久しぶりのお母様
またまた間が空いてすみません。
よろしくお願いします。
──今日、お母様が帰ってくる。
数日前にお兄様からそう聞いていた。
あんなに大好きだったお母様と会えるはずなのに、私の心は複雑だった。会ったら何から話せばいいのか、どんな顔をすればいいのか、そんなことばかりが先行してしまう。それに、これでもう後戻りはできない。そんな予感があった──。
◇
お母様が到着したのは昼過ぎだった。お兄様は仕事へ行き、私はお母様を出迎えるために今日は孤児院へ行くのを休んだ。そもそもお母様は私が外出することをよしとしなかったので、お母様が帰ってくる日はいた方がいいとお兄様と話し合ったのだ。
「お帰りなさいませ、奥様」
「ええ。私の留守中、変わったことはなかったかしら?」
玄関ホールで鷹揚に頷いたお母様は、そんなことを言いながら出迎えた私を見ていた。笑みを浮かべてはいるものの、その視線は冷たい。問いながらも全てわかっていると言いたいのだろう。
それに、以前なら気づかなかったけれど、今はお母様の笑顔が心からのものではないことがよくわかる。これまで一緒にいた時も、よくこんな表情をしていた。特に、私に「あなたのためよ」と言っていた時だったような……。
「まあ、報告は後で聞くことにして、疲れたから少し休むことにするわ……ロスヴィータ。あなたとの話もまた後でね」
「あ、おかあ……」
考えに耽っていて反応が遅れた。私が声を掛ける間もなく、お母様はさっさと踵を返して自室へと向かってしまう。
お母様の後ろ姿を見ながら首を捻ってしまった。お母様は私をあれほど外に出したくないと思って扉に鍵も掛けていたはず。なのに、玄関で迎えた私に何も言わず、興味もなさそうに去って行った。私のお母様を見る目が変わったのか、領地でお母様に心境の変化があったのか──。
「きっと大丈夫……」
これがいいことなのかわからない私は、小さく自分に言い聞かせた。
◇
「エリーアス、留守を守ってくれてありがとう」
「いえ、それはいいのですが、その……」
夕食時。お母様はにこやかにお兄様に話しかけていた。だけどお兄様はどこか戸惑う様子で私に視線を投げかけてくる。それもそのはずだ。お母様は私を食事に同席させたものの、私に構うことがない。お兄様としても私を閉じ込めるようなことまでしたお母様の態度の変化がわからないのだろう。私はお兄様に小さく左右に首を振った。私にもわからないのだから仕方がない。
お兄様は少し考える素振りを見せた後、続けた。
「母上。私にはあなたがわかりません。ロスヴィータを閉じ込めたかと思えば、こうして自由にさせて。それにどうしてあいつをクリストフに嫁がせたのか、平民にするために淑女教育を施さなかったのなら、何故平民に必要な知識をつけさせなかったのか。しかもその理由がロスヴィータのため、だ。だが、実際それらがロスヴィータのためになっているかといえば、そうじゃない。しかも家のためにもなっていない。全てがチグハグなんです。あなたは一体何がしたいんですか?」
「……さあ? どうでしょうね」
「はぐらかさないでください。あなたが目的もなくそんなことをするはずがない」
ここでお母様は眉を顰めた。
「……エリーアス。あなたに私は一体どういう風に見えているのかしら。仮にも母親相手に腹黒いとでも言うつもり?」
「いえ。私はただあなたは良くも悪くも貴族らしい方だと」
「だからそれが褒めていないと……」
「あのっ!」
話についていけなくなった私は思わず口を挟んでしまった。二人は話をやめて私を見るけれど、私はその後何を話すか考えていなかった。いえ、あの、その、と私が口籠ると、お母様は再びにっこりと笑う。
「わかっているわ、ロスヴィータ。あなたとはまた後で話しましょうと言ったものね。だけど……そうね。しばらく離れていた間の話もしたいし、また明日ゆっくり話しましょう?」
そう言われてはたと気づいた。明日も孤児院へ行くつもりだったのだ。この時の私の顔を見てお母様は目を細めた。
「どうせあなたも屋敷の中で暇を持て余していたのでしょう?」
つい助けを求めるようにお兄様を見ると、お兄様は疲れたように首を左右に振った。きっとお母様に逆らうなということなのだろう。明日は外出させてもらえないとわかり、私は力無くお母様に「わかりました」と答えるしかなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。




