アイデンティティ・クライシス
「──」
目を覚ます。
無音の空間。
体にまとわりつく液体は一体何か。
わからない。
なにも。
名前も、顔も、声も。
自分に関する何もかもを喪失している。
何か分かることはないかと、必死に記憶をたどる。
たどる記憶すらもなかった。
なにも思い出せない。
一体全体、自分はどういう状態にあるのか。
不安に駆られ首を振るが、何も見えない。
目隠しがつけられていることが、感覚的に理解できる。
手足も縛られている。
きつい拘束ではない。
だが、長時間硬い椅子の上に固定されている影響で、血流が悪くなっているのを感じる。
あと首もいたい。
何の音も聞こえない。
耳栓が入っている。
口にも何かはめられている。
ふと、頬を流れる液に気づいた。
泣いているのか。
口の端からはよだれもたれているようだった。
いったいどのくらいの時間こうしているのか。
わからないまま、意識を底へと落とし込んだ。
次に目が覚めた時、何かが変わっていることを願う。
*
「いやだ、やめろ! なんなんだあんたら! 俺をどうするつもりだ!」
叫んでももう無駄だとわかっている。
突然拘束され、連れてこられた。
拘束され、放置されて様子を調べる実験だと、リーダー格の男が言っていた。
よくわからない。
何をされるのか。
乱暴に座らされ、手足を拘束された。
暴れても無駄だとわかっているから暴れなかった。
もう体のあちこちが悲鳴を上げている。
耳に、目に、口に、何かがつけられて、痛み以外の何も感じなくなった。
ぼろぼろとこぼれる涙は、頬から首を伝って流れ落ちていく。
暖かなその感覚は、次第に冷たいものに変わった。
痛みのせいで眠ることすらもままならない。
浮かぶ呪詛が、意識を飲み込んでいった。
* * *
目が覚める。何も変わっていない。
視界も何もかもを奪われ、何もできない。
できるのは無限の思考だけだ。
そうだ、解放された後に、小説でも書いてやろう。
思考をどこかへ逃がしたかった。
* * * * * *
もう疲れた。
いやだ。ここから出してくれ。
そう思っても、口は動かせない。
言葉にならない声が、骨振動で伝わってくる。
もういやだ。
呪詛が心の底から湧き上がる。
もういやだ。
もういやだ。
呪詛が心を満たし始めた。
もういやだ。
もういやだ。
もういやだ。
呪詛に飲まれた思考は、先ほど考えた小説の内容も何もかもを洗い流してしまった。
どうしてここに来たんだったか。
そんなことも思い出せない。
ただひたすらに、現状を恨んだ。
* * * * * * * * * * *
つらい。苦しい。
寒い。熱い。
怖い。嫌い。
どうしてこんな目に合わなきゃならない?
俺が一体何をしたというのか。
* * * * * * * * * * * * * * * *
つらい。苦しい。
寒い。熱い。
怖い。嫌い。
どうしてこんな目に合わなきゃならない?
僕は一体何をしたんだ?
*
つらい。苦しい。
寒い。熱い。
怖い。嫌い。
どうしてこんな目に合わなきゃならない?
もう思い出せない過去の私を、心の底から憎んだ。
* * * * * * * * * * * * * *
何かが切れる、音がした。
なんだか疲れてきました……。
元気出して頑張りたいと思います。
てか、修学旅行に行く話なんて修学旅行がコロナで立ち消えになった奴にかけるわけねえだろ何を企画してんだ僕は。
いや、やると決めたからには書きますよ。はい。
やります。