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上塗りしていく罪(マルガレーテ視点)

またまた間が空いてすみません。

今回は男爵夫人視点です。

よろしくお願いします。

 ──これでしばらくは大丈夫。


 ロスヴィータの心はこれで折れたはず。ロスヴィータに私なりの真実を告げた。だけどそれは私にとっての真実でしかない。実際にあった出来事自体に変わりはなくても、当事者同士でその見方は変わる。又聞きすると尚更だ。言葉を付け加えたり、言い換えるだけでも印象なんて簡単に変わってしまう。


 ここまでくると、ロスヴィータに話さないという選択肢は残されていなかった。それならばいかにロスヴィータから意思を奪うように仕向けるかが大事だった──全てはこの家を、家族を、そして私自身を守るために。


 レナーテが亡くなったときに私は考えた。ロスヴィータを引き取らなかった場合と引き取った場合、両方の利点と欠点を。


 引き取らなかった場合の利点としては、時間的、金銭的に費用が浮く。人一人を育てるというのは時間もお金もかかるもの。特に貴族として教育も施すなら尚更だ。薄情かもしれないが、あの子の父親のことを考えると、その費用も無駄に思えてしまった。


 そして、欠点だが……。天涯孤独のあの子はきっと孤児院に入るだろう。そして今と同じように自分の生い立ちに疑問を持つかもしれない。そうして自分が貴族の血筋だったことを知ってしまえばどうなるだろう。孤児院での不自由な暮らしに身をやつさなければならない原因が、私にあるのだと逆恨みしたとしたら?

 あの子は()()()()()()()()()()、私を殺しにくるかもしれない。


 そう。レナーテは私を庇って、ロスヴィータの父親に刺されたとロスヴィータには話したが、正確には少し違う。あの男が襲い掛かる前にはもう、あの子は懐からナイフを出していた。きっと憎んでいた私を葬り去りたかったのだろう。そしてあの子は「お姉様、ごめんなさい」と言ったのだ。だが、そのナイフが私に振り下ろされることはなかった。レナーテは私を庇い男に刺され、レナーテは持っていたナイフで男を刺してしまった。


 逆恨みだけでなく、母親の復讐という大義名分で、この家に危害を加えかねない。更に、あの子自身に貴族の血が流れていることで、敵対する誰かがあの子を利用するために唆すかもしれない。


 杞憂ならいい。だが、私たちはいつ足元を掬われないかわからないのだ。そのために最悪を常に想定しておかなければ。


 じゃあ、引き取った場合の欠点はどうなのか。それはやはり引き取らなかった場合の利点がそのまま欠点になるだろう。


 そして、利点は?

 あの子を引き取った後に冷遇しなければ、亡き遠縁の娘を引き取ったと美談になり、ロスヴィータはこの家に牙を剥くことはない。それに、ロスヴィータを監視できるし、何より──ロスヴィータを私の理想通りに育て上げることができるのだ。


 この利点は何よりも強い。


 私とレナーテは確かに仲が良かった。私はレナーテが好きだった。甘ったれだけど、素直ないい子。そんなレナーテは、私に来るはずだった縁談が回ってきて変わった。あの子は自分に縁談が来たにもかかわらず、『二人で彼を支えればいい』と、私を利用しようとしたのだ。


 淑女教育をまともに受けていないのに、さらに子爵夫人としての教育まで受けなければいけない。それが大変なのはわかる。私だってそれを乗り越えてきたのだから。だからといって、私にそれを押し付けようとするなんて。そもそも長年私はあの家に嫁ぐためにと努力してきた。それを掻っ攫ったのはあの子。だったら努力するのは当然でしょう。そんな思いが私の怒りを募らせた。


 だが、あの子の父親が亡くなったことで、あの子は平民になり、路頭に迷いそうになった。平民寄りの貴族だとしても貴族は貴族。あの子は平民の生活を知らなかったのだ。働いたことのない令嬢に何ができるのか。私は途方に暮れるあの子を私の侍女として側に置くことにした。それを感謝したのか、あの子はまた元のあの子に戻ったように見えた。だからこそ、私は結婚する時にもあの子を連れてきた。


 だけど、それは失敗だったのかもしれない。私に子どもができると、レナーテは献身的に私の子どもたちを可愛がってくれた。それこそ、乳母か母親のように──。


 この時、私の中で燻っていた怒りやあの子に対する疑念が再燃した。あの子はまた『二人で彼を、引いてはこの家を支えましょう』と言い出すのではないか、最終的にはあの時のように、あの子が選ばれて私の居場所が奪われるのではないか、と。


 そんな時に、とある夫人が私を陥れようとしている情報を掴んだ。彼女がベタ惚れしている夫が私と浮気をしているとかいう根も葉もない噂を間に受けて、男好きな私を男に襲わせるという馬鹿馬鹿しい計画だった。


 だけどその話を聞いたときに、つい魔が差した。

 ──私の容姿を知らないのなら、それを利用してしまえ。


 私はレナーテに思い知らせたかったのかもしれない。自分たちの立ち位置の違いを。あなたがその気ならこっちにも考えがあると。


 それに、私が男を唆したわけじゃない。私は何も言っていない。ただ、レナーテと私を勘違いするかもしれないような視線を向けただけだ。故意じゃなかったと言えば通用するくらいの何気ない仕草に、どんな罪を問えるというのだろう。


 あわよくばという気持ちはあった。だが、それも言わなければわからないこと。未必の故意の立証は難しいものだ。


 それがこんな結果を生むとわかっていたらやらなかったのに。罪を隠すために更に罪を重ね、自分を正当化するためにロスヴィータを利用する。


 あの子が私に歯向かう気を無くすように、自分が満たされていると錯覚するように、何より私の従順な人形であるように。


 ロスヴィータが私の人形でいる間は愛してあげる。ロスヴィータは私の罪の象徴であり、この世界で唯一私と罪を分かち合える存在だから──。

読んでいただきありがとうございました。

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