平穏な一日
ビルからなんとか脱出できた。
みんなは先に出たけど、どこにいるんだ!
キョロキョロと見回すとやっぱり………
みんなはすぐそばで倒れていた。
「さくらーーー」
一花さんが走っていく。
「あ~~触れないんだったどうしよう」
ついさっきも見たやり取りだけど
一花さんは娘さんが心配で仕方ないよね!
「一花さん大丈夫ですよ!
これは異界から脱出した際の空間の差で
酔っちゃって気を失っただけですから
心配しないで下さい」
「えっ、ホント大丈夫?」
「大丈夫ですよ!それに一花さんが
一番それが分かるんじゃないですか
守護霊なんですから」
「うん、そうだね!大丈夫!分かる」
「と、言ってもすぐには起きないでしょうから
あっちの方に連れていって木を背に座らせます
かね」
一花はもちろん幽霊なんで
手伝うことは出来ない。……が口は出す。
さくらさんをおぶって運んでいると
「ね~変なところ触ってないでしょうね!
い~い気を失ってるからって触ったら
呪うわよ~~~」
「一花さん洒落にならないんで
止めてくれます」
みんなを運び終えひと休み、
今回はマシな方だから良いけど
やっぱり時間のズレが凄いな。10時間近く
入っていた気がするけど実際は1時間くらいか
空間のズレで影響が出るらしいけど
なんとかならないかな~それにこの後も
面倒くさいし。
「うっうう~……ここは………」
湊斗が意識を取り戻したみたいだ。
「筆か?俺どうしたんだ
ここどこだよ!なんでこんなところに居るんだ?」
ま!予想通りだな。異界から帰ると
異界での出来事とその前後の記憶が
あやふやになる。これも空間のズレにより
脳がその負荷に耐えられず記憶を放棄
してしまうらしい。詳しくは知らん。
その他のみんなも目を覚ましたようだ。
みんな混乱しているようだけど、ある意味
マシかもしれない。あんな怖い思いをしたんだ
きっと忘れた方が良い。
「あ~良かったよ~さくら~」
一花さんがさくらの周りを
ウロウロとして怪我をしていないか確認している。
「筆くん………あの………」
さくらはなにか言いたそうで言えない。
そんな感じで困惑していた。
「俺達のもしかしてUFOに拐われて
チップかなんか埋め込まれて記憶喪失に
なったのか!!」
拓海が騒ぎ出している。
記憶がないから不安になるわな!
「ちょっと良いか、僕が説明するよ!まずは……」
それから肝試しに来たことを簡単に説明した。
もちろん中でのことは説明はしない。
「いてて、でもそれおかしかな~い。
だって私達全員思い出せないなんで
何かあったとしか思えないよ!」
陽菜乃さんがごもっともなことを
指摘された。しかし僕にも秘策がある。
「実は僕も肝試しにくる記憶はあるんだけど
ビルの中に入った後の記憶はないんだ!」
そう、知らない振りをする事、みんなの
不安を払拭する事は出来ないが誤魔化すことは
出来る。
「とにかく今日は帰った方が良いと思うんだ
もうすぐ夜の11時になるし」
「あ!ヤバ、ママが帰ってきちゃう
私は帰るね!じゃ~」
陽菜乃は走って帰っていった。
「確かにここにいてもどうにもならない
今日はみんな帰ろう!」
湊斗の一言で解散する事になった。
「筆くん、まだ諦めてないわよね!」
「もちろんマコちゃんとリコちゃんは
絶対に助けますよ!」
一花は元気づけるように声をかけ
僕は覚悟を高めた。
……………▽
「良く頑張ったな!死闘を終えた良い顔を
していやがる!」
「じいちゃんただいま、もしかして見てたのか?」
「見てね~よ!咲七が今日のことを占って
たみたいで、お前に死の兆候がみられるって
言うからよ」
「なんだよ!もしかして朝から俺が大変な
目に会うことを知ってたのかよ!」
「おう!いや~咲七が騒ぐから
抑えるのが大変だったぞ。ほらここ見ろよ
顔とか腕とか引っ掛かれて痛いのなんのって、
いや~夫婦ゲンカをするのも久しぶりだな~」
「なにちょっとのろけ入ってるんだよ!
助けてくれたって良いじゃないか!」
「良い修行になったから良いだろ。やっぱ実戦に
勝る修行はないな、お前が強くなって
帰ってきたのが見て分かる」
「いや、ボロボロだからね。全く………ま~いっか
今日はとにかく早く寝たいよ!」
「そうだな!軽く食うだろ飯は用意してある
風呂入って飯食って寝ろ!じゃな!」
「じいちゃんは満足そうに寝室へ歩いていった」
「まだ終わっていない!準備しないとな!」
僕は疲れているが気力は滾っている。
不思議なもんだな、でもそれで良い
絶対にあいつを倒さないといけないのだから」
………………▽
「おはよう!」「おはよう!」
学校の良くある朝の光景、僕もいつものように
席に着くが、ひとつだけ違うことがある。
机の上に座りぶらぶらと足を動かしている
美人の奥様がいる。
「あの~前が見えないんですけど!」
「あ!やっと話してくれた。無視とか酷いぞ!」
僕の頬をつねる。痛てててて(((^^;)
「筆くん、いつ行くの?」
「出来れば今夜行きたいですけど、
あれだけ霊力を使うと回復にはそれなりに
かかるんで明後日にはなると思います」
「そうなんだ!無理はダメだよ!またさくらが
心配するんだから!」
「大丈夫ですよ!昨日のことは覚えていませんし
もう関わることはありません」
「ブギ………?」何故か一花さんに
また頬をつねられた。
「いじがさん?」
「そんな寂しいこと言わないのメーだよ!メー」
「アタタ、何ですかその子供を叱るような言い方は」
「私からすれば筆くんなんて
子供よ、こ ど も!」
「ちなみに一花さんは
お母さんって言うよりお姉さんですね!」
「え~言っとくけど、私旦那がいるからね~」
一花は照れているが、
僕は正直チョロいのではないかと心配になる。
「おはよう!筆大丈夫か?
さっきからぶつぶつ言いながら変な顔してる
からちょっとキモいぞ!
やべ、一花さん幽霊だから
見えないんだ、俺一人で喋ってたら
こえ~奴にしか見えん
「筆もしかしてこの間のビルで
なんか取り憑かれたんじゃないか?」
「ま~あながち間違ってないけど
問題ないから気にすんな!」
「ま~筆がそう言うなら大丈夫
なんだろうけど気を付けろよ!」
「おう!ありがとうな!湊斗」
「危なかったわね!変人だと
思われるところだったわ」
「…………………………」
一花は無言で頬に手を当て
「なにしようとしてるんですか?」※小声
「だって無視されたみたいで腹が立つから
つねろうかと!」
「さっきまでの会話を思いだしてくださいよ
変人扱いされるじゃないですか!」※小声
「う~ん、そうね!仕方ないか~」
一花さんと話をしていると
さくらさんがやって来た。
「おはよう!筆くん、昨日はありがとうね」
「?………えっと僕は特に何もしていないよ」
「そんなことないよ!私達が気を失っている間
見ていてくれたんでしょ!」
「なんだ~そんなことか、大したことないのに
さくらさん気にしなくて良いよ」
「良いから、言わせて……それにね
私なにかもっと言いたいことがあった
気がするんだけど思い出せなくって、
なんか胸の辺りがムズムズしてお礼を言うと
少しだけそれが治まった気がする。
だからね!ありがとう」
さくらさん思い出せなくても、なにか感じる物が
あるんだろうな!それに一花さんの
件もあるから余計にかな!
「うん、わかった。どういたしましてだね!」
「フフッそれで良いんだよ!」
さくらさんと話をしていると先生が来て
朝礼が始まったのでお話はそこで中断
いつも通り授業を………受けられない。ガクッ
「筆くん聞いてる?ここ最近ね!
さくらが私が好きで集めてた単行本のマンガを
読んでいるのよ!あの娘昔は少女マンガしか
読まなかったからなんか嬉しくって
私が笑ったり、泣いたりした同じところで
グッとした反応してるから共感できた
みたいで嬉しくって…………………………………………」
授業が始まってからずっとさくらさんの
話をひたすらしてくるのだが、時と場合を
考えて欲しい。今は授業中なのだ、ぜんぜん
集中できん!あと勝手に娘さんの話を
暴露しまくってるけど良いのかよ一花さん
興味深い話しもあったのでついつい
聞いてしまったが………
「ね~ちょっと聞いてよ~」
一花さんが僕の頬をツンツンしてくる。
「いい加減にして下さいよ!一花さん
僕は今授業中なんですよ」※小声
「だって~久しぶりに喋る相手がいるのよ
こっちとしては我慢できないのよ~」
確かに気持ちは分かる。幽霊は基本孤独だ
誰とも喋ることは出来ない。例えば地縛霊
その土地に何らかの執着があり成仏できない霊
なのだが、大体は執着している事柄にしか
興味をもたず、恐らく考えることもしない。
一花さんのような守護霊も同じことが
言える。場所に憑くか人に憑くかの違い、
つまり一花さんは少し違うことが
今までのやり取りで分かる。確かに娘さんの
話をしてはいるものの、僕に話す必要はない
ただ娘のことや自慢話をしたい普通のお母さんと
何ら変わらない。これは恐らくあのビルでの
やり取りで一花さんが自我に目覚めて
いると言える。
「分かりましたよ。今日だけですよ。
あと基本的に目立たないようにして下さい。
良いですか一花さん」
「やった~筆くんやっさし~い
じゃ~耳元で小さな声で言うね!」
一花さんそんなに接近して耳元で
言われるとドキドキするんですけどとは
言えなかった………
ほぼ授業は聞かず一花さんの話を
聞いて終業後、僕は湊斗に呼ばれて
行くと昨日のメンバーが居た。
話の議題はやはり昨日のビルでの出来事
記憶がないから不安な気持ちで一杯なのかと
心配していたのだが、相変わらず
陽菜乃と拓海が言い合いになり
もう一度行って検証しようと言う話になって
しまった。懲りないな~と思いながらも
記憶がないから仕方ないかと思った。
ただこのまま行くとまた巻き込まれる。
僕は上手いこと言って一週間後にしようと
行く日を伸ばした。一週間後なら片は付いて
いるはず。それならリスクは少ないはず
…………▽
僕が家に帰るとじいちゃんが待ち構えていた。
「よ~筆待ってたぜ!準備は出来てる」
僕は朝の時点で今回の案件について相談した。
本当はじいちゃんに付いてきて欲しかったけど、
思いっきり断られた。その代わり
勝つための準備しておくと言っていたが
これはこれで頼もしい。
『待っていろよ悪魔お前を滅して
マコちゃんとリコちゃんを助ける!』