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後回しにしていた問題を

よろしくお願いします。

 その後、コリンナさんは一人で戻ってきた。その目は赤くて、真っ直ぐに見られず私は目を伏せるしかなかった。


 カルラさんは、私が失敗した野菜の皮を手早く調理する。それに気づいたコリンナさんははっとした表情を浮かべると、顔を歪めて目を逸らした。今どういう気持ちでいるのかはわからないけれど、尋ねるのはやめた。クリストフ様とのことを覗き見してしまった後ろめたさだけではなく、コリンナさんに同じ人を好きになった親近感を勝手に感じてしまったから。


 コリンナさんはぶっきらぼうに言った。


「……謝らないから」


 ……謝るのは覗き見していた私の方では?

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。カルラさんが苦笑した。


「意地悪をしたことについてだろうよ。本当に素直じゃないんだから。顔に悪いことをしたって書いてるよ」


 コリンナさんはカルラさんを睨みつけたかと思うと、ぷいっと顔を背けた。思わずカルラさんとコリンナさんを交互に見比べてしまう。


「まあ、ロスヴィータさんがそんなに気にすることはないよ。はいはい、それじゃあ仕事も詰まってるんだから、これでその話は終わりだよ。二人とも手を動かして」

「はい」

「……わかった」


 それからはまた忙しくて、私語をする暇はなかった。そしてモヤモヤする思いを引きずったまま屋敷へ帰ったのだった。


 気づいた思いをお兄様に相談しようかと悩んだ。だけど、うまく説明できそうになかった。クリストフ様に会いたいのに会いたくない、好きなのにコリンナさんを抱きしめていた姿を見て裏切られたような、嫌いになりそうな気持ちになったこと。たくさんの思いが次から次に溢れてきて、それを受け止めるだけで精一杯だった。


 ──お母様はこんな気持ちになったことがあるのかしら。


 同じ女性だからかもしれない。疑心暗鬼になってお母様から離れたのに、またお母様が恋しくなる。だからだろう。私は領地にいるお母様に、手紙でクリストフ様への思いを打ち明けることにした。


 お母様は相変わらず、私がお母様の言う通りにすることを望んでいる。領地から送られてくる手紙は、『あなたは難しいことを考えなくていい、知らなくていい、何もできなくていい』といった内容だ。毎回同じような内容で、お母様の真意が見えない。


 私を守るためだと言っていたけれど、何もできなかったり、無知の方が困るのだ。あらかじめ危険なことを知らなければ私は知らずに危ない方へ行くだろうし、何もできないと働けなくてお金が稼げず食べていけない。


 そういったことも併せて書いて、私が以前の私じゃないことをわかってもらいたかった。ただそれだけだった──。


 ◇


 それから二週間近く経った。コリンナさんとの関係は少し変わった。私が自分の気持ちを自覚したからだ。コリンナさんには『クリストフは渡さない』と言われたので、『私はクリストフ様に好きになってもらえるように頑張るだけです』と答えて、恋敵に認定されたようだ。


 仕事は教えてもらえるけれど、クリストフ様との思い出話を自慢されるようになった。私の知らないクリストフ様のことを教えてもらえるのは嬉しい反面、なんだか悔しい。なので、ついつい私もクリストフ様との結婚生活を自慢し返して喧嘩になる。言われっぱなしだった頃とは違って、最近は言い返せるので気持ちはスッキリしているのだけれど。


 失敗するのも、怒られるのも相変わらずだ。孤児院へ通い始めてまだ三週間程度。それを繰り返しながら成長するのだと言ってくれたのはお兄様。私はそれを信じて焦らないことにした。気持ちの余裕のなさも失敗する原因だそうだから。


 そうすると気持ちの余裕が生まれて、私は後回しにしていた自分の両親について改めて考えるようになった。お母様に手紙を書いたことで、余計に知りたいという思いは募った。


 私の父親は誰なのか。生みの母が亡くなった後に何故私は父親に引き取られなかったのか。お母様が引き取ったのは何故なのか──。


 クリストフ様に町で危険な場所については教えてもらったし、孤児院へ通うようになって少しは町にも慣れたつもりだ。それに、お母様がいつ領地から戻ってくるかわからない。その前にと、私はあのとき私を『レナーテ様』と呼んだ女性に会いに行くことにした。


 ◇


「……護衛がついているとはいえ、本当に一人で大丈夫か?」


 出勤するために玄関ホールを出ようとしたお兄様が足を止めて振り返る。ちなみにこれで三度目だ。お兄様もお母様のことを言えないくらいに過保護だと思う。


「大丈夫ですよ。以前あの方に会ったあたりのお店へうかがうだけですし」


 この言葉も三度目だ。思わず苦笑してしまった。

 今日は孤児院への訪問はお休みで、レナーテ様を知っている方を探しに行くと、昨夜お兄様にはきちんと話した。渋りながらも最後にはわかってくれたと思ったのに。


「やっぱりクリストフに……」

「駄目です。クリストフ様はお仕事が忙しいんです。もう離縁もしているのだから振り回してはいけませんよ」


 そうなのだ。お兄様は治安だけでなく、その女性に会った後の私の心の心配をしている。聞いた事実を一人で受け止められるのか。だから、クリストフ様に立ち会ってもらって、無事に屋敷へ連れ帰ってもらおうというのがお兄様の考えだった。


 だけど、これは私の問題。忙しいクリストフ様を巻き込んではいけないとお兄様には昨夜から何度も言っているのに。


「だが……」

「はいはい。早く行かないと遅れますよ。気をつけて行ってらっしゃいませ」


 お兄様の背中を押し出すと、私の後ろからメイドたちの「行ってらっしゃいませ」が続く。諦めたお兄様はようやく仕事へ向かってくれた。


 今度は私が出かける番だ。手早く出かける用意を済ませると、護衛と共に乗り合い馬車の乗り場へと歩いて向かった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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