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空想世界のイル  作者: じばくボタン
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序章ーストックラインの浮浪児ー其の2

序章が続いてすみません。反省してます。

アルビノ大好き。かわいい。アルビノ?みたいな真っ白の男の人が、だいぶ先にもう一人出てくる予定です。

動物は生きているが、人のように()を溜め込む器官を備えていない。だから人は溜め込んだ幻を放出し、魔法という力を扱うことができるのに対して、動物は幻を多量に取り込むと、姿形が大きく変わってしまう。


大抵の場合は狂い、体の一部が膨張、変形してしまう。時には原型を留めないほど変形し、元の動物が分からないようなものもいる。


稀に幻が進化を促す選択圧となり、幻を溜め込み、放出するための新たな器官が体内に現れる場合もある。


前者を『魔獣』、後者を『幻獣』と呼ぶ。どちらにしても多くは人間に有害なそれらを、討伐するための組織がある。


『獣狩り』…魔獣や幻獣から作り出した武具で戦うハンターだ。


『探検家』や『開拓者』といった危険な職業は多いが、そういった仕事には必ずと言っていいほど魔獣や幻獣がつきまとう。それ故に獣狩りは、多くの場所で必要とされる。探検にしろ開拓にしろ、獣狩りがいなくては始まらない。


くすんだベージュ髪を乱雑にまとめたこの男も、そんな獣狩りの一人だった。ゼノンというその獣狩りは、上級ライセンスを持った獣狩りで、依頼の為にスザック王国ストックライン領のとある村に向かっている。


古いのかやたらと揺れる馬車の中で、ゼノンは自分の得物を手に取った。それはリボルバーのような、片手で持てるような銃だ。()()の魔獣などは大抵、一撃で体の一部を持っていかれるようなとんでもない攻撃を放ってくる。弾丸やメンテナンスの費用は馬鹿にならないが、近寄らずとも魔獣を攻撃できる頼れる武器だった。


馬車が大きく揺れる。石か何かを踏んだようだ。衝撃で握っていたリボルバーが跳ね、危うく取り落としそうになった。


「おい、こんな揺れが激しいのに、なんでこんなに遅せぇんだよ」


「すみませんねぇ…馬も馬車も年寄りなんですよぉ…」


「あんたもな。はぁ…急ぎだっつーから大慌てで支度したのが馬鹿みたいに思えて来るぜ…」


ギルドも本当に急ぎなら、もっとしっかりした馬車を出してもいいのではなかろうか。乗り心地は仕方ないとしても、それに加えて速度も遅いとなれば不満の一つや二つは当然感じてしまう。


ゼノンは煙管(キセル)を取り出し、煙草を入れる。


「【寝顔を照らす悪魔の舌よ】」


小さな炎が煙草に火をつけ、煙を上げ始める。最近は紙煙草というものが流行っているようだが、ゼノンは好きな量を吸える煙管の方が気に入っていた。


「お客さん、珍しい詠唱ですねぇ…火付けの魔法なんて、普通は【炎よ】とかじゃないですか。そんな長い詠唱も、火力の調節された炎も、見たことありませんよぉ」


「これの方がイメージが纏まるんだよ。俺にとって炎ってのは、寝顔を照らす悪魔の舌だからな」


「…あんまりいい話じゃなさそうなので、聞くのは遠慮しておきますね。」


馬車の揺れる音が響く。がらがらがらという音だけがその場を支配して、時折風の音が通り抜けていく。


今回の仕事は、森の奥の開拓村に現れた、鹿の魔獣の討伐だ。立派な牡鹿だったが、前足が肥大化して二足歩行を始め、角の生えたゴリラのような風貌になっているらしい。


変化から考えると、今回の魔獣は、体の一部分が肥大化した魔獣、怪体だろうと予測できた。前足での攻撃をまともにくらえば一瞬で組織をぶちまけて死ぬことになるだろうが、それさえ注意すれば簡単に御せる相手だ。


この銃があればそこまで恐ろしい相手ではない。これが脳の肥大化した極脳体であれば、人質を取るなどして銃は使えなかっただろう。しかし、怪体ならば遠距離で簡単に相手取ることができる。


「そろそろ到着ですけど…森に異常は見受けられませんでしたねぇ…」


「『待ってる』な、こういう時は」


ゼノンは警戒レベルを一気に引き上げた。待ち伏せをするという事は、それだけの知能があるという事…つまり、怪体と極脳体の特徴を兼ね備えた、複合体の可能性が高いという事だ。


怪体ならば、大暴れして回るはずなので、遭遇しないことはまずありえない。木をなぎ倒したり、咆哮したりするため、そこにいることがすぐに分かるのである。


「ッ!?おいジジイ!!急いで馬を出せ!!!」


「はっ!?はひぃ!?!?」


変な声を上げながらも、御者は馬を走らせた。そして次の瞬間先程まで馬車があったところが轟音を立てて吹き飛んだ。


「くっそが…来やがったな…」


「ジイ…ジジ、ジンゲン」


「やっぱ複合体じゃねえか、急げジジイ!!」


「これ以上は無理ですぅ」


「これだからボロ馬車はよぉ!!!」


ゼノンは照準を合わせて発砲するが、器用に角で弾かれてしまう。両前足が膨れ上がってひょうたんのような形になり、通常の倍ほどの大きさの鹿の顔で人間のようにニタニタと笑うそれは、背筋に冷たいものが走るような悍ましさだった。


ゼノンの撃った銃弾は(ことごと)く弾かれ、何を考えているのやら、向こうはただその場でニタニタと笑うばかりである。


「ぎゃああああああああああああああ!!!」


後方から御者の悲鳴が聞こえた。いや、悲鳴ではなく、それは断末魔だ。とっさに振り向いたゼノンの下から、突き上げるようにピンク色の触手が飛び出した。


「どうなってやがる!!!」


そして飛び出した触手を躱したゼノンだったが、触手が弾け飛び、その残骸に体中を貫かれる。まるで散弾だった。


悲鳴を上げる間もなく、ゼノンは倒れた。喉笛を貫かれたため、間もなく死に至るだろう。気付けばにたにた顔の魔獣が、ゼノンの顔を覗き込んでいた。


「おっちゃん困ってる?あんまり獣狩りの仕事横取りするのは良くないらしいけど、これはノーカンだよね?」


場違いな声があたりに響いた。


一拍遅れて、眼前の鹿が視界から消失した。


「大丈夫?生きてる?ギリギリ生きてるね。よし、起きていいよ」


何を無茶なことを、と思うが、気付けば体の痛みは消えていた。体を起こそうとすれば、簡単に起き上がることができた。


正面には、髪も肌も、石膏のように白い少年が立っていた。唯一金色の光を放つ瞳は、彼が魔法使いであることを示している。そして、その手には二本の、場違いな木製の棍棒が握られていた。


「これ気になる?さっきの鹿だよ」


投げ渡された棍棒は、モーニングスターに近い形をしている。


ふと正面を見ると、そこには誰もいなかった。棍棒と御者の死体と、馬車の残骸だけがそこには残っている。


「一体なんなんだよ…」


彼が双棍棒のゼノンとして、名を上げることになるのはいくらか先の話である。

一番の被害者は、御者。死んでるし。

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