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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
99/124

第98話 異例の代理人3-練習試合-

やっぱ速いな……女子の比ではない。

個人個人の足の速さはもちろんだけど、パスのまわりもドリブルのスピードも。

見てるだけでは分からない速さを体感していた。

……でも。それだけじゃ、ただの傍観者だ。

「涼二!」

本日初のパスが回ってきて、それをしっかり受け取って……

あとはカットとディフェンスをうまくよけながら全速力でドリブルしてゴール下に向かって……

シュートを放とうとすると、邪魔するディフェンスの手。

うまくいけるかな……いや、うまくいく!ここまできたら、自分を信じるしかない。

ビ―――ッというブザー音が鳴って……ネットをくぐり抜けたボールが床に落ちた。

「ナイッシュ杉浦!」

「おうっ」

峯岸と片手でハイタッチして、またすぐにスローイン。そしてドリブル、カット、パスの嵐。

余韻に浸れないのが、虚しさ儚さを通り越した楽しみなんだ。


―――……


第二ピリオドも残り5分。得点は、こっちが35であっちが40……まだ十分巻き返せられる。

槙村が放ったシュートが外れ、こぼれ玉をとった敵が仲間にパスするのをカットしてすぐシュート……

一か八かのスリーポイントゾーンからのシュートだったが……

「……よしっ」

リングの上を一周して、内側に入った。

これで通算15ポイント目。外した数は……聞かないでほしい。

スローインするメンツ……もとい橋田が、何やら目配せする。……パスくれるのかな。

ボールを受け取りやすいように移動していると、誰かにぶつかった。

「あ、わりぃ」

「……おぉ」

敵だったが……無駄にデカい。もしかしたら小城よりあるんじゃないか。

橋田は、私の反対側にいる槙村にパスをすると見せかけ……私にパスをくれた。

なんとか、“代理でちゃっかりレギュラーの座を奪った見知らぬ1年生”を信用してもらえるところまでいったみたい。

……まぁ、ベンチ入りしていない応援席の1年生(2年生も少し)の視線は痛いけど……気にする必要ないよね。

だって、杉浦涼二は今日限りだもん。


―――……


第二ピリオド終了。第三ピリオドに入る前に10分だけ、作戦タイムと少しの自主練習時間……いわゆるハーフタイムが与えられた。

「得点は40対46……若干点差が気になるところだし、向こうも策を考えているようだから、蒼井キャプテン入っても油断すんなよ」

選手を集め、選手配置などの策が漏れないように小城は小声で言う。……小城だけに、小声で。

「じゃ、次のスタメンは蒼井、田中、橋田槙村、んで杉浦……いいか?」

「ウィッス」

やっと蒼井君がメンバーに入ってくる。

……でも、今では得点をとってやる、という闘志に燃えていた。

スポーツドリンクをぐいっと飲んでいると……

「杉浦……沙彩さん」

「……へっ!?」

小さく本名で呼ばれ、ドリンクを少し噴いた。

ぬぐいながらあわてて振り向く。

小城みたいな長身……副キャプテンの田中だ。

「大翔から聞きましたよ……随分無茶なことするんですね」

私のすぐ近くでそう言う。……まぁ、副キャプぐらいには知られてもいっか。

そんな思いから、苦笑いを浮かべた。

「しかし、さすが東野中の元キャプテン……男に引けをとらない技量で驚愕いたしました。……後半戦もよろしくお願いいたします」

「は、はい……」

男子高校生とは思えない言葉遣いの綺麗さに、思わず敬語になってしまった……

今どきあんな子いるんだなー……そう思って軽くシュート練をする姿を見ていると、

「コラ、他の男に見とれるの禁止」

「ハ!?見とれてなんか……」

またまた後ろから言われ、バッと振り向くと……いたずらそうに笑う蒼井君の姿があった。

「……蒼井君か……もう、何かと心臓に悪いよ……君といい、田中君といい……バレちゃったって思ったじゃんか……まぁバレてるけど……」

「今完全に“先輩に恋する後輩”だったよ。しかも両方男って……」

クックッと、笑いをこらえている様子だった……でも完全に笑っている。

「……るさいなぁ。蒼井君と同学年にも関わらず、すっごい言葉遣いが丁寧でビックリしてただけだよ」

蒼井君と同学年にも関わらず、を強調して言う。

彼は「どーせ俺は言葉遣い悪いですよ」と軽くすねてしまった。

「アイツ、ちっさい頃からなんていうか縦社会で生きてきたらしいからな……先輩とか目上の人には極端によそよそしいだけだよ。俺らタメに対しては敬語なんてつかわない、ごくフツーのしゃべり方だし」

でもまぁ、同い年にしては若干落ち着いているところはあるかな、と彼は付け加えた。

ふーん。縦社会……どんな境遇なのかは分かんないけど。

「それより、さ……いや、涼二は練習しねーの?」

「うん。基本、まとまった時間とれないときはイメトレだから」

「へぇ……なんつーか、余裕だな」

「ええ。だから中学の頃は眠れる獅子って……わっ」

いきなりボールが目の前に飛んできた。

「でも俺は、軽くウォーミングアップしてから臨む派だからさ。付き合ってよ」

「……ったく、しょーがないな……」

ボールまでよこしてきて、断れるわけないでしょう。

最近、分かり始めたことがある。……蒼井君は大人っぽいけど、少々自分勝手だ。

……でも“周りに流されやすい”より、“多少強引でも自分の意見を通す”方がキャプテンとしても人としても、案外受け入れやすいのかもしれない。……私の中では。

「パス回しだけでいーね?」

「おう」

同じチームなんだから、ディフェンスとオフェンスを分けてウォーミングアップする必要はないだろう。

パス、パス、パス……をいくらか繰り返し、彼がシュート。ボールはネットをすり抜けていった。

「んじゃ次、私がシュート入れるよ」

「オッケー“涼二”。外すなよ?」

……あ。そうだった。涼二だ涼二。

蒼井君が目の前にいると、すっかり自分の今の状態ダンソウを忘れてしまう。

……やっぱり、彼氏の前だとどうしても女の子になってしまうのかな。


軽いウォーミングアップが終わり、第三ピリオドスタートのブザーが鳴った。

ジャンプボール……は、もちろん田中副キャプテン。

第一、二ピリオドではとってきてくれたのだが……今回は、とられてしまった。

それもしょうがない……相手がデカいから。小城よりあるぞ、きっと。

その大男は、一切パスを回さず、華麗なドリブルさばきであっという間にシュートに持っていった。

ダンクシュートが決まって、2点加点……一瞬で、あの大男は向こうの“切り札”なんだって分かった。

「アイツ、国体選手の候補らしーぜ」

「え、マジで!?スゲーな」

橋田がそう耳打ちしてきた。国体……は、よく知らないが、とりあえずすごい。なんせ“国”だから。

そんな奴と戦えるとは……すっごくワクワクしてきた。

「おっしゃーっ!点とりいくぞーっ!!!」

……と言いたいところだが、なんせ代理の身……心の中で咆哮しておいた。


第四ピリオド開始。得点は60対58……こっちが2点リードしている。

あれから、田中の長身を活かしたディフェンス、橋田の安定したパス回し、槙村の短身(失礼)が魅せるディフェンスのすり抜け……そして蒼井君の打率10割(野球か)のシュートで、逆転を喫した。

もちろん、私も負けてはいない。……いや、それ以前に同じチームの間だから勝敗もないんだけど。

「おりゃっ」

スリーポイントゾーンからのシュートをうつ。

ボールは弧を描き、ゴールに吸い込まれていって……ブザーが鳴った。

よしっ、これで63対58だ。打率8割のスリーポイントシュートも、なかなかのものだろう。

「そういや、杉浦沙彩もスリーポイントの女神だって噂もあったよな……」

近くで、聞こえるか聞こえないかの声で小城が言う。

……ギクッっていう擬音語は、こんなときに遣うものなんだろう。

「……よ、よっしゃーヒロさん、どんどん点稼ぎましょーぜ!!」

「お、おう……ヒロさん?」

テンパってる私が発した“ヒロさん”という言葉……たぶん、もう一生言わないだろう。

どうしても、安○大サーカスのあの方が浮かんでくるから。……蒼井君よ、すまぬ。


試合も、あと少しで終了。

もちろんのことだが……体力が、ほぼ限界。首をつたった汗の数はもうカウント不可能だ。

でも、それはみんな同じなようで……

「橋田、マンマークズレてる。槙村は動きにムダがあるからもうちょっと考えて動いて」

「「ウッス!」」

蒼井君の指示に、汗をぬぐいながら答える橋田と槙村。

背がデカい相手のディフェンスに苦悩する田中……選手交代やタイムアウトをして少し休んだものの、この3人はほぼ出ずっぱりだ。

私と蒼井君は選手交代なしでずっとコートの中にいる。しかも、私に至っては前半からで……

……いやいや、それを考えると疲労が倍増しそうなのでやめよう。

「涼二!」

「はい!」

田中からパスがまわってきた。

渾身の力をふりしぼり、ゴールへ一直線にかけていく。

狙うはもちろん、得意のスリーポイントシュート。

ディフェンスの数、ゴールまでの距離、角度……すべてを計算して……

「……うらぁっ!」

ジャンプしながらボールを手から放った。

ボールはバックボードに当たらず、ザシュッとネットを抜けた。……私のいちばん好きなシュート。

大きく息を吐き、そして吸う。その間にも、ずっと心臓はドクドク波打っていて……

「よっしゃー!ラスト3分、はりきってくぞー!」

自分にも仲間にも渇を入れるつもりで叫ぶ。

相手チームは「なんだコイツ」みたいな顔で見てるけど……

「……おうよ!!総体での雪辱晴らそーぜ!」

槙村を始め、チーム全体は引き締まった。

相手チームも、負けじと盛り上がって……ああ、やっと練習試合っぽくなったな、って。

2チーム同時に盛り上がって、高めあって……最後は、どのチームも笑顔で終われる。相手のいいところを盗めて終われる。

メンツも普段の練習も違う学校同士が、切磋琢磨できる機会であるのだから。




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