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SSSランクの女冒険者は、ちびっこに変化したドラゴンと共にたくさんの料理を堪能する旅に出る  作者: 下菊みこと


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バナナオレ

シリアス回

今日は魔獣退治の依頼。大型の狼の魔獣が人を襲うようになったので駆除して欲しいとのこと。この魔獣が厄介で、どんな罠を張っても決して引っかからずに上手にエサだけを奪い取っていくらしい。ただ、それほどの知性がある魔獣が訳もなく人間を襲うだろうか?


依頼主にそれを聞くと気まずそうに目を逸らされた。何かあるなぁと思い依頼を破棄するかはわからないけどきちんと聞かせて欲しいとお願いすると、ため息と共に教えてくれた。


猟師が彼の妻の狼(こちらは魔獣じゃなかったらしい)を撃ってその美しい毛皮を剥ぎ取り、肉や骨は捨て置いて去ったらしい。その血肉の匂いで妻の悲惨な最期を知った彼は、復讐として人間を襲い始めたとのこと。まあ、毛皮を狙って狼を襲うのは正直よくあることだし、狼の肉はあまり人気がないから食べないのも持ち帰らないのも仕方ないといえば仕方がない。それをしなければ猟師は生活していけない。


でもせめて埋葬してやればよかったのかな、なんて綺麗事が頭をよぎる。そんなことしてる間に彼に出会ってしまえば、きっと猟師が襲われていた。生きては帰れなかった。仕方がないのだ。人間が生きるためには。ただ、結果的に多くの人が襲われる事態になり、それを悔いた彼が高い依頼料を払って駆除を依頼することになっただけ。全部綺麗事で結果論だ。仕方がない。いつも私がしていることと変わらないことだ。


私は依頼を受けることにした。依頼主はほっとした様子だった。駆除した彼は持ち帰り、その美しい毛皮を剥ぎ取ることになった。それならば依頼主も損にはならないだろう。むしろ美しい毛皮をたくさん手に入れて売ることができるから、依頼料を含めてもお得かもしれない。依頼主は彼の血と肉は後で自然に還すと言っていた。仕方のないことだ。


私は防御魔法や結界を重ねがけした上で防具などは身につけずに彼の縄張りに入った。彼は無防備な私に逆に警戒したらしく現れない。仕方がないので光魔法を使って居場所を特定した。彼はそれをすぐに察知して逃げる。もう、彼の帰る場所…妻はどこにもいないのに。せめて彼を楽にしてやろう、なんてそれも所詮は綺麗事。


…何故だろう。今日は私はやけに感傷的だ。ああ、そうだ。彼を自分に重ねているんだ。唯一の家族を亡くした彼を。もし自分がリオルをなくしたら、なんて。


彼を光魔法で追跡して、睡眠魔法を掛ける。魔獣だから、多少の抵抗はあったけど私は残りの魔力のほとんどを使って無理矢理彼を眠らせた。魔力回復ポーションを飲み干して、眠る彼の心臓の動きを止めた。毛皮を剥ぐのが前提なので、なるべく綺麗な状態になるように。そして、彼が楽に逝けるように優しく。


全部、綺麗事だった。


彼の遺体を風魔法で運んで依頼主に渡す。依頼主は依頼料を払う。私はなんとなく、目の前で毛皮を剥ぎ取られていく彼を見届けた。依頼主がその毛皮を売りに行く際に、彼の遺体の残りを引き取らせて欲しいとお願いして無料で彼を手に入れた。彼を連れて彼の縄張りに戻る。彼の家族がいたらまずいので、さくっと光魔法で探した。目当てのものはやはり、彼の住処の片隅にあった。彼の妻の骨。埋められてあったそれのすぐ近くに彼の遺体を埋めた。勿論彼の妻の骨も綺麗に埋葬し直した。せめて二人が来世では添い遂げられればいい。


全部、綺麗事だった。


私が感傷的な気分のまま宿に戻ると、リオルが無邪気に笑って出迎えてくれた。なんだかそれに酷く安心して、リオルをぎゅっと抱きしめた。


「リリア?どうしたのじゃ?まさか誰かに虐められたのかの!?このジジイが成敗してやるのじゃー!」


いつのまにか泣いていた私の頬を流れるそれを、リオルは一生懸命に自分の服の袖でゴシゴシと拭きながらそんなことを言う。リオルの優しさにまた泣けた。


「リリア、泣かなくても大丈夫なのじゃー!このジジイがずっと守ってやるのじゃー!だから泣くな、の?わかるじゃろ?」


そんなリオルが愛おしい。私がリオルが大好きだ。


「そうじゃ!さっきのー、喫茶店でお持ち帰り出来るバナナオレののぼりを見ての、わしとリリアの分を買っておいたのじゃー!一緒に飲めば美味しくて涙も引っ込むのじゃ!ほれ、飲め!」


リオルがストローを私の口に無理矢理突っ込む。強引だなぁ。大好き。


「ほら、美味しいのじゃー!バナナの自然な甘さと新鮮ミルクがとっても優しいのじゃー!」


「…そうね。美味しいわ」


「ほら、涙も引っ込んだのじゃー!」


それは貴方が強引過ぎるからよとは言えない。リオルがあんまりにも可愛いから。


「ほら、マスターのくれたのー、このチョコレートシロップを入れるともっと美味しいらしいのじゃー!リリアと一緒にやりたくて待ってたのじゃー!やるのじゃー!」


チョコレートシロップを入れる。うん、チョコバナナ。美味しい。


「美味しいわね」


「これは美味し過ぎるのじゃー!また今度買うのじゃ!」


「次に来るのは来年になりそうだけど」


「…長いのじゃー。でも、リリアとずっと一緒に旅をするって決めたから従うのじゃー!だってチョコレートシロップより、リリアとずっと一緒の方が幸せなのじゃー!」


嬉しいことを言ってくれるリオルに癒される。いつのまにか感傷的な気分は引っ込んでいた。二人で昼寝したら、今度は幸せな気分になった。

シリアスも吹き飛ばすドラゴン、リオル

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