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エリーアスへの頼み事

またまた時間が空いてすみません。

よろしくお願いします。

「……本当にすごく今更なんですが、私、ここに来ていいんでしょうか?」

「は? 本当に今更だな。お前はエリーアスの義妹で、俺の元妻だ。身元の保証はできているんだから問題はないんだよ。それに立ち入り禁止の場所まで行くわけじゃない」

「ですが……」


 お城に着いたのはいいけれど、ここはクリストフ様がよくお兄様に会う場所だそうで、多くの人が行き交っている。もちろん、身なりがいいところから見て、ほとんどの方が貴族だろう。そんな中に町娘のような身なりの私。場違いにもほどがある。


 しばらくしてお兄様がやってきた。帰る時間にはまだ早いと思っていたら、どうやら身元の確認をしてくれた方がお兄様に伝えてくれたらしい。それでお兄様は早めに切り上げてきてくれたそうだ。


「それで、お前たちが何故二人で私に会いに来たんだ? 特にロスヴィータ。家で会えるんだから待っていればいいだろうに」


 会いに来たことを怒るというよりは不思議に思っているらしい。お兄様は首を傾げている。


「いえ、それが……」


 答えようと思ったけれど、言葉に詰まってしまった。一言では説明できないのだ。短い言葉で言おうとすると誤解を与えてしまう。気持ちばかり焦って結局言葉にならずに口を閉じてしまった。


 見かねたらしいクリストフ様が助けてくれた。


「ここは人通りが多くて込み入った話がしにくいです。もし時間があるのなら、うちへいらしていただけませんか?」

「ああ、わかった」


 こうして話がまとまった私たちは、お兄様の馬車で一緒にクリストフ様の家へ向かった。


 ◇


 クリストフ様の家は、私が住んでいた頃と変わっていなかった。自分の家じゃないのに、帰ってきたという不思議な安心感に包まれてほっとする。そんなことは厚かましくてクリストフ様には言えないけれど。


 三人で机を囲むと、お兄様が口を開いた。


「それでどうしたんだ?」


 時間をもらえたおかげで、頭の整理はついた。だからどう話せばいいのかはわかっている。わかっているけれど、気持ちは別だった。


「……お母様に、帰ってこないでと、言われてしまって……」


 あの時のお母様の冷たい表情、言葉が蘇って、涙がこぼれそうになる。それを堪えようとして声が震えた。ぐっと机の下で拳を握りしめると、ゴツゴツとした手がその拳の上に被さった。隣を見ると心配そうなクリストフ様と視線がぶつかる。


 ──そうだ。私は孤独じゃない。こうして心配してくれている人がいる。


 クリストフ様に笑いかけると、私は続けた。


「屋敷には帰れないので、私の部屋からレナーテ様の遺品を持ってきてもらえないでしょうか?」


 お兄様は険しい表情で少しの間沈黙した後首を左右に振った。


「いや、私が母上を説得するから帰ってくれば……」

「それはやめた方がいいと思います」


 お兄様の言葉をクリストフ様が強い口調で遮った。その勢いに驚いたけれど、お兄様も同様だったようだ。


「な、どうしてだ?」

「……俺もいたんですよ。ロスヴィータが男爵夫人と話している場に。かなり酷い言葉を浴びせられて、暴力まで振るわれそうになっていたので、例え夫人が表面上エリーアス様の言う通りにしたとしても、あなたがいないところでどうするのか……」

「そうなのか、ロスヴィータ?」


 お兄様はクリストフ様の言葉を信じられないようで、私とクリストフ様を交互に見比べている。それも仕方ないと思う。これまでお母様は、私を過保護に守ってきたのだ、世間から。本当は私を見張るためだったのだけど──。そんなことを言えない私は、深く頷く。


「……そういうわけなので、レナーテ様の遺品をお願いします。手記なのですが、絶対に中身を見ずに私に渡して欲しいんです」


 お兄様が見るときっと傷つくだろう。お母様がレナーテ様を陥れたように受け取れるから。私が取りに行ければいいけれど、私がこっそり屋敷に帰ってしまうと、レナーテ様の遺品を持っていることがお母様に知られて処分されてしまうかもしれない。それはどうしても嫌だった。


「何故私が見てはいけないんだ?」


 お兄様は首を傾げる。言い訳を考えてなかったから、私は言葉に詰まってしまった。どう言えば、どうしよう、とぐるぐる考えていたら、お兄様が息を吐いた。


「……お前は誤魔化すのが下手だったな。何か言えない事情があるんだろう。わかった。お前の言う通りにするよ……だが、いつか聞かせてくれるか?」

「……」


 頷くことができず、私は困ったように微笑むことしかできなかった。知らない方が幸せなことも確かにあるのだから──。


 お兄様はそれ以上私に言及せずに屋敷に帰って行った。

読んでいただき、ありがとうございました。

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