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レナーテの手記

ここから鬱展開になります。

気分のいい話ではないので、無理だと思ったらブラバでお願いします。

あと、今回はちょっと長めです。

 ──これを書くのは、気持ちの整理をつけたかったのと、自分の口からは到底言えないことをこうして文字に起こして読んでもらうことで誰かに知って欲しかったから。矛盾していると思う。話せないのに、書き残すなんて。それでも書かずにはいられなかった。そうでなければこの世界の全てを憎んでしまいそうだった。


 私はお姉様、いえ、マルガレーテ様が大好きで──大嫌いだった。お父様と一緒にお姉様の屋敷を訪ねるたびに、惨めな気持ちになったものだ。


 名ばかり貴族で貧乏な私の家とは違って、お姉様の家は領地もあるれっきとした貴族。初めて対面したとき、私は色褪せて擦り切れたドレスを纏っていた。そんな私にお姉様は自分のドレスを下げ渡してくれた。初めて綺麗なドレスを着ることができて、私もお姉様と同じ世界に行けたようで嬉しかったことを覚えている。だけどそれも最初だけだった。


『これもあげるわ』

 そう言ってお姉様がくれるものは全てお下がり。お姉様が必要無くなったからと、私に押し付けていると思うようになった。単なる僻みだとわかっている。卑屈な私は笑って『ありがとうございます』と受け取ることしかできなかった。お父様の借金もあって、お姉様の機嫌を損ねるわけにはいかなかったから。


 綺麗で優しくて頭のいい憧れの素敵なお姉様。距離が近づけば近づくほどに、憧れは嫉妬へと変わっていった。どうあがいてもお姉様に勝てるものなんてなかった。勝てるわけがないと諦めてもいた。それなのに。


 年頃になって、お姉様の婚約話が持ち上がった。お相手の彼はお姉様とは領地が隣り合わせの幼なじみの子爵令息だった。だけど、その彼はお姉様ではなく私と婚約したいと言い出したのだ。私と彼とはお姉様を通して何度か会話を交わしただけ。それなのに私を選んだのはお姉様が()()すぎたから。共に家柄を守る相手としては最高でも、生涯を共にするのは息が詰まる、というのが彼の言い分だった。つまり私は完璧ではないから選ばれたのだ。表面的にはお姉様に勝ったように見えても、実質的には敵わなかった。


 あの時、お姉様はいつものように完璧な淑女の笑みを貼り付けて、『おめでとう』と言ったのだ。私にはそこに何の含みもないように見えた。


 本当はその婚約話を断りたかった。お姉様に複雑な感情を持っていたけれど、お姉様の不幸を望んでいたわけじゃない。それに、貧しくて教育を満足に受けられなかった私では、子爵夫人なんて務まるわけがないだろう。


 だけど相手は子爵、こちらは名ばかり貴族の準男爵。下位の者が上位の者の要求を撥ねつけるわけにはいかなかった。そのため、私はお父様に言われるままに子爵家で教育を受けることになった。


 子爵家では針の筵だった。子爵夫人はお姉様が嫁いでくるのを楽しみにしていて、お姉様に熱心に教育を施していたそうだ。それを台無しにした私に怒りが収まらないようだった。お姉様と比べられては厳しく叱責される。更には『頭が軽くて股が緩いあなたをまともにするのがわたくしの責任です』と、打たれることもあった。


 私はそもそも不貞なんて働いていないのに。彼が私を選んだのは、私が利用するのに打ってつけだったというだけだ。それは子爵家での待遇でもわかるだろう。彼は私を選んだけれど、一度として私が夫人と過ごしているときに様子を見に来たことなんてなかった。


 きっと罰が当たったのだ。妹のように可愛がってくれたお姉様より優位に立ちたいとか、妬みや嫉みの感情を持ってしまったから。


 そして、そんな毎日に疲弊していた頃にお父様が亡くなり、私は準男爵の娘から平民になった。お父様が亡くなったことは本当に悲しかった。だけど、これで婚約の話を白紙に戻せるとほっとしたのも本当だ。そんな自分が醜くて、お姉様の顔を真っ直ぐに見られなかった。


 予想通り、子爵家へ嫁ぐ話は無くなった。だけど、これまでお父様のおかげで生活できていた私が、いきなり平民として一人で生きていくのは難しかった。私は貴族としても平民としても中途半端な存在。途方に暮れていたところを、またまたお姉様に救われた。


 お姉様はその時にはもうフリューア男爵家に嫁ぐことが決まっていた。そんなお姉様が、輿入れに際して私を侍女として連れていくと言ってくれたのだ。本当に嬉しかった。


 だから私は、今度こそお姉様に恩返しをしようと決めた。お姉様の厚意を嫉妬の目で曇らせないように、精一杯働こうと。


 お姉様が嫁いで、エリーアスやアレクシアが生まれ、二人の成長を見るのが楽しみになった。遠縁とはいえ、私はあくまでも平民でお姉様の侍女でしかない。それでも二人を甥や姪のように勝手に思っていた。


 お姉様の家族を見ていたら、私も家族というものに憧れるようになり、結婚を意識するようになった。天涯孤独で寂しかったこともあると思う。そして知り合ったのがオスカーだった。彼は平民で騎士として身を立てながら、亡くなった奥様の代わりに男手一つで息子を育てていた。息子のクリストフはまだ幼かったせいか、私にすぐに懐いてくれた。他の繋がりなんてなくても本当の家族になれると、そう思っていた。


 だけど、そうはならなかった。私はフリューア男爵家に恨みを持つ男爵家の男に、()()()()()()()()()襲われた。そしてその結果身籠ってしまった。相手は貴族で、私は平民。結局泣き寝入りをするしかなかった。


 どうして。これから幸せになれるはずだったのに。


 オスカーには言えなかった。ただ、『もう別れたい』とだけ伝えた。その言葉を言うだけでも、身を切られるほど辛かった。


 日に日に膨らんでいくお腹が、変化していく体調が、気持ち悪くて仕方なかった。この子さえいなければ。何度そう考えたかわからない。みんなに祝福されて生まれたエリーアスやアレクシアとは大違いで、生みの母親にさえ歓迎されない子ども。この子に生まれる意味があるのだろうか。


 望んでなくても十月十日経って、子どもは生まれてしまった。まだよかったのは女の子だったことだ。あの男にそっくりな男の子なんていらない。


 名前を決めたのは、お姉様だった。顔も見たくないと拒否する私を見兼ねたのだろう。子どもはロスヴィータと名付けられた。


 子どもを見るたびに、オスカーやクリストフの顔が過ぎる。この子と引き換えに失った大切な二人。子どもに罪はないと理屈ではわかっている。だけど、感情がついていかなかった。世話を拒否する私の代わりにお姉様が面倒を見てくれた。そんな優しいお姉様に私は心から感謝した。


 だけど、私は知らなかったのだ。お姉様のせいで私があの男に襲われたなんて。あいつはロスヴィータが生まれてから男爵家を訪ねてきた。お姉様を強請るためだ。お姉様が不貞を働いたと男爵にバラされたくなければ金を出せと、厚顔にも賭博で作った借金分をお姉様に請求してきたのだ。いえ、実際は男爵夫人だと思い込んでいた私に。


 私が平民で別人だとわかるや否や、あいつは怒りながら全てを暴露した。あの日、私はお姉様に言われて、お姉様からもらったドレスを着ていて外見の色味もそっくりでわからなかったから、あいつはお姉様に『あなたは男爵夫人か』と尋ねたそうだ。お姉様はその問いに答えず、私に視線を向けた。それであいつは私が男爵夫人だと思い込んだ。


 お姉様は何もしていない。ただ、私を見ただけだ。そしてその結果私はお姉様と間違われて襲われた。


 わかっていてもすごく苦しくて、お姉様を憎みそうになった。お姉様は私を嫌いだったんだろうか。結局私は答えを聞くのが怖くて、今まで通りにお姉様と接することしかできない。


 私は一体どこで間違えたのだろうか。分不相応にお姉様と親しくしたのが悪かったのか──。

読んでいただき、ありがとうございました。

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