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「話さない」のは

またまた間が空いてすみません。

よろしくお願いします。

 気が張っていたせいか、終わった後はどっと疲れた。だけどそれもあって、今日はコリンナさんにそれほど怒られなかったような気がする。よかったのか、悪かったのか。

 ちらりとコリンナさんを見ると、目が合ったけれどすぐにそらされてしまった。


 ──ズキッ。


 いつもより心が弱っているからだろう。ちょっとしたことでも胸が痛む。被害妄想かもしれないけれど、自分が周囲の人たちから嫌われているような気がして──。ぐっと歯を食い縛ると、目をそらしたままのコリンナさんが小さな声で言った。


「……顔色が悪いわよ。さっさと帰って休んだら?」


 予想外の言葉にまじまじとコリンナさんを見てしまった。と、気づいたコリンナさんは慌てて言い募る。


「べ、別にあなたの心配をしてるわけじゃなくて……! 倒れでもしたら、子どもたちだって心配するし、迷惑だし……!」


 途端に膨らんだ明るい気持ちは萎んでしまった。


「……そう、ですね。迷惑をかけて申し訳ありません……」

「……わかれば、いいのよ」


 そして気まずい空気が流れるかと思った、その時──。


「コリンナ、あなたは素直じゃないわね。子どもたちだって心配するってことは、あなたも心配してるってことでしょうに。ロスヴィータさん、気にしなくても大丈夫ですよ」


 フェーベ様が苦笑しながらこちらへやってきた。コリンナさんを再び見遣ると、顔が真っ赤になっている。首を傾げると、フェーベ様に首を左右に振られた。


「それじゃあロスヴィータさん、参りましょうか。院長室でお話をうかがいますから」

「え、あ、はい」

「……いいから早く行って!」


 相変わらず真っ赤な顔のコリンナさんに、フェーベ様共々背中を押され、私たちは院長室へ向かったのだった。


 ◇


「コリンナの言う通り、顔色が悪いですね。お話は今度の方がよろしいですか?」


 院長室のソファに向かい合わせに座ると、フェーベ様は私の顔を見ながら気遣わしげにそう言ってくれた。眠れなかったせいで頭はうまく働かない。話して楽になりたいのに、胸に言葉がつかえてどう話せばいいのか……。それでも私は緩慢に左右に首を振った。


「いえ……。ですが……」


 どうしよう。うまく言葉が出てこない私を急かすことなく、フェーベ様はじっと待ってくれている。


 頭に浮かぶのは、自分が望まれて生まれてきたわけではなかったこと、そうなるように仕向けたのはお母様らしいこと、そして、レナーテ様が乱暴された挙句に私が生まれたこと──。


「……あの、聞いてもいいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」


 話すと言いながら唐突に質問をした私に、フェーベ様は一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたけれど、すぐに私を安心させるように微笑を浮かべた。


「あの、子どもがどうすれば生まれるか、それを教えてもらえないでしょうか?」


 そう。私はそれを知らなかった。だからレナーテ様がどうして私を否定するのかがわからないのだ。記憶もない産みの母なのに、血が繋がっているとわかった途端、知りたくなるなんて調子がいいと思う。これまでお母様をずっと本当のお母様だと信じて疑わなかった癖に。


「……それは、あなたにとって必要なことなのですか?」

「はい」


 不思議そうなフェーベ様に、私ははっきりと頷いた。


 しばらく見つめ合った後、フェーベ様は「わかりました」と言い、続けて詳しく教えてくれた。


 話を聞くにつれて、私は血の気が引いていった。というのも、フェーベ様は、閨事についてだけではなく、私が知りたかった性暴力や、娼婦、娼館についてもきちんと説明してくれたからだ。


 知ったからこそ、レナーテ様の絶望がわかる。いえ、わかるなんて言ってはいけない。その痛みは当事者にしかわかり得ないのだから。それに、その痛みは私を見るたびに続いたのだろうし……。


「……ですから、女性の一人歩きは危険だということです。わかっていただけたでしょうか?」


 フェーベ様はそう締めくくった。


「はい、よくわかりました。教えていただき、ありがとうございます」


 聞き終わった後、恐怖なのか、何なのかわからないけれど、手が震えていた。それを止めようとフェーベ様に頭を下げながらも、スカートの上で手を強く握りしめる。食い込んだ爪が痛いほどに──。


「……知りたかったことがわかったので、もう大丈夫です。お時間を割いていただき、ありがとうございました」


 私がそう言って頭を上げると、フェーベ様は心配そうに眉を寄せた。


「いえ、ですが……もういいのですか?」


 フェーベ様の言うことももっともだ。私は結局肝心なことを話していない。だけど、フェーベ様に話を聞いて、話さないことに決めた。


 レナーテ様の苦しみを、私が、自分が楽になりたいからと話していいとは思えなくなったから。


 他にも自分ではうまく説明できない感情が渦巻いていたけれど、それでいい。


「はい、もう大丈夫です」


 後は、お母様ときちんと話そう。そうすればきっとその説明できない感情の正体がわかるような気がした。

読んでいただき、ありがとうございました。

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