明るい先行き
誤字報告ありがとうございました。
またまた間が空いてすみません。
よろしくお願いします。
こうして私はなんとかこちらに来ることを認めてもらった。更に、こちらでお世話になるに際しての教育係はコリンナさんに決まった。
本人はものすごく嫌がっていたけれど、フェーベ様が決めたことや、他の方々が萎縮してしまうということで、最終的には受け入れてくれた。
じゃあ、早速仕事に取り掛かるのかと思っていたけれど、私はもっと大切なことを忘れていた。ここで働く人たちと話していて、後ろからスカートを引っ張られたことでようやく思い出した。
「ねえねえ」
振り向くと、私の腰くらいの背丈の女の子が私のスカートを掴んでいた。金髪でくりくりとした青い目の可愛い女の子。
そう、ここは孤児院。つまり子どもたちが中心にいるのだ。同年代の人たちとの交流もなかったのに、それより下ともなるとどうすればいいかわからない。助けを求めるようにフェーベ様を見ると、苦笑された。
「アグネス、こちらへいらっしゃい」
「はーい」
スカートを離した女の子はトコトコとフェーベ様の元へ行ってくれた。その覚束ない足取りは見ていてハラハラする。これまでに遠目に子どもを見ることはあった。だけど間近で見ると、こんなにも小さくて、壊れやすそうで怖い。
フェーベ様はしゃがむと、女の子と視線を合わせて言った。
「この方はロスヴィータさんよ。これからこちらへ来てくださるの。アグネスも、わからないことは教えてあげてね」
「わかった! ねえ、いんちょう先生。この人ってお姫さまなの? 絵本に出てくるお姫さまみたい」
その言葉に驚いた私は即座に否定した。
「ち、違います! ええと、あの、私は……」
私は──何なのだろう。男爵家から来たとは言いたくなかった。肩書きではなく、私自身を見て欲しい。子どもに言うことではないのかもしれないけれど、そんな願いが口をついて出た。
「……私はただのロスヴィータです。これからよろしくお願いします」
女の子は目をパチパチさせるとふんわりとした笑顔を浮かべる。
「うん、よろしくね。ただのロスヴィータさん」
「あ、いえ、ただの、はいらないのですが……」
「どういうこと?」
「ロスヴィータと呼んでください」
「わかった! わたしはアグネス。よろしくね」
「はい。よろしくお願いしますね。アグネスさん」
「アグネスでいいよ。だってロスヴィータさんの方が年上だもん」
「ええと……はい、アグネス」
すると、アグネスは私に右手を伸ばした。この手は一体どういう意味があるのか。じっと見ていると、アグネスは焦れたように地団駄を踏んだ。
「もう! こういうときは握手するの!」
恐る恐る手を伸ばして、アグネスの手を握る。力を入れたら壊れそうなほど小さい。力加減が難しくて強く握らずにいると、アグネスの方から強く握ってきた。その力強さに驚いてフェーベ様を見る。フェーベ様は気づいてくださったようで、頷いた。
「ロスヴィータ様、大丈夫ですよ。力加減などもおいおいわかるようになります。それに私たちだって、こんなときがあったのですよ?」
「そう、ですよね。子どもを間近で見ることがなかったので驚いてしまいました」
思わず照れ笑いで誤魔化したけれど、かけられた言葉に固まってしまった。
「そういえばクリストフとの子どもはいなかったんでしたか」
「ちょっ、駄目よ!」
お母様くらいの女性が、言った女性を慌てて窘めているのが見えた。そして、視界の端に顔を強張らせているコリンナさんも。
苦笑しながら答える。
「はい、そうなんです。私自身がしっかりしていませんから子どもは、とクリストフ様と話していたので」
それに、そもそも子どもがどうやったらできるのかということを私は詳しく知らない。クリストフ様に任せればいいからと言われていたので、そんなものなのか、と受け止めてはいたけれど。
と、気づいてしまったら気になる気持ちがムクムクと湧いてきた。知らなくてもいいと放っておいたら後で大変なことになるのだ。
わからないことはその都度聞いた方がいいと思った私は笑顔で尋ねた。
「あの、子どもってどうやって生まれるのですか?」
途端に皆の目が見開かれて、静かになってしまった。周囲を見回すと気まずそうに目を逸らされて、首を傾げる。そんな私にアグネスも続いた。
「ねえねえ、いんちょう先生。わたしもわからないから教えて!」
フェーベ様は困ったように眉を下げた。
「アグネスにはまだ早いわね。もう少し大きくなったら教えてあげる。ですが、ロスヴィータ様は……クリストフやお母様から教わってはいないのですか?」
「あ、その……お母様はクリストフ様に任せればいいとしか。クリストフ様にはそれよりも教わるべきことがあったので聞いていません」
「そうですか……。それも追々こちらで教えましょうか。クリストフはきっとこれからも答えないような気がしますし」
「ありがとうございます」
教えてくれると聞いて嬉しかった。ここでもまた、あなたは知らなくてもいいと言われるのかもしれないと思ったから。
まだ始まったばかりだけど、先行きの明るさを感じて、アグネスと二人顔を見合わせて笑うのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




