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笑っていて欲しいから

またまた間が空いてすみません。次はそこまで開けないように……したいです。


よろしくお願いします。

 予想もしていなかったのだろう。クリストフ様は目を丸くしながら口を開いた。


「……それがお前の悩みに関係あるのか? どうしてお前がそんなことを聞くのか、俺はまずそれが知りたい」


 これには私が面食らってしまった。質問に質問で返されて、今度は私が答える番らしい。思わず恨みがましくクリストフ様を見てしまう。


「そんなのずるいです」

「ずるくない。俺はお前が教えてくれればちゃんと答えるつもりだ。だから教えてくれ。何故、そんなことを聞くんだ?」

「……それは……クリストフ様を幸せにしたいからです」

「それは答えになっていない。じゃあ質問を変える。何故、俺を幸せにしたいんだ?」

「それは……」


 クリストフ様はやっぱりずるい。私に逃げ道を与えないつもりだ。だけど、本当のことなんて言えない。私がいることで失われてしまったかもしれないクリストフ様の幸せの償いだけでなく、奪ってしまった私がクリストフ様を好きだなんてどの口が言えるのか。軽蔑されるだけだ。


「……言いたくありません」

「ならこの話は終わりだ。俺も答えない」


 クリストフ様はふいっと顔を背ける。その態度に苛ついた私は声を荒げた。


「……っ、私の気持ちなんてどうでもいいんです! クリストフ様が幸せになれればそれでっ……!」

「勘違いするな。俺の幸せは俺が見つけ、掴み取るものだ。お前に与えてもらうものじゃない」

「え……?」


 押し殺したような声が聞こえて、私は冷水を浴びせられたように背筋が冷たくなった。感じるのは明確な拒絶──。


「お前だってそうだっただろう? 男爵夫人に与えられるだけで、自分の意志なんて必要ないと言われていたんだ。そこから抜け出したお前がそれを言うのか?」


 思わず息をのんだ。自分が嫌だと思っていたことを、クリストフ様にもしてしまった。だけど、それなら私はどうすればいい? 心の中がぐちゃぐちゃで、整理がつかない。


「だって、私にはそれしかないから……。それもできなければ私がいる意味って……」

「おい? どうした? 何を……」


 クリストフ様の困惑する声が遠くに聞こえる。否定されたことで私の中で張り詰めていた糸がプツリと切れた。目の前が白んだ後、一気に暗くなったのだった。


 ◇


「……ん」

「気がついたか?」


 ゆっくりと目を開くと、上からクリストフ様が覗き込んでいた。何度か瞬きすると少しずつ思考が戻ってきた。確か私は孤児院の前でクリストフ様と話していたはず。だけど、今はベッドに横たわっているようだし、見慣れた自室の天井が視界に広がっている。


「あれ……私、どうして」

「話している途中で倒れたんだよ。それで屋敷まで送ってきたんだ」


 身を起こそうとする私を支えてくれながら、クリストフ様はそう言った後、申し訳なさそうに続けた。


「悪かったな。お前がそこまで追い込まれてるってわからなくてきついことを言った」

「いえ、私こそ申し訳ありません。自分がされて嫌だったことをクリストフ様にもしてしまったんだと思うと……」

「それにも何か理由があるんだろう? お前はわざとやっている感じではなかった」

「ふふ……クリストフ様は本当に優しいですね。だから……」


 私はクリストフ様を好きになった。休んだからか、今は落ち着いている。いろんな気持ちや状況に覆い隠されて見えなかった気持ちが明白になっているのだろう。それだけを考えていると胸の中が温かいもので満たされた。これがずっと続けばいいのに──。


「……どうした?」

「え、何がですか?」


 何故かクリストフ様がためらいがちに私へ手を伸ばしたかと思うと、私の両頬を挟み込んだ。


「いや、何か、消えそうというか……やっぱり何でもない」

「よくわかりません」

「俺もよくわからない」


 その答えに私は吹き出してしまった。そうするとクリストフ様も釣られて笑う。さっきまでの嫌な空気はどこかに行ってしまった。


 そこで私の頭に閃くものがあった。


「あ」

「何だ?」

「いえ、クリストフ様を幸せにしたい理由なんですが、すごく簡単なことだったんです。お兄様も、お母様にも言えることなんですが、大切な人たちには笑っていて欲しいから。ただそれだけなんです。私がしなければならないではなく、私がしたいから、でした。そうですね……幸せになるためのお手伝いができれば、それが私は嬉しいんです」


 そうだった。幸せを感じるかはその人次第かもしれない。だけど、幸せになるためのお手伝い、それだったらこんな私でもできるかもしれないと今気づいた。


 自分の存在意義とか、資格がないとか、そんなことを考え過ぎて、見えなくなっていた。意識を失う前に切れたように感じたものは、私のがんじがらめになった思いだったのかもしれない。


 何だか嬉しくなって目の前のクリストフ様に笑いかけると、クリストフ様の顔が真っ赤に染まった。


「どうしたんですか?」

「お、お前が大切な人、とか言うから……!」


 それのどこに赤くなるところがあったのかわからず、私は首を傾げてしまう。


「何かおかしなことを言いましたか? お兄様もお母様もクリストフ様も大切な人ですよ? それに、孤児院のみんなも……」


 今の私を支えてくれる大切な人たち。その中でもクリストフ様は特別な存在ではあるけれど……。それを言ったら今の関係が壊れてしまいそうで私は言えなかった。そのかわりにどれだけ大切なのかを、この後じっくりクリストフ様に伝えて、しつこいと怒られるのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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