帰れない夜
「お~い美樹ちょっと休もうぜ」
「なに言ってるのよ!こんなところ
1分1秒たりとも居たくないの。早く立って
行くわよ」
「な~真司、美樹に言ってやってくれよ!
休も~って」
「勝也俺もこれ以上居たくないんだよ。
お前もさっき見ただろ!黒い男」
「わーってるよ!けどさ~あれからどれだけ
歩いてるんだよ。3時間は歩いてるぞ。
おかしいだろ!ここは5階建てのただのビルだぞ」
「ね~2人ともさ~黒い男にびっくりしてさ
私の見間違いだったかもなんだけどさ~
黒い男の足元に人が倒れてた気がするんだけど!」
「う、うっせい美樹、ビビらそうとして、
嘘つくんじゃね~よ!バカヤロー」
「違うわよ!それにあんたがバカなのよ!」
「なんだとー!」
「勝也も美樹もそれくらいで、これ以上は
疲れるし喉が渇くよ」
「「………………」」
「ほら行くよ。今度は階段を降りよ。昇るより
楽でしょ」
「へ~い」
「は~い」
…………▼
「おーい筆ちょっとこいよ!
面白い話があるんだ」
「悪いけど、今忙しいからあとにしてくれる」
「忙しいって……お前変わってるよな!
名前負けしてねいよ!」
「はーふざけるなよ!筆なんて名前
つけられて、たまったもんじゃないよ!」
筆は腕くみしてふんっと鼻息をたてる。
「そうは言うけどよ~なんで休み時間に
習字書いてるんだよ!名前あってるじゃん」
「俺だって書きたくて書いてるんじゃないわ」
「じゃなんで書いてるんだよ?」
「どうでも良いだろ。
集中力も切れちゃったし話し聞くよ」
「よっしゃ!筆こっちだ来てくれ」
…………▽
「よっすーみんなお待たせ~」
そこには4人の男女が集まってた。
「おせいよ!湊斗」
「筆がごねるから時間がかかってよ」
「湊斗くん、筆くんに迷惑かけて
ないでしょうね」
「さくら、お前が寺の息子の筆が居た方が
安心できるって言うから呼んできたんだぞ」
そう俺は町ではちょっと有名な寺の息子
とはいってもおれ自身は特に変わったところはなく
坊主頭のモブである。
「よっしゃ!全員集まったところで
改めて説明するぞー陽菜乃先生」
「うふふ、お任せ、それじゃ説明するね
今回行く場所は『帰らずのビル』だよん」
「帰らずのビルってたしか隣町にある
5階くらいの貸ビルだよな!」
「お~良くしてるじゃん!拓海
さすがは私の次のホラーマニアね!」
「えー俺2番かよ!」
「いいから、話が進まないんでしょ」
「わかったよ!さくら」
「ゴホン、では、『帰らずのビル』なんだけど
このビルはね!ここ最新私が良く見てる
ホラーサイトで良くスレッドにあがる話し
なんだけど~、どうも行方不明者が多数
出てるみたい。はっきりした人数はわかんないん
だけど、ここ5年で10人以上らしいよ」
「それでだ!僕達でそのビルを確かめて
そのサイトに謎を投稿するんだ!
そうすれば俺は有名人に」
「ちょっと拓海投稿するとしたら私でしょ!」
「いつそんなのが決まったんだよ!」
陽菜乃と拓海が言い合いを始め
それをさくらが止めている。
まったくこいつらも暇人か、
いいか中学3年生にもなって
他にもやること一杯あるだろう
遊ぶんならカラオケとゲーセンとか
ありきたりなとこ行っとけよ!
「筆ってことで肝試しがてら
こいつらにつきやってくれよ!」
「う~ん、いいけどらしくないよな!
湊斗こういうことに興味ないと思ってたけど?」
「え!そうだよな、そんなには興味あるわけじゃ
ないんだけど、ま~暇潰し、思いで作りだ!」
相変わらずこいつは嘘が苦手だ。
視線を見ればなんとなくわかる。こいつは
さくらに気があるな。
さくらは活発な性格でやや男勝りな部分があるが、
陸上部で身体が引き締まってスタイルも良い。
俺としてはポニーテールはとても好ましく。
あ!!俺は関係ないか( ゜д゜)ハッ!
こうして俺も仕方なく行くことに………
…………▽
今の時間は薄暗くなり始めた夜6時
真っ暗だと不安だとさくらが言うため
この時間に、ビルの中は電気も点かないだろうから
懐中電灯は持参した。
「よーしみんな集まったことだし行きますか」
「湊斗全部まわると結構時間かかるからさ
まずは5階にあるって書いてあった。幽霊が
染みになって残っている壁を見に行こうぜ。
写真を撮るんだ!」
「う~ん俺は良いけど!」
「私もまずはそこが良いかな。そこ際行ってれば
話は投稿できそうだし」
湊斗はみんなを見てそれで良いかを
確認してまずはそこに向かうことにした。
俺はどっちでも良かったし。
しっかしなぜ簡単に入れるんだ。
行方不明者が多数出てるんだろ。
鍵くらいしっかりかけとけよ!
「筆くん、ごめんね巻き込んじゃって」
さくらが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「えっと寺の息子理由で呼ばれたこと」
「そう、ごめん筆くん迷惑だったよね」
「良いですよ!気にしないで下さい。
佐々木さんが安心できるなら呼ばれたかいが
ありますよ」
筆は笑いかける。
「ありがとう!あと、私のことはさくらって
呼んで、みんなも名前で呼んだ方が喜ぶよ
堅苦しいの苦手だからさ。
筆くんとはあんまり喋ったこと
なかったけど今回をきっかけに仲良くしよ」
さくらは笑顔を返してくれた。
ビルに入ると、
ここ嫌な匂いがする。
「エレベーターは動かないか!」
「ダメだよ拓海動いたとしても
もしかしたら閉じ込められるかもしれないでしょ
廃墟は階段一択よ!」
「へ~い」
それから俺達は5階まで階段を昇った。
「ふ~疲れたと、へ~結構広いね~
部屋も沢山ありそう」
「山崎製薬………」
「そうなんだ~5階は丸々薬剤を生産・販売
している会社が元々は入ってたんだって」
「じゃ~さ~ここに薬が沢山あるってことか?」
「そんなわけないでしょう。
とっくの昔に撤収してるだろうし
ここで薬剤を作っていた訳じゃないから
何にもないわよ!」
「な~んだつまんないの投稿出来ないじゃん!」
「拓海の頭の中には投稿のこと
しかないのかよ」
「アハハハ」笑って誤魔化す拓海
事務所の中にはいると、意外と物が残ってる。
机を開ければ書類が入っているし給湯室に
行くとコップとか置きっぱなし出し、
意外と片付いてない。
正直ここまだ使ってるんじゃないかと
思ったけど埃はだいぶたまってるし、
誰かが侵入してたむろする場所として
使ってたんだろう。お酒の缶やタバコが
落ちている。
「お~いこっちに例の部屋があるぞ」
『社長室』
「ここなのか例の染み?」
「あ~ドキドキするな~」
「さくらさくら何が出るか楽しみだね!」
陽菜乃がさくらとワイワイと
盛り上がっている。
陽菜乃はメガネをかけたおさげの髪型
一見おとなしそうな感じだか、実のところ
クラスの中でも1、2を争う。騒がしい女子
特にホラー関係の話が好きで良く喋っている。
特にさくらと仲が良いようだ。
社長室に入ると中は荒れていた。
ここには恐らく沢山の人が遊びに
入ったようだ。色々と残骸がある。
「おう、エロ本発見」
拓海が変なこと言うから、
さくらにガヤガヤ言われている。
ちなみに陽菜乃はエロ本を見ていた。
「な、みんな、染みってこれだよな!」
湊斗がどうやら見つけたようだ、
みんなは呼ばれた場所に向かう。
反応は淡白なものだった。
部屋の壁にうっすらと白い影のようなものがある。
なんとなく人の形をしてようなくらいのものだった。
拓海と陽菜乃は取りあえずと
言った感じで写真を撮る。
ここなんか嫌な匂いがするけど、
これじゃないよな!
横を見ると湊斗がさくらに
話しかけていた。たぶん気を引こうと
怖い話しの知識を詳しく話しているのだろうが、
逆効果だ湊斗、さくらは陽菜乃の
付き合いで来てるだけで、恐らくそれ程興味はない
さっきからの反応からするとむしろ苦手だぞ
気づくんだ湊斗!
湊斗は幼馴染みで昔から良く遊んでいた。
頭が良くなかなかイケメンである為モテるが
誰かと付き合っている姿は見たことはない。
意外と恋愛ベタなのかもしれない。
一通り写真を撮って満足したんだろう
2人は移動しようと言ったので俺達は
下の階に降りることにした。
「キャ、なになに」
物が崩れさくらが驚いて叫ぶ。
「何でもないよ。誰か足でもぶつけて
倒れたんだよ」
陽菜乃がさくらを落ち着かせる。
確かに何かあるって訳じゃないけど
これだけ暗いと結構怖い!
目の前は光で照らさなければ、何も見えない
そこから突然何か出てくるんじゃないかと
思えば、それだけでゾクゾクするだろう。
「痛って」
拓海が派手に段ボールに突っ込んで
転けていた。カメラ片手に撮りながら
歩いていたので足元を良く見ていなかった
のだろう。
拓海はいわゆるお調子者、
髪は茶髪に染め、アクセサリーをじゃらじゃらと
付けている。色々と遊びまわりいつも
目立っている。注目されるのが堪らなく
好きなのだろう。
今はホラーにはまっているようだ!
「なんかさ~思ったより、な~も起きないよな!」
「そうね!ちょっと期待はずれかも」
「そう、私は結構ゾクゾクするんだけど!」
「どうする。結構歩き回って疲れたしさ
ファミレスでも行ってご飯でも食べない」
皆もそろそろ飽きたようだ。湊斗の
意見に賛同、俺達はビルを出ることにした。
まだ見てないところは沢山あるが、
思ったより疲れたのだろう誰も反対しなかった。
俺達は階段を降りる。
ふと気づく2階の踊り場に誰かいる?
「え、なになになんか居ない」
陽菜乃が騒ぐ。
「おう、俺も何かいた気がするぞ!何か出たか!」
拓海も陽菜乃と一緒に
騒ぎだす。
さくらは目が点になって固まってる。
「さくらさん~大丈夫ですか?」
俺もさくらの方を軽く叩きながら声をかける。
「へっ、だ、大丈夫だよ。へーき~」
そうは見えなかったが意識は戻ったようだ。
改めて踊り場を見ると、
こちらを壁越しに見ている。女の子が居た。
「おい、これ出たんじゃね~の」
「うそうそマジー」
「ちょっと待って、もしかしたら俺達と一緒で
遊んでるか、迷い込んだのかも?」
「湊斗くん冷静、でも
面白見ないよ!それ!」
「うぐ」
湊斗を陽菜乃の冷静な言葉が心をえぐる
「君、大丈夫だからこっちにおいで」
湊斗が少女に声をかけるとニィーと笑い、
スーッと顔を隠してしまった。
「ちょっ、待って」
湊斗は追いかけ壁の裏を見るが
誰も居ない。
「あれ、居ないや隠れたか?」
「ね、ねさっきの幽霊だと思う?」
「あーしまった~撮るの忘れた~
絶好のチャンスだったのに~」
拓海と陽菜乃は大興奮さっきの
帰ろうムードは完全になくなった。
「皆さ~一応子供が迷い込んだかもしれないし
この階だけ見ていかない!」
怖がりながらもさくらは少女が心配と
みんなもその提案に賛成し少女を捜索
理由はそれぞれやや違ったようだが………
暫く捜したが少女は見つからなかった。
少女を見つけることは出来なかったが
拓海と陽菜乃は
幽霊を見たかもと満足しており、
湊斗は、もしかしたら知らないうち
出ていったかもしれないとさくらを説得
これ以上捜しても見つからないので、
帰ることになった。既に10時をまわっていた。
階段を降り出口に行くと、
「あれ!?ここ1階だよな!何で事務所があるんだ
違う階段で降りてきたか?」
拓海が騒ぎ出す。
みんなもまわりを見てうろうろし始める。
「え、嘘なんで」
陽菜乃が何かを見つけたようだ!
『山崎製薬』
5階で見た会社のプレートがあった。
みんなもそれを見て動揺する。
「あ、びっくりした。1階にもこの会社が
入っていたんだ」
湊斗は偶然同じ会社が1階にも
あったんだと思ったようだ。
でも違う。ここは5階、
階のプレート見て、そう表記されていた。
「は~どう言うことだよ!俺達は降りてきたんだぞ
あり得ないだろう」
拓海は近くの窓を覗くが、
「…………おいおい頭がおかしくなったのか俺」
みんなも窓の外を見て絶句する。
地面は遥か下、きっと5階くらいの高さが
あるんだろう。
みんなは放心状態になっていた。
俺は少し離れて階段を見る。
「ねじれてるな」
空間がおかしくなってる。
もうここは普通のビルじゃない。
何かの条件にはまったな!
『帰らずのビル』
「閉じ込められたかも?」
「みんな、とにかくもう一度降りよう出られるかも
しれない」
「そうよね。もう一度降りてみよ」
俺達は再び1階を目指す。
みんな慌てているためすぐに降りることが出来た。
「え!?、また5階おかしいよなんでなんで」
さくらの精神状態が相当不安定になり
「大丈夫だから落ち着いて」
陽菜乃が抱きしめ落ち着かせる。
「これ本格的ヤベーじゃん、どうするよ湊斗」
「いや、僕に言われてもちょっと
それに拓海の方がこういうの
詳しいだろ」
「そんなこと言われてもこんなこと初めて
起こったんだよ。今まで何回も肝試ししたけど
あり得ね~よ」
「陽菜乃はどうなんだ!」
さくらを抱きしめながら
「私だって初めてよ!どうしたらいいかは
わからないよ。でもこのままいても、どうにも
ならないし出口が他にないか捜さない?」
「そうだな!出口をって、あれ?筆は
どこ行った」
「あ、ごめんこっち~」
「筆勝手に動きまわるなよ!」
「アハハ、ごめんごめん」
謝るが、雰囲気があまり良くないから
みんな怒ってるように見える。ヤベッ
「は~それじゃまずは2階に降りよう!
最悪2階からなら窓から出て降りられる
かもしれない」
みんなはその一言を聞いて希望が見えたのだろう
少し表情が明るくなり2階を目指すことに
黙々と階段を降りるなか、
「筆くん、あの~これってなんなのかな」
さくらは少し落ち着いたが元気がない。
たぶん怖いのだろう。
「ま~名前の通り『帰らずのビル』
閉じ込められたね!」
さくらをビクッとして
「筆くんは怖くないの、こんな不思議な
ことが起きてるのに!」
「うん?………寺生まれなんで大丈夫みたい」
俺は頭に手を置いて笑う。
さくらをキョトンとして
「ぷっふ、なにそれ寺生まれだと怖くないわけ!」
「うん、そうそう、そんな感じ」
「あーなんか適当だな~」
細目にしてジーッと横目で俺を見て笑う。
さくらは可愛いと思うぞ。俺も!
だからそんな冷たい目で見るな湊斗よ!
2階に到着
『山田不動産』
部屋に入ると沢山の机が並んで、
沢山の書類が棚にしまわれている。
「普通さ、これって大事な書類じゃないの
なんで片付けて行かないんだろう?」
陽菜乃は歩きながら呟く。
「筆くん、あのさ~やっぱり
ここ霊とかいるのかな~」
「え、いますよ。珍しいですよね~
肝試し行っても大概いないもんですけど
ここヤバいですよ!」
「………………………」
みんな、目が点になっていた。
「筆なんで言わないんだよ!
ヤバいんだろ~」
湊斗は筆の両肩をもって揺らす。
「だだだって、ゆゆ幽霊、みみみに来たんでしょ」
「そ、そうだけどよ~」
湊斗はやや困った顔をする。
「湊斗俺だってびっくりしてるんだよ
まさかこんなことになるなんて思ってなかったし」
「筆って霊感とかやっぱりあるんだ」
「すごい!さすが寺生まれだね!」
「さくらさん、いじってます」
「えーなんのこと!」
少し場の空気が和らいだ気がした。
「それじゃ、さっさと出られそうな窓を探そうぜ」
湊斗がややふて腐れたように歩き出す。
それから窓を確認
「なにこれ」
「おいおいマジかよ」
「なんで………」
それぞれが反応を示すなか、
俺も呆然とする。
窓の外を見ると、さっきと同じくかなり高い位置の
景色が見える。普通2階の高さならせいぜい
7、8mmくらいの高さのはず、とてもじゃないが
降りられそうにない。
「なんだよ!どうするんだよ!」
イライラが溜まってきた拓海が
周辺にある椅子を蹴飛ばしている。
「拓海物に当たらないの!!」
さくらが拓海を叱る。
「お、おう悪かった」
拓海は意外と素直だあんまり喋ったこと
なかったけど、只のチャラいやつじゃ無さそうだ。
「でもどうするんだよ。出口がどこにあるか
わかんねし」
みんな下を向き黙る。
「!?」
部屋の入口からこちらを覗いているやつがいた。
みんなもそれに気付き見ているが、誰も動けない。
何故なら、それは真っ黒で何もない。
目も口も鼻も何もなかった。
そいつは暫くこちらを見て、ゆっくりと
歩いて出ていった。
みんなハーと息を吐き腰が抜けたように
座り込んだ。
「なーおいおい今の見たかよ!何だよあれ」
「し、知らないわよ。でも幽霊なのかしら?」
「陽菜乃は詳しいんだろう」
「知らないわよ!あんなのサイトには
のって無かったんだから」
「ま、そりゃそうじゃないか!
帰らずのビルから帰ってきてるってことは
投稿したそいつらは見てないんだよ。
たぶんあれが原因だ!!
俺の一言でみんなは考え始める。
「て、ことはさ私達謎の真相を見つけら
れるんじゃない」
「お前はアホか、生粋のホラーマニアだな~
今はそれどころじゃないだろう」
またこの2人が言い合いに、
「筆くんどうしたら言いと思う」
さくらが聞いてきたので
「とにかく今ここにいても出れないし
他を捜そう。但しさっきの黒いのには
見つからないようにね。
あいつからはあまり良い気配がしなかったから」
「わかった。みんなあいつがまだ近くにいるかも
しれない。少し経ってから、あいつが行った
反対側を見に行こう」
それから時間を置いて、反対側を見に行くと、
そこで俺達は待ち受けていたのは
…………悲惨な死体だった。