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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第95話 夢の中で

さっきは、なんか怪しくなりそうな雰囲気だったけど……

その後、家の近くにあるファミレスに入り、なんとかいつもの雰囲気に戻った。

いつもの雰囲気……というのは、くだらない話で盛り上がったり笑い合ったり、という感じ。

「ユウヤが彼女とケンカしちゃったみたいでさ、ユウヤ超ヘコんでんの。なんでだと思う?」

「え?なんでだろ……美玲ちゃんが何か言ったの?」

「そう!「アンタみたいなオッサン、もう知らない!」って言われたんだってさ。コンビニ入ったとき悲しい目で育毛剤見てたよ」

「言うねー美玲ちゃん」

こんな感じの話ばかりで……すっかり、不安な心も溶けていた。


でも……そんな心はすぐに、また出てくる。

「おじゃましまーす」

「どーぞどーぞ」

それは、蒼井君を家に入れてから後のこと。


「でもいーのかな。勝手におじゃまして……」

「ん、大丈夫だよ。お母さん、こんな時間から現場検証するとなったら次の日のお昼まで帰って来ないし……あ、そこのソファに座ってて」

若干緊張しながら、クーラーをつけて2つのグラスにお茶を注ぐ。

両親はいない、完全に2人っきりの空間……なんだか、妙にドキドキする。

お茶を注ぐのだって、少しままならない。

「手伝おっか?」

「いや、いーよ」

……対して、蒼井君は余裕のその一言……もしかして、緊張してるのは私だけなのかな。

……まぁ、今更緊張したっておかしいかな。

「お待たせ!はい、どーぞ」

「ありがと」

お茶と冷蔵庫にあった少しのお菓子が乗ったおぼんをテーブルにのせ、グラスを持って蒼井君の横に座る。

目の前にあるテレビの電源を入れると……

『恐怖の心霊映像ランキング、続いて第25位!』

真夏にぴったり、心霊番組の特集。

始まってすぐのせいか、順位がまだ下の方。映像もCGらしいものばかりで……

「ちょっと風呂入ってきていい?」

「あ、うん。いいよ」

まじまじとテレビを見ている蒼井君にそう言って、風呂場へ向かう。

……付き合うことって、2人っきりの空間になることさえ当たり前になってしまうのかな。

それさえ覚束ない自分って……まるで、ずっと1人で恋をしているようだ。

……すぐ壊れてしまうような、もろい仲を夢見ているようだ。

そう考えると……なぜか、異様にゾッとした。

現実には、すぐ壊れてしまうもろい仲……そんな仲に、私と蒼井君はなってしまったのだ。

おかしいな……1年前の今頃は、恋なんて、恋人なんて要らないと思っていたはずなのに。

そんなもろい仲になっていたら、時間の無駄だと思っていたのに……


―――……


テレビには、続々と幽霊が出てくる映像……言い換えると、幽霊が出てくるVTRが流れていた。

……数十分前の、不意打ちのキスを思い出す。

泊まっていかないか?という言葉に、一瞬でもヤバいことを考えた自分を……あの時に帰って殴りたくなる。

きっと、彼女には“そういう気”はないだろう。いや、絶対。

あの目を見て、分かった。

「そりゃあ、不安になってもしゃーないよな……」

ここ数週間、会うことはもちろん電話もメールもしていない。

塾でクタクタになってる先輩には1分でも長く休んでほしい……というのは建前で、ほんとは部活が忙しすぎて俺がコンタクトをとる余裕がなかった。

そのことを引退した頼れる先輩である(ということにしておこう)小城先輩に相談したところ……

「アホか!!そんなこと考えている暇あったら疲れていようが筋肉痛だろうが会いに行きなさい!!!彼氏に会えて嬉しくねー彼女なんていねーんだぞ!?」と一喝入れられた……

……そして、今。

彼女を不安を和らげるには、どうすりゃいいんだろうか……そればっかり考えている。

抱きしめる?キスをする?……いや、それじゃかえって変な雰囲気になってしまう。

大体、怖い特番見ながらそんなことするカップルっているんだろうか……

などと、悶々と考えていた。


ホラー特集もいよいよ大詰め。トップ10に差し掛かった。

意外と長風呂なんだな……かれこれ、40分ぐらい出てこない。

『続いて第9位!!』

テレビがそう言ったとき……ガッシャーンと、大きな物音がした。

急いで立ち上がると、先輩が行った方向(おそらく風呂場)に向かう。

「今すごい音したけど、大丈夫?」

一応扉に向かってそう聞くけど……何も返事がない。

「沙彩?沙彩先輩?」

さっきより大きめに声を出したが、やはり何も返事がなかった。

なんか変な胸騒ぎがする……そんな気がした。

扉を開けると……奥に洗剤やら掃除用具などが散らばっていて、バスタオルを巻いた先輩がうつ伏せで倒れていた。

「ちょっ、どーした!?」

慌てて近寄り、先輩の肌に触れると……すごく熱かった。首に手をあててみると、脈の速さも尋常じゃなかった。

のぼせた?いや、ただののぼせじゃない。顔を見たらすぐに分かった。

とりあえず、なにか着るもの……咄嗟に目についた、ハンガー掛けのバスローブを手に取り、床に広げて沙彩先輩をその上にのせて、袖に腕を通させた。

前身ごろを閉じ、バスタオルを抜き取って帯をしめた。これで一応湯冷めは防げる。

沙彩先輩を抱き上げると、次は元のリビングに戻ってソファに寝かせた。

「冷凍庫……勝手に使ってもいいかな」

……いや、使わせていただきます。ごめんなさい。

心の中でそう謝ると、ポリ袋に氷を入れた簡易氷嚢をタオルで包み、先輩の首の下にすべりこませた。

もしかしたら、熱があったのかもしれない……あの熱さは尋常じゃなかったから。

そんな仮定が生まれ、氷枕を頭の下にいれて冷却シートを額に貼った。

これでひとまず安心……と思ったとき、ものすごい悲鳴が聞こえビクッとなった。

「……なんだテレビか」

画面は、トップ5を終えてトップ4に差し掛かっていた。


―――……

風呂場で、いきなり意識がとんじゃって……気がつくと、なぜか毛布にくるまれててソファの上にいた。

「あ、起きた?大丈夫?」

心配そうに覗き込む蒼井君。首元にはひんやりした感覚……

それになんでだろう。体がだるくて全然動けない。

「テレビ見てたらすごい物音がして、行ってみたら倒れててこっちに運んだんだけど、全然目も覚まさないし熱もとれてないし……もしかして、風邪でもひいた?」

時計に目をやると、もう12時をまわっていた。

……こんな時間まで、ずっと看ていてくれたんだろか……

「……ん、そうかも……風邪なんてめったにひかないけど………ごめんね、迷惑かけて……」

「ううん。彼女だし、全然迷惑じゃねーよ」

なんて言いながら優しくほほえんで頭にポンと手を置く。

当たり前のように「彼女」と呼んでくれること。

私1人が恋をしているわけじゃない……両想いだってこと。

途轍もない……安心感。

……私はずっと、“くだらない”“時間の無駄”と思い続けた恋人関係の裏にこれがあることを望んでいたのかな。

「へへっ……ありがとう、蒼井君……大好きだよ……ずっと一緒にいようね……」

……きっと、そうだろう。

だって、こんなにも愛しさがあふれて心地よくなれるんだから。

そう思いながら、再び、眠りについた。


―――……

次に目を覚ますと、すっかり気分は晴れやかになっていた。

すっごく気持ちいい夢を見ていたような気がする………もう、覚えてないけど。

「あ、ただいま。沙彩。元気だったか?」

ご飯を作りにキッチンへ向かうと……モッサリしたおっさんがいた。

「……えと、誰?」

「数ヶ月ぶりに再会した父親に向かって誰とは失礼な」

「あ、お父さんか。どしたの?」

「どしたの?って……休暇に決まってんだろ。お前こそ、どしたんだよ。彩華のバスローブ着てさ。それ、あいつの一番のお気に入りじゃないか?まぁ何を隠そう俺がプレゼントした……」

あ、ほんとだ。私、お母さんのバスローブ着てる……でもなんで?

……そういや、脱衣場で倒れてから記憶が全くない……

あ、そうだ、蒼井君……

「お父さん、蒼井君見なかった?」

「蒼井?ああ、あいつなら俺が帰ってきたとき帰ってったぞ。なんかひどく眠そうだったが……」

うそ……じゃあ、私が倒れてから彼を放ったらかしにしてしまったのか?

いや、もしそうだったら脱衣場で寝起きしたことになるだろう。私は。

……しかも、脱衣場ではバスタオル一枚だったよ、私。でも今はバスローブ……

……てことは……

「そういやお前、ピンピンしてっけど風邪ひいてるんじゃなかったのか?あの蒼井が言ってたけど……」

……あ、蒼井君が倒れてる私を見つけてバスローブに着替えさせて夜通しで看病してくれたってこと!?

「って、やっぱお前顔蒼いじゃん。寝とけ寝とけ。塾サボれ。彩華には内緒にしてお……」

私は風の速さで自室に戻りケータイを取り出した。

それから、私が蒼井君に向けての謝罪メールを送ったのは……言うまでもない。




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