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空想世界のイル  作者: じばくボタン
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1話ー1枚の手紙ー

やっと本筋の話ですみません。すみませんでした。

きっとこの二人は、本心では刺激的な毎日が良いんですけど、お互いを守るためにのんびりしてるんだろうなあ。自分の作品を考察するの、創作家として終わってる感じがして楽しいです、はい。

スザック王国は、小さな国だった。周りを様々な国に囲まれて、それでもこの国がのんびりと生活していけるのは、この国が魔法王国だからだ。他のどこより進んだ魔法文明が、勢力の差を補っている。


おかげさまで国境に面するストックライン男爵領は長閑(のどか)なことこの上ない。執務室に積み上げられる書類も一束か二束ほどで、他の領地に比べると驚くほどに少ないようだ。


「今日の仕事はここまででいい?」


「全然時間が経ってないので却下です。哀れですね」


「哀れって…」


「私はご主人様が苦しむ姿を見るのが趣味なので」


「マイラのケチ!人非人(にんぴにん)!!!」


イルは必死に抗議するも、メイドはクスクスと笑っているだけだった。彼女の黄金の瞳は、楽し気に細められ、イルを映している。


「ほら、ちゃんとお仕事を終わらせたらご主人様の大好きなやつしてあげますから」


「え?なにそれ?」


「私のお尻でご主人様の顔を踏んづけるやつですよ、良くやるじゃないですか」


「一回もやったことないけど!?僕どんな変態だと思われてるわけ!?」


「いや普通のエロガキだと思ってますけど」


「僕に対する敬意を一体どこに置いてきたんだ」


顔を赤くするイルに対して、メイドのマイラはにやにやと笑みを浮かべている。それを見たイルは、一つ大きなため息をついて、また書類整理の作業に戻った。


「…あれ?なんか手紙が混じってる」


「高級そうな便箋ですね。遂にご主人様の悪事が明るみに出てしまうのでしょうか」


「召喚状じゃないと思うんだけどなあ??」


「権力を使って使用人を手籠めにした罪が明るみに出てしまいますね…」


「だから召喚状じゃ…召喚状だ!?!?」


「えええ!?!?」


まさか本当に召喚状だとは思っていなかったらしく、マイラもいる同様に面食らった様子だった。しかしイルが取り出した手紙には、確かにイル・ストックラインを呼びつける文面があった。


「しかも王宮からの召喚だよこれ、僕なんかやったっけ?」


「真面目な話、あまり良い事ではなさそうですよね。幸いにしてこの屋敷…屋敷?に使用人は一人しかいませんし、何かあったら逃げ出してもいいのでは?」


「今更ながら、何故ここは男爵家なのに一般家庭未満の人員しかいないんだろう」


「実態は何というか…親を亡くした姉弟の二人暮らしみたいになってますしね…」


スザック王国は小さいため、その一領地であるストックライン男爵領は下手をすると一つの大きな町ほどの広さしかなかった。その中心部の領主邸からは、日帰りで領地の端まで行けてしまう。

その結果、たった二人でも領地運営は成り立っていた。成り立ってしまっていた。


「とりあえず、荷物をまとめましょうか。駆け落ちしましょう駆け落ち」


「良くない話前提で釈然としない…」


と言いつつ、イルもこの召喚状は、自分に不利益なものに思えていた。おそらく、イルの手元にある何かを王家が欲しがっている。


イル自身と、マイラだ。最低限隠していたつもりだったが、そのどちらかについて…もしくは両方とも情報が漏れてしまった可能性がある。


「呼び出す理由なんて、僕を解剖したいか、マイラが教会に欲しいか、どっちかしかないし…」


「私は教会に行くくらいなら死を選びます」


「僕も解剖は嫌だしなあ…召喚状無視して逃げちゃう?」


「それでも良いと思いますよ。いや~私、スウェムスコル連邦国とか行ってみたかったんですよね」


「楽天的だなあ」


しかしまあ、それも良いかとイルは考える。スウェムスコルは多様な種族がそれぞれ議席を持つ連邦国家で、様々な文化が集まっている。きっと楽しいだろうなと考えると、イルも心が躍った。


「でもまあ、領主が突然失踪したってなると大騒ぎになるだろうし、やっぱり一応王宮には行っといたほうがいいよね…」


「今日は遅いですし、明日の朝に馬車で行きましょうか」


気付けば窓の向こうは、夕焼けで空が茜に染まっていた。イルは仕事を始めたのは昼過ぎ頃だと記憶していたが、日が暮れるまであっという間だった。


「それじゃあそろそろ夕飯にしようか」


「面倒なのでポトフでいいですか?」


「昨日も一昨日もポトフだったから勘弁してほしいな?」


「えー」


不満そうにマイラは厨房へ向かっていった。気分が乗っているときは料亭も斯くやの豪勢な料理が食卓に並ぶのだが、気分が乗らないと毎度のように適当な煮込み料理を作ろうとする。


一人になった執務室で、イルは一人書類仕事を進めた。もしこの国を出ることになった際、後任のストックライン男爵に仕事を残すわけにはいかない。


「ほ~らご主人様~エサですよ~…まだお仕事してるんですか?まったく、そんなに私にお尻で踏んづけてほしいなんて…」


「夕飯はありがとうでも僕の尊厳はそろそろ返してほしい」


「最初からありませんよそんなもの」


辛辣(しんらつ)!!」


マイラが運んできたのはグラタンだった。


「いただきます…あっつ!」


口に運んだグラタンの熱さに、思わずイルはのけぞった。マイラはそれを見て愉快そうに、くすくすと笑っている。


「当たり前じゃないですか、出来立てですよ?お疲れですか?」


「一日中書類と向き合ってたら疲れるよ普通」


マイラは機嫌よく、イルの食事を眺めていた。イルには何が面白いのやらわからなかったが、終始楽しそうだった。


「お風呂も沸かして来ましたので、さっさと入っちゃって下さい。明日は早いので」


「…今日は入ってこないでよ?」


「保証はできかねます」


そういうマイラはどこか自慢げだった。胸を張った瞬間に彼女の濡れ羽色の髪がしゃらと揺れたのが、なんとなくイルの記憶に残っていた。

髪の手触りがいいので、イルは毎晩マイラに撫でられながら寝ています。イルとしては不服ですが、熟睡できるのが殊更に悔しいと思っています。かわいいね。

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