猫被りは白状したい
読んでいただいてありがとうございます!
風紀委員会
校内の風紀を正す機関である
その中でも目を引く生徒が二人
八代 蒼生 質実剛健を地で行く男として校内で認知されている
初瀬 優姫 その優れた容姿と規範意識の高さによる行動で多くの生徒に畏怖されている
「ねぇ、あんな真面目な人って何考えてんのかな?」
「現行日本法規復唱してんじゃない?」
仕事を終え、会議室へ向かう二人の胸中は――
『あぁぁぁ初瀬可愛いすぎだろ!まじ天使!!』
『カッコいぃぃいぃい八代君!!はぁ、はぁ食べちゃいたい!!』
恋心で荒みきっていた。
――これは、そんな猫被りな二人の物語。
二人しかいない会議室で、作業をする。
普段から初瀬は自分のことを話さない生徒だ。
(今日でその糸口を掴んでみせる!!)
「初瀬は普段、何してるんだ?」
八代の向かいで日誌を書いている初瀬はこちらを見ずに答える。
「どうしたんですか?関係ないじゃないですか」
「いやほら!仲良くなりたいからさ!!」
「もう出会って一年と二ヶ月経ってますけど」
ため息まじりの初瀬。
(出会ってそんなに経つのか。流石の成績上位者、記憶力がいいんだな)
初瀬は、目の前で右手を優雅に顎に運び、遠くを見る。
「でも、そうですね。、、作品鑑賞。ですかね」
ふんわりとした言い方だな。
けれど、ようやく見えた隙、切り込むのみ!!
「へぇどんな作品なんだ、やっぱロマンスか?」
「ま、まぁそういう言い方もできますかね」
「意外だな。そういうの興味ないのかと」
どうだ、攻めすぎたか!?
初瀬の顔は少しだけ赤くなりながらも日誌を書き続ける。
「私だって年頃です。興味くらいありますよ」
!!
俺は目を見張った。
なんだ今日!これまでにない好感触!!
待てよ、もしかしたらもう既に、、、
―想定しうる最悪のケースが彼の脳内を破壊する!
そんな胸中を知らず初瀬も仕掛ける
「八代君は何するんですか?」
「俺か?勉強と、、動物観察だな」
若干声が低い八代を厭わず会話は続く
「それだけですか?」
「俺、人より覚え悪いからさ。人一倍しないとダメなんだ」
自虐的な声色だ。
八代はそれであっても成績上位ではないのでやるせないと言った様子だ
「そうですか八代君らしいですね」
―日本語の綾が、不器用な初瀬の言葉遣いが二人を違わせる!
(俺馬鹿にされた、、?)
(ヒャァァ!私生活でも想像通りの誠実さだわ!)
八代は絶望で顔を伏せ、初瀬は気持ちの悪い笑いを抑えている時、扉が開かれる。
「ねぇ!聞いてよ二人とも!!」
甲高い声の主、愛川咲は二人の情緒を気にかけない
「どうしたよ、うるさいな」
愛川は初瀬の横に座って携帯の画面を八代に突きつける
「好きだった俳優の不倫が発覚したんだけど!」
八代と初瀬は俳優に疎いため、誰かしっくり来ていない様子だ
「あー、それは残念だな。でも芸能人ってかなり不倫してそうなもんだけど」
八代の返しは要領を得ていなかったのか愛川は張り付いた笑顔で抑揚なく捲し立てる
「いやー、別に不倫はいいんだけどなんていうか純粋さで売ってたくせにキャラと違うのが冷めるっていうか〜それなら本当のチャラいキャラで売ってたら推せるのにっていうか〜」
徐々に目のハイライトも消えていく
「お前今とんでもないこと言ってんぞ」
八代も初瀬も愛川の若干の貞操観念のねじれに引いた表情を向ける
愛川は両手の平を肩ほどで上に向ける。やけにアメリカンな反応を見せる
「期待してた人物像と違うと裏切られた気がするなぁーて」
言いたいことはわかるが、初瀬も八代も猫を被っているので気まずさを覚えて顔を逸らす。
なおも愛川は止まらない
「ていうか、もしそれで好かれても虚しいし、すぐ終わる悲しい結末になるなんて明白じゃん!」
『『み、耳が痛い、、』』
愉快げで眩しい笑顔な愛川と傷ついている二人の醸し出す空気は対照的だ。
「私は素で生活してるから二人とも友達だけど、どっちかが偽った状態の友情なんて紛い物以下だよね!!」
無自覚に二人の傷口にさらに塩を塗りたくっていく。
『『こ、心が痛い、、』』
二人の自尊心はボロボロだ。
愛川は誇らしげに鼻を鳴らし、順に指を刺す。
「蒼生君は男らしくて我を持ってて頼りになるっていうか〜。初瀬さんは生真面目さが尊敬っていうか!!」
『『い、言えない!!』』
(実は内心女々しくて気にしいだなんて!)
(言えない!たまに、たまーに!!恋愛本を読んでニヤニヤしてるなんて言えない!!)
言い当てたつもりの愛川は腕を組みキメ顔で言う。
「ね?友達は分かりあってこそだよ」
「そうだな」 「そうですね」
二つ返事だった。
けれど、この状況で二人の心は揺れていた
『でも、愛川の言う通りかもな。このままの俺じゃいつまでも初瀬と付き合えない。よし!』
八代は覚悟を決める。好きな人と向き合うために、、、
「初瀬!じ、実は俺はアイド――」
「うわ、アイドルにストーカー被害だって。拗らせたファン多いと大変だね〜私はアイドルとかわかんないけど蒼生君ものめり込んじゃダメだよ〜?」
「ぜ、ぜーんぜん、アイドルとか興味ないし!!」
必死に嘘をついた
(この野郎っ!勇気返せよ!!)
「ぽいね。でも、普通誰か可愛いとは思うもんじゃないのー」
そんな喧騒の中、初瀬は異様な冷静さを発揮していた。
(今、八代君は私に何を言おうとしたのかしら。まるで私と同じで愛川さんが来てから気まずそうな感じ。、、、もし
八代君も私と同じで猫を被っているのだとしたら?辻褄が合う!)
『もう!しょうがないですね。あくまでも返報性の原理に乗っ取って、仕方なく秘密を明かしてあげましょう』
初瀬は覚悟を決める。同じく好きな人に向き合うために、、、
「八代君、私。じ、実は。たまにですよ?たまにBエ−」
「そういえば私の友達がねBL本?を持ってきたから見たんだけど、すっごい過激でびっくりしたんだよね!読んだことある初瀬さん?」
「わ、ワタシでぇすかぁあ!?まさか!一回もないですよ!そもそもなんですかソレ、サッカー漫画かなんかですか?」
必死に嘘をついた
(何なのあの子!?狙ったように阻止してきて!それに過激なのが肝じゃないのにぃぃぃ!!)
気づけば、二人の元気はとっくに消え失せ、椅子に座って項垂れている。
愛川もスマホに夢中で話さないため空気が重くなる。
それを回避しようと八代はせめてもの自己肯定を呟く
「ま、まぁでも、みんなどこかは取り繕ってるんじゃないか?」
「そうですね!むしろ素を心が服を着てないのと同義だとすれば、相手に失礼ですよね!」
急な意気投合で、苦し紛れの笑い声をあげる二人を愛川は不振そうにみる。
「もしかして二人とも、、、」
視線の先の時計を見て愛川は急いで席を立つ
「っていけない!もうこんな時間!!」
鞄を持ち上げて、扉に駆け寄る。
「どうしたんだ?」
「これから学校長に表彰されるの」
なんの冗談だと八代は続ける
「空気読めない賞か?」
愛川は扉の前でこちらを振り返り、大きな胸をさらに張る。
「やだな〜国語科の県内最優秀生徒だよ〜」
「「一番意外」だわ!」です!」
「ってことでまた明日〜」
愛川は振り回すだけ振り回して軽やかに廊下をかけていく。
二人だけの会議室はやけに静かだ。
二人は顔を見合わせてため息をつく。
「解散するか」
「そうですね」
――猫被りな彼らが両者の思いに気がつくのは、まだ先の話。
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