クリストフとの結婚
「……ロスヴィータ。俺に嫁いできたところで贅沢はさせてやれないが、いいのか?」
クリストフ様は私の顔を見ることなく、最後の確認とばかりにそう尋ねた。
贅沢をさせられないというのは、クリストフ様が平民の一騎士だからだろう。対する私は男爵家の娘。爵位は低いとはいえ、一応は貴族だ。だが、クリストフ様は知らないのだろうか。鍛えられた体躯と、まったく癖のないサラサラの銀色の髪に藍色の瞳で整った容姿。さらには、その実力から将来は有望だと言われているため、平民女性だけでなく貴族のご令嬢からの人気も高い、と言われている。
お母様は、『クリストフ様とならあなたも幸せになれる』と、私に言ってくれた。だから、この縁談は間違いないものだ。
もちろん私の答えは決まっている。クリストフ様が私を見ていなくても、笑顔で頷いた。
「はい」
少し間をおいて、クリストフ様は「……わかった」とだけ言った。
そうして、私が十六歳になった日に、二十歳のクリストフ様との結婚が決まった。
◇
クリストフ様との縁談を持ちかけたのは、私の家であるフリューア男爵家だ。男爵家の娘である私が、何故平民であるクリストフ様に嫁ぐようにと言われたのかというと、私に貴族令嬢としての素養がなかったからだ。
私には三歳年上の兄と、二歳年上の姉がいる。どちらも優秀で、そのためか自分にも他人にも厳しい。私はよく二人にちゃんとしなさいと叱られた。その度に庇ってくれるのはお母様だった。
『あなたはそのままでいいのよ』
『あなたの長所は可愛いところなのだから、そこを伸ばせばいいのよ』
お母様がそうやって庇ってくれるうちに、二人は私に干渉しなくなった。きっと、お母様の言う通りだと納得したのだろう。
私も最初は頑張ろうと思っていた。だけど、後継ぎであるお兄様はともかく、どうしてもお姉様と比べられてしまうのだ。
お姉様は外見だけでなく、所作も綺麗。私と同じ蜂蜜色の髪と新緑のような緑の瞳であるにもかかわらず、纏う空気は正反対だ。近寄りがたい美人というのがお姉様への評価で、私は守ってあげたい頼りなげな少女と言われる。そこには可憐ともつくようだけど、自分ではそう思いたくない。私はお姉様のように、美人だと言われたかった。
努力してもお姉様には敵わない。それなら諦めてお母様の言う通りに、そのままでいればいい。これからも、クリストフ様と結婚した後だって変わらない。そう思っていた──。