状況を理解した初瀬は、どう八代を慰めるか考えていると――


「いやいや私も風紀委員だし!」


「グハァ!」


「八代君!?」


とびきりの笑顔な愛川の無自覚な攻撃は八代にクリティカルだったようで、吐血する。


「なんで愛川さんはトドメを指すんですか!?」


愛川も意図はしてなかったためにあわてて慰め直す。


「ほ、ほら!さっきは偶然知り合いにあっただけだし!」


「一年の時のクラスメイトだったな、、、」


「あぅ、、」


重すぎる空気になぜか全員がダメージを受ける。


けれど、無理に褒めるのが限界なのか愛川は少しの沈黙の後、込み上げた怒りに任せて叫ぶ


「もー!女々しいな!!初瀬さんあとはお願い!!」


「え!?私!?最後まで責任持ってくださいよ!」


急に投げられた仕事を目の前に、初瀬は内心頭を抱える。


(どうしましょうか。褒めるのはやぶさかではないですが)


初瀬は伏せていた顔をあげ、力尽きている八代の様子を見て思う。


(ここで褒めすぎると私のキャラがぶれてしまう!つまり、、表向きの私らしく当たり障りのない感じで――)


決心した初瀬は八代と向き合い、綺麗な笑みを浮かべる


「仕事熱心なのはいいところだと思いますよ?」


「でも、そのせいで嫌われてるんじゃ、、」


今回ばかりは八代にその笑顔は効かないようだ


人付き合いが苦手な初瀬は手応えのなさに焦り、追加で補足をしていく


「嫌いな人はいないと思いますよ。ただ、今回は人脈がないだけで」


「グハァ、、!」


「初瀬さん!?」


またも嫌味のない攻撃で怯んでいる八代を見て、初瀬は齟齬に気づき、さらに焦る。


「ほ、ほら!無関心よりかはいいじゃないですか。愛の反対は無関心ですし!」


ピクリと八代の耳が動いた後、顔を上げる。


「確かに、、」


やや声も明るくなったような気もする


初瀬は畳み掛ける


「ただ真面目な八代君は近寄り難いってだけで交流さえあればみんな良さに気付きますよ」


(はぁ、所詮は八代君も単純な男ってことかしら。まぁそんなところも可愛いのだけれど。ここまで人の気持ちを計算通り操れる私の才能が怖いわ)


「それは初瀬さんの経験だったり?」


「あ、あくまでも一般的な可能性の話ですよ!!」


やけにニヤニヤした愛川に対してオーバーに反応して見せる初瀬。


「そ、そうか、、」


一連の会話でまたしても八代は不意打ちを喰らって凹む。


それをゴシップ大好きな愛川が見逃すわけもない


「ちょっと元気なくなった?ほら!初瀬さんがいいと思うとこ言って励まして!!」


趣旨とは逸れたが愛川は目を輝かせ初瀬に顔を近づける。


「い、いやですよ!!」


「ほらほら〜、八代君が可哀想だぞ〜!」


肘をぐりぐりと初瀬の腕に押し付ける愛川。さながら酔っ払いのだる絡みのようだ。


初瀬は焦りで顔を赤らめながら、ポツリポツリと紡いでいく。


「え、えっと。その、、苦手なことにも真摯に向き合うところとか、、」


顔が上がる。


「他には?」


「ただ仕事をするだけじゃなくて最中に生徒の様子を気にかけてるところとか」


席を立ち、伸びをしたのち前髪を手櫛でなびかせる。


「まぁ、冷静に考えれば俺が嫌われるわけないわな」


「わぁ単純」


やや引いた様子の愛川を見て、講釈を説くようにつらつらと言う。


「そもそもだ。愛川が好かれるのはこのアホそうな雰囲気が要因だ」


「あほ!?」


愛川は自己評価は高いのか、傷ついてそうな反応を見せる。


「つまりだ。裏を返せば俺は頭が良いと思われてると言える!」


廊下での愛川のようにビシッと指を差す八代。


「実際はバカのくせに」


もう自己肯定感が突き抜けた八代は聞く耳を持たずに両手を広げ声高々に言う。


「つまり、俺は孤独ではなく孤高というコトだっっ!」


「悪いな愛川。ブランド力の差を見せつけてしまって☆な☆!」


けなされ、愛川の目には涙が今にも溢れんとしていて、肩をプルプルとふるわしている。


「うぐぐぐぐ」


「助力しといてですけど立ち直り早すぎませんか、、」


また八代は前髪をなびかせる。


「まぁ仕事ができる男は切り替えが早いからな!」


初瀬の方を向いていた体を改めて愛川の方に向ける。


「まぁ愛川も人の粗探しなんてせずに自覚ある言動をしよう☆な☆!」


「うぁぁぁ!結局人脈ないことに変わりないくせに!」


「グハァ、、!」


「もう帰る!」


愛川は泣きながら走りさる。


一方で八代は床に倒れ込み「お、俺は人脈がない、、、?表面的な付き合いだけ、、?」とブツブツ呪文を唱えている。


「な、なんですかこれ」


荒れた会議室で初瀬は呟いた。

読んで頂いてありがとうございます!

よければ「いいね」してくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ